だから俺は頑張れる
「───っていう感じかな」
懐かしい思い出に蓋をして、ひとしきり言い終わった俺はふとテレビの画面を見る。
俺の思い出話に合わせてくれたのか、白と黒と字幕と無駄に耳に残るバラードの曲が流れていた。
「これから現れるかもしれない「読みたい」と思ってくれる人間じゃなくて、結局のところは睦月の「読みたい」って姿を見たいから頑張ってる。金も大事だが、俺にとってはそれが一番の願望だ」
誰がためではなく、己を支えてくれた彼女のために。
もし俺があのまま一人で抱え込んでいたら……俺はどうなっていただろうか?
睦月ではなく和葉や両親に弱音を吐いて慰められ、こうして同じように前に進んでいただろうか? それとも、一人で勝手に潰れて志半ばで折れてしまったのだろうか?
仮の話をすれば違った未来が見えてくる。脳裏に浮かび上がる今とは違う結果に、もしかしたら今の俺は殺されていたかもしれない。
(まぁ、そんなこと考えなくても今は睦月がちゃんと側にいるから……)
考えるだけ無駄だと、思い出話と共に浮かび上がった不安を振り払う。
「そ、そうなんですね……」
「ん? 照れてんの、睦月?」
視線を下げれば、俺の腹を枕代わりにしている睦月の顔が朱に染まっていた。
顔を覗き込むとさり気なく視線を逸らされ、一向に琥珀色の双眸を合わせようとしてくれない。
「だ、だって仕方ないじゃないですかぁ……私のために頑張ってくれるって言ってくれたんですよ。嬉しくないわけないもん……」
「というより、睦月が「頑張れ!」って背中を蹴ったんだろうが。だから、睦月を理由にすることは全然おかしくない。っていうか、今思えば睦月も忘れちゃいかんでしょ」
「……まさか、その時の言葉がここまで影響があったとは思いませんでしたしぃ」
どうやら、睦月が顔を染めている理由は照れと嬉しさが混じった結果らしい。
それはそれで嬉しいような、可愛いと愛でたくなるような……なんとも複雑な心境だ。
「ここで一つ、睦月にあっと驚く情報が」
「……何ですか?」
「実は俺、正直なことを言えば───この時、睦月が好きだって自覚しました」
「ッ!?」
互いに付き合い始めて数ヶ月。告白は睦月からで、言葉なんて「好きです、付き合
ってください」だけだった。
それに対して俺も「お、俺も……睦月のこと好きだった」という返しをしただけ。
今にして思えば、どのタイミングで互いのことを好きになったのかって言ってなかった気がする。もちろん、どこが好きかは散々口にしたが。
「……幸せ過多です」
「言ったろ? 面白い話じゃないってさ」
「面白くはないですけど……胸が温かくなる話です」
「この映画みたいに頭のおかしいエンドロールでも流すか。この話はもうお終いだし」
「それは却下です。終わらせたくありません」
「えぇー」
といっても、もう話すことなんてないんだけどなぁ……?
「だから先輩……ちゅーしてください」
「脈絡」
「脈絡なんてどうでもいいですから……先輩のせいで、先輩のことがもっと好きになりましたもん。この衝動を早く埋めてほしいです。じゃないと、今すぐ襲いますよ?」
「わぁお、男らしい言葉」
仕方ないなと、嘆息しながら俺は睦月の顔に己の顔を寄せる。
されるより自分からしにいく方が羞恥はない。あるのは、どうしようもないくらいの愛おしい気持ちと、触れたいという心。
嘆息という言葉は、俺の中では素直じゃないという言葉とイコールだ。
睦月が目を閉じ、俺は合わせるために目を開ける。
存外、ドラマやアニメでよくあるキスシーンは互いに目を閉じることが多いが、現実ではそうはいかない。
どちらかが触れにいかないと、綺麗に唇を重ねることなど難しいのだ。
付き合い慣れた人間ならともかく、いくら仲がよくても所詮は数ヶ月の付き合いと、ギリギリ数えられるのでは? という程度の回数のみ。
大それた芸当など、重ねた後にしかできない。
「んっ……」
艶かしい声が睦月から漏れる。
とても中学生とは思えない声だったが、触れた柔らかい感触は年相応のみずみずしく柔らかいものであった。
「……そういや、睦月が俺を好きになった時の話って聞いたことねぇや」
一秒にも満たない時間が過ぎ、俺は顔を離した。
「……先輩の頑張っている姿をいつの間にかってやつです。明確な瞬間なんて、覚えてないですよ」
顔を離し、睦月の顔を見る。
そこには小さく笑みを浮かべ、目が蕩けている可愛らしい睦月の顔が広がっていた。
「こういう思い出話も、立派なラブコメですよね」
【付き合ってからしてみたかったこと】
✖手を繋いでみたい
✖一緒にご飯を食べたい
✖食べさせ合いっこをしてみたい
✖お家デートをしたい
・たまにでいいからハグしてみたい
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