第12話 火星の海にはタコがいる

★創世歴20,200年★

★聖紀1,860年★

そして

★復活歴2,100年★


 「いや~、レーラちゃんの顔を見ると疲れが吹き飛ぶよぉ~」

 陽気なお声がハルティアうちのお店に響いて、多くのご主人様お客様たちがビクっとされたのだけれど。


 久し振りに、ヨハン様がお帰りご来店になられたのよ。

 ヨハン様はゴールデン・ビクセンという名前で呼ばれる海賊船の水兵さんをしていて、遠くの海までお仕事海賊に出かけられてたみたいなの。

 でも、ね。

 乗組員の水兵さんや海兵さんたちが。

 「俺たちは海賊だぜぇ」

 と、おっしゃるのはハルティアうちのお店の中だけ。

 いつか見掛けた美少女艦長ナナオさんに、海賊船だなんて言ってるのを聞かれると。

 「わらわは海賊船の船長ではなくて、私掠船の艦長じゃ」

 って、怒られるのですって。

 違いは判るけど、どっちがどうなのかなんて船乗りじゃないと関係ないわぁ~。

 あたしたちメイドにとっては、お仕事がどうであれ素敵なご主人様であることに変わりは無いもんね。

 「ご苦労様でございますぅ~、ご主人様ぁ~♥」

 本当に疲れたと言うお顔をしておいでなので、反射的にそう言ったのは本心からなのよぉ~。

 もおぉ~~。

 ザぁとらしいなんて顔をするんじゃないわよ、セルマったらぁ~~。

 隣のテーブルでちゃんとアルフィー様のお相手をしてないとしくじるわよぉ~~、知らないんだから。

 「しばらく、お帰りになられないからぁ~。レーラは本当に心配してたんですよぉ~❤❤」

 あたしも、ザぁとらしいかしら?と思うけど。

 ご主人様のお帰りご来店が無ければ、メイドとしては心配するのが当然よねぇ?

 「おぅ、そいつは心配かけて悪かったなぁ」

 嬉しそうなヨハン様はポケットから何かを取り出して、あたしに渡して下さったのだけど。

 「レーラちゃん、それが何だか判るかい?」

 訊かれて、あたしは小首を傾げちゃったのよ。

 透明度は無いけど、綺麗な球形で表面には膜がかかっているような艶がある。

 真珠のように見えるけど、色合いがぜんぜん違うのよねぇ。

 いぃ~~えぇ、高価な真珠なんか持ってないから判んないんだけどぉ~。

 だって。

 シモザシ一帯の海では真珠貝なんか育たないから、ヤマトゥの支配下にあるイソ地域でないと上質な真珠が獲れないらしいのよ。

 いくら、あたしたち大耳族が長生きで多少の蓄えがあろうと、真珠そのものが希少品とあっては簡単に入手なんかできないわ。

 で。

 ヨハン様が取り出された玉は、中で色の着いた水とか炎とかが踊っているような感じがするのよ。

 「う~~ん。レーラ、わかんない」

 上目遣いで、少し胸元が見えるようにテーブルに乗り出してヨハン様のお顔を見上げる。

 あ?

 何よぉ~~、セルマぁ~~?

 知らないモノを知らないと言ったからって、笑う事なんかないじゃんか?

 「そうだよなぁ。俺だって初めて見せられたら、何だか判んないもんな」

 う~~ん。

 ヨハン様は、やさしいのよねぇ。

 ほら、セルマも見習いなさいよ?

 「それでぇ~?」

 「それな、タコの真珠玉なんだよな」

 「はぇ?」

 あたしの声にセルマが噴き出し、仲間のメイドたちも釣られて笑い出しちゃった。

 何で、店中に爆笑が響くのよぉ~~??

