睦月と待ち合わせ
付き合ってからのデートで男が気をつけなければならないことはいくつかある。
まず、目的が定められているのであれば入念なプランを組み立てること。
女性を退屈だと思わせてはならない、スムーズに女性楽しませる───初デートに限らず、付き合い慣れた人間でも気をつけなければならないポイントだ。
いくら互いの愛情が深くとも、ちょっとした不安や不満が積み重なれば大きな亀裂となる。それを避けるためにも、デートという形で出かけるのであればこのような小さなことにも気をつけなければいけない。
初デートならなおさらだ。プランを立てておいて好印象を与えることはあれど下がることはない───変な場所や細かい時間で引っ張り回さない限りはだが。
他には己の態度や予算を多めに持っていくなど多々ある。
幻滅されたくなければ、ネットや週刊誌でデートにおいての注意点を学んでおくといいだろう。
あぁいった記事や言葉は決して個人の主観の話だけではなく『経験』を元にして作られているのだ、先人の言葉ほど頼もしい言葉はない。
かという俺も、睦月と付き合い始めた当初───いや、付き合い始める前から必死に勉強した。
こっちとら、睦月と付き合うのが初めてで女性経験など皆無に等しい。
勉強しなければ、どこかで睦月の印象が下がっていた可能性があった。そう考えれば、世の好きな女の子がいる男性諸君は本当に勉強してほしいと切に願ってしまう。
彼女はいいぞ。それを手にしたいなら勉強あるのみだ。
「さて、と……」
週末、地元の駅の改札前でスマホ画面を開く。
時刻は十二時前。休日の、それも昼時だからなのか、改札前には多くの人だかりができている。
駅のアナウンスが待ち時間を潰すようなBGMとして耳に入ってきてしまう。
「先輩〜! お待たせしました〜♪」
そんな時、タイミングを見計らったかのように人混みの中から見覚えのあるメッシュを入れた少女の姿が現れた。
背伸びをしているかのようなヒールを履いているにもかかわらず、小走りでくる睦月はどこか子供のようで可愛らしい。
事実、大きな括りじゃなくとも子供の年齢なので間違ってはいないのだが、これから遊園地にでも行くような子供に見えてしまったのだ。
「おう」
睦月が近くまで来ると、小さく片手を上げて反応する。
待ち合わせ時間の十二時ギリギリ───というより、ほぼぴったしだ。
「先輩、待ちました?」
「んや、今来たとこ」
デートで気をつけなければならないことの一つに『男は女を待たせてはいけない』というものがある。
映画やドラマ、アニメでよく見ることでベタだと思うかもしれないが、これはとても重要なこと……なのだと学んだ。
男だから、女だからなど関係なく、好意を寄せる相手に好感を持ってほしいのであれば第一に『不快に思わせてはならない』。
これは先も述べたが、不快に思われてしまえばプラスに転じることは並大抵のことではない。
マイナスとプラスの値は必ずしも同じではなく、常にマイナスの方が大きい数値として世は浮上している。
犯罪者が善行をしたところで悪印象が拭えないのと一緒だ。一度不快にさせてしまえば、デート中に限らずマイナスの印象が大きくなり強く残ってしまう。
そうならないためにも、不快に思われる行為はしないべきだ。
一時間以上も前に着け───なんてことは言わないが、三十分前後に着けばどう転んでもマイナスにはなり得ない。
「といいつつ、本当は何分前に来たんですか?」
「十分ぐら───」
「三十分前ぐらい前からに来てたんですね」
「男の見栄を看破するのやめない?」
……でもね、たまにこうして見破ってくる女の子もいるから。その時は正直に答えましょう。
「先輩……私に隠し事なんて通じないんです。正直に言ってくれれば、私は常に先輩を褒めて甘やかして、家族のいない家に連れてってあげしょう」
「後半一つは貞操危機を感じるから遠慮しとくわ」
「まぁ、それは置いておいて───」
「置いておくんだね」
捨て去って欲しかったわ。そんで十八超えたぐらいに思い出してほしい。
「先輩のそういう紳士的なところ、私は大好きですよっ♪」
「……さいですか」
満面の笑みでそう口にする睦月を見て、少しばかりの照れが浮かんでくる。
時は金なりとはいうが、三十分ぐらいの時間消費なんてこの言葉だけで簡単に対価として釣り合ってしまう。
男とは、何とも安い生き物なのだ。
「じゃあ、早速行きましょうか先輩!」
そう言って、睦月は俺の手を引いて改札へと向かっていく。
今日は『付き合ってから』のラブコメを教えてもらう対価として約束していた睦月の買い物に付き合う日。
ここから数駅離れたショッピングモールへと足を運ぶことになっている。
買い物に付き合わされるだけだが、こうして手を握られ二人で出かけるのだからこれも立派なデートだろう。
(にしても、下着かぁ……)
デートで予定を立てておくのが男の気をつけなければならないことではあるが、どうにも『下着を買いに行く』という目的があれば予定を立てにくい。
というより、少しばかり憂鬱である。
「〜〜〜♪」
そんな俺の気など露知らず、手を引く睦月の顔は大層ウキウキとしていらっしゃる。
これで俺の憂鬱さで水をさすようなことがあれば、俺は今まで学んできた『必見、男としての定義(※デート版)』という記事の作成者に謝罪しなければならないだろう。
だから───
「下着は控えめな色で頼む」
こうして、冗談めかして憂鬱とした気分を吹っ飛ばそうと試みた。
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