 あたしだって、此のフソウの国に住むようになってからはタコくらいは見たことあるわよ。

 でも、フソウのタコが真珠玉を持っているなんて聞いたことなんかないし。

 「ほんとの話だぜ。ただし、火星のタコの真珠玉だけどな」

 真面目な話だとおっしゃって。ヨハン様は今回のお仕事海賊行為について、あたしレーラに教えて下さったのよ。


          *****


 「この辺の海で頻繁に仕事をしておると、獲物がいなくなるのではないかえ?」

 美少女艦長ナナオが、俺の顔を見ながら小声で呟いている。

 「う~~ん。ちょっと暴れ過ぎてるか?」

 ノアは、ビッキーの顔を見て訊いてみる。

 いまのところは、俺がアングル海軍の水兵として生きていた世界の時間軸に存在するモナルキとガリアの軍艦を狩っているだけで、おかの都市は襲っていない。

 それでも足りなければ、同じ世界の南の海に出張って行けば獲物は十分に残っているが。

 俺が乗艦する前に、既にナナオたちが、目ぼしい処は襲ってあるということか?

 ビッキーも考え込んでいる様子だけれど、どうしてナナオはビッキーに質問しないんだろうな?

 コイツナナオは未だに上位の神格をもつビッキーに怯え切っているようだけれど、俺だってビッキーと同じレベルの神格を持ってるんだぜ?

 それに。

 ゴールデン・ビクセンでの乗艦歴キャリアは、お前のほうが遥かに長いぞ?

 艦長として本艦ビクセンに乗ってるのは怖くないけど、実態として艦を仕切っているオーナービッキーのほうは怖いってのは判らない。


 今日は、ナナオの艦長室で営業会議海賊計画を開催中だ。

 ノアたちが囲んでいるテーブルとは別に、隔壁に付けられた事務机ではジャミーレが尻尾を振りながら紙の海図や地図・・・・・・・を積み上げている。

 このゴールデン・ビクセンでは、ビッキーが組み上げた情報システムによるモニターを使うことができる。

 だけれど、顔を突き合わせての相談事は。

 みんなで一枚の紙を囲んで確かめ合うほうが誤解が少ないだろう、というのが俺の考えだ。

 「あのぉ~、コレって何処の海図ですか?」

 珍しいことに、ジャミーレが一枚の紙を手にして思案顔で質問をしてくる。

 艦長専属の秘書官としては、自分が知らない情報が出てくるのは不安材料と言うところらしい。

 どうせ。

 航海術にも操艦にも携わっていないのだから、知らなくたって問題は無いだろうと思うのは俺だけか?

 ま、俺も何処の海図か知らないけれどな。


 「それか。火星マールスの海図だよ」

 ビッキーがサラリと言ってのけるけれども、ちょっと話が飛び過ぎてないかよ?

 何処で聞いた与太話だったのか、誰が言ったのかも忘れてしまったけれど。

 確か、火星にはタコが棲んでいると聞いた気がする。

 俺が口に出してそう言うと。

 「わらわは、タコなど食せぬぞ」

 まぁた、ナナオが飛んだ話を更に蹴飛ばすときたもんだ。

 そこそこの付き合いにはなったが、妖狐族の思考回路がどうなっているのかは理解できそうに無い。

 アタマが痛くなるような気がするけれど、口に出せばモラハラだかセクハラだかになりそうなので止めておく。

 文字通り同じ船に乗り合わせている仲間同士で、揉め事なんか起こす必要は無いからな。

 「ふん。そのタコどもが、お宝を持っていても放っとけるのか?」

 「あたし、タコさん大好きですよぉ~」

 ビッキーが聞き捨て成らぬ情報を漏らすと、すかさずジャミーレが喰いついた。

 余程に嬉しいと見えて、尻尾がバタバタ振られている。

 お前はモナルキ海軍やガリア海軍の水兵たちだけじゃなくて、タコも喰うのかと思うけれども口には出さない。

 「あのヌメヌメした足で絡まれて、吸盤でチューチューされるのが」

 ・・・。

 俺は頭上の甲板天井を見上げて、アタマの中をからにする。

 タコが一杯、タコが二杯・・・百まで足せば五千と五十杯。

 これだけは、方程式でやってはいけない。

 ・・・。

 ビッキーに睨まれてジャミーレの尻尾が垂れ下がっていくし、足元の甲板デッキのほうには新しい染みが広がってるような気がする。

 ジャミーレも、最近では清浄魔法クリーンを使えるようになったらしいから、後始末については考えないことにしておこう。

 どっちにしても、此処艦長室は俺のキャビン船室ではない。

 おい、ナナオ。

 大口開けてブルブルと、専属秘書ジャミーレの秘密を知った喜びに打ち震えているんじゃないよ。

 「このたわけ者がぁ~、崇高なる妖狐キツネがタコ如きにもてあそばれてどうするのじゃぁ~!」

 あ、そっちのほうのブルブルね。

 で。

 「で、火星のタコが何だって?」

 ジャミーレの粗相ちびらは、見なかったことにしてやろう。

 大耳族でも小耳族でも人前で粗相なんかしないけれども、そういうのが妖狐族の習慣だというのを、俺が知らないだけなのかもしれないし。

 ジャミーレひとりだけの性癖だとしても、個人の趣味嗜好は俺の関知するところでは無い。

 俺はビッキーに向かって、強引に話を引き戻したのだが。


 「火星にも、こちらと同じような海があるんだよ」

 ビッキーも、素知らぬ顔で、子供にも理解できるような話を始める。

 「ふむ。海があるなら、タコもおろうな」

 ナナオが解ったような顔で言う。

 俺はまたもや、アタマが痛くなるような気がしてくる。

 どれくらい大きな星だか、降りて現地を見た事は無いけれど海くらいは、あるのだろうよ。

 タコがいてもいいさ。

 そんでもって。

 タコが宝物を持っていたっていいさ。

 そんなのは、タコの勝手だからな。

 問題は。

 そのタコとやらが、どんなヤツかということだ。

 「火星のタコは。みずにも棲むが、おかにも棲める」

 ビッキーが、勿体を付けるようにして言葉を区切る。

 「陸に上がって、むらを造って。他部族との生存競争せんそうで、変化へんげの術を使うのさ」

 うん。

 こちらの海にいるヤツタコも周囲の環境に合わせて模様を変えたり、海藻に化けるくらいはするからな。

 俺の考えを読み取ったらしく、ビッキーが口の端を上げて自分の顔に人差し指を向けている。

 「あたしの記憶を読み取って、あたしが惚れた男に化ける」

 話を聞きながら飲みかけていたコーヒーを、噴きそうになる。

 「あたしの記憶を読み取って、あたしが殺した男に化ける」

 そいつは、剣呑などというレベルではないぞ。

 此処にいる俺たちならば、相手タコが化けたという事に気付けるし、化けるのが商売の妖狐族なら騙される事も無いだろうけれど。

 小耳族の水兵や、妖狐族ではない立耳族の海兵では太刀打ち出来ないだろう。

 「惚れた男の言う事ならば、何でもするという気持ちにさせる」

 俺はビッキーの顔を見つめながら、自分の首に指を滑らせて確かめる。

 「うちビクセンの水兵や海兵ならば、惚れた女タコの言う通りに仲間を裏切る殺すということか?」

 「裏切りじゃなくて、当然の行為としか思わないだろうね」

 神格を持つビッキーは、好悪の感情を持ち合わせていない。

 表面だけ見ていれば、気が強い美女としか思えないけれども。

 神々は。

 俺も含めて、自分の都合だけで行動をする。

 大耳族・小耳族・立耳族をひっくるめた「人間」たちとは異なるレベルで物事を考えるビッキーが、善悪や好き嫌いの感情など素っ飛ばして言う事ならば事実だろう。

 「それくらいの事ならば、わらわにも出来るぞえ」

 ナナオが見当外れの台詞を挟むけれど、妖狐ならやりそうだなと納得している場合では無い。

 ろくすっぽ魔術も使えない本艦ビクセンの水兵や海兵たちに、そんなのを相手に戦闘なんかさせるわけにはいかないだろう。

 「おまけにさぁ」

 ビッキーが気怠そうな口調で、付け足してくれる。

 「そのタコは相手を化かして、弄んだ挙句に喰らうのさ」

 まったく、結構なお話で。

 何処の神様だよ、火星を管轄しているヤツは。

 まさか、俺じゃぁなかったよな?

 「あのぉ~」

 下着を着替えてきたらしいジャミーレが、隔壁から出て来て手を上げている。

 甲板のほうは、清浄魔法に加えて砂を撒いて消臭スプレーで誤魔化すらしいが。

 今度は何を言い出すつもりだ?

 「あいよ」

 ビッキーが面倒くさそうに、おいでおいでをして見せる。

 「それで。そのタコさんが、どんなお宝を持ってるんですか?」

 お。

 いい質問をするじゃないか、ジャミーレ。

 お前も、海賊船の艦長秘書官だけのことはあるってことか。

 

 「タコが自分の魔力を込めた真珠玉?」

 俺も、うっかり喰い付いてしまった。

 ビッキーがニヤリと笑って、俺を見る。

 「霊力玉と言うんだが。その玉を食えば、どんな姿にでも変幻自在」

 そう云う趣味のヤツには、高値で売れるかもしれないけれど。

 悪用されたら、一般の警備隊レベルでは対処できないだろう。

 「その玉を食えば、健康増進で不老不死」

 まぁ、馬鹿なヤツが高値を払うかもしれないけれど。


 千年くらいはいいだろうさ。

 それくらいあれば、やり残した仕事でも趣味でも学問でも成し遂げることができるだろうし。

 だがな。

 それが、五千年が一万年となり。

 ビッキーやノアやソフィアや、あるいはナナオと同格程度の妖狐のように。

 三千大千世界が滅するまで、死ぬことが出来ないとなれば。

 それだけの時間の重みに耐えられるだけの気力を持ったヤツが、小耳族や立耳族の中に、どれくらいいるかは大きな疑問だ。

 何処かの世界で、そんな戯言ホラをネタにして金集めをしてる輩がいるような記憶があるけれどな。

 百歩譲って、不老不死を実現できたとしても。

 時間の重みに耐えきれなくなった信者たちの始末は、どうするつもりかと訊いてみたいものだ。

 俺の考えを読んだらしいビッキーが、首を横に振りながら言う。

 「上級魔法を使える才能が無い者にとっては、ただの変わった真珠玉なんだけどさ」

 それならば、うちビクセンの水兵や海兵にとっては単なる宝石か。

 いやいやいや。

 火星のタコと遣り合う前提で、話が進んでるんじゃないか?


          *


 「ガリアの農場で芋掘りをしたいじゃと?」

 ナナオが理解できないと言う顔で、ビッキーを見ている。

 なんだかんだで、火星のタコから真珠玉を頂戴すると言う話になったのだけれども。

 「できれば、ドンパチではなくて交易で話を付けたいんだよ」

 ビッキーも、たまには真面まともな事を言う。

 本艦が、海賊船でも私掠船でも良いけれど。

 面倒な事をせずに、穏便にブツを入手できれば万々歳だ。

 「以前にも、交易をしたタコがいるし。そいつが生きててくれりゃぁ助かるな」

 ビッキーもドンパチよりは交易のほうに重点を置いているようだ。

 ほら、ナナオ。

 こんな場面で膨れっ面をするんじゃないよ。

 「本艦ビクセンは拿捕免許状持ちの私掠船じゃ!」

 その拿捕免許状を発行した国の権威を、火星のタコたちが認めるかどうかは知った事では無いらしい。

 戦闘して略奪してこそナンボじゃと言い張るナナオに、艦内商店街で買っておいた稲荷寿司のパックを手渡す。

 最近、メイドカフェエリアスからの紹介で、アキバのテイクアウト専門店が艦内商店街に加入してくれたのだ。

 ハルティア・グループの系列らしいけど、フソウでは全域で豆腐も喰うし油揚げも喰うという。

 割り当てられた個人用キャビン船室で、アブナイ映画を観ながら何か食いたいという乗組員たちには好評を博しているらしい。

 「ふん、買収などには応じないのじゃ」

 口とは裏腹に、ナナオは七本の尻尾を振りながら稲荷寿司に喰い付く。

 おい、喰えないんだからパックは外せよ。

 はいよと、ジャミーレにも稲荷寿司のパックを出してやる。

 パールサ風の胸元ガバの女官服を着た巨乳美女に涎を垂らして尻尾を振られたら、遣らないわけにはいかないだろうが。

 「あたしには、くれないのか?」

 ビッキーにまで、強請られる始末だ。

 「はいよ」

 稲荷寿司じゃなくて、芋掘りの話をしてたんじゃないのか?

 「それで、どうしてガリアの農場なのじゃ?」

 「コロールは、ガリアの特産品なんだよ」

 ナナオとビッキーが、稲荷寿司を食べながら農産物の産地談義をやっている。

 これが市場いちばとか、どっかのレストランにある調理場の風景ならば納得できるのだけれど。

 海賊船の艦長室で美女たちが、芋掘りならぬポテト農場の襲撃計画をやっているのは、不思議な光景に思えなくも無い。

 ガリアの特産品であるコロールという品種のポテトは、アングル島の市場では出回っていない。

 アングルとガリアは戦争中で、本艦はガリアの軍艦を狩って回っている。

 こんな状態で、ガリアの港にノコノコで出かけてコロールを売ってくれなどと言える筈が無い。

 だけど。

 「芋掘りは楽しそうですけど、どうしてコロールが必要なんですか?」

 稲荷寿司を食べ終えたジャミーレが、指先を舐めながら声を出す。

 パックに箸が付いてた筈だが、お前は箸を使えなかったのか?

 いや、そうではなくて。

 「タコの好物が、コロールなんだとよ」

 「タコの真珠玉を、コロールと交換してもらうのさ」

 話を聞いていなかったらしいジャミーレをビッキーが睨みそうになったので、俺が説明を補足してやる。

 もう一回、ジャミーレにチビられたりしたら後の甲板掃除が面倒だろう。

 俺が掃除するわけじゃないけどな。

 

          ***

 

 「そういうわけで、ノルトマヌスにあるポテト農場を襲撃する」

 美少女艦長ナナオが集会室で営業会議海賊計画の結論について、ヨハンたち乗組員に説明している。

 隔壁の大型モニターには、ガリアを含むカレー海峡の地図!が映し出されている。   

 海図ではなくて地図だというのは、船乗りとして、何となく落ち着かない。

 アングル島の対岸にあるガリアの領土を強襲すると聞いたが、ヨハンたち水兵は陸戦隊としての訓練は積んでいない。

 軍艦あるいは商船への斬り込みはするけれど、あれは陸戦とは要領が違う。

 おまけに、農場でカルトッフェルポテト堀りをすると来た!

 俺の好みは、故郷で人気のシレーナだ。

 茹で上げたポテトをブツ切りにして、調味料や香辛料を和えて、サラダ代わりに食うという荒っぽさだが美味いんだ。

 アングル島ではメイクイーンを食ったが、コロールも同じようなものらしい。

 それよりも。

 「俺は河賊の一族の生まれで畑仕事はしたことが無いんすが、艦長?」

 「どうやってポテトを掘るのか教えていただけるんで、艦長?」

 うちビクセンは正規海軍ではないので、規律のほうは緩やかだ。

 質問の範囲ならば、艦長が怒り出すことは無い。

 俺が言い出しっぺになって、水兵や海兵から質問が出る。

 「トラクターで掘っちまえば、手間は掛からないんだけどな」

 艦長の横に立っている、胸が大きい金髪美女が口を挟むが、艦長は何も言わない。

 「トラクターってのは、魔法機械か何かのことで?」

 金髪美女の正体が判らないので、ジョンが敬称抜きの質問をする。

 「うん。機械なんだけど、機械で掘るとポテトに傷がつくからな」

 どうせ、茹でて食っちまえば同じことだろう?と思うが。

 「傷モノのジャガイモだと、火星のタコが喜んでくれないんだよ」

 ジョンは金髪美女に視線を合わされて、ブルブルしている。

 この金髪美女はビッキーと言う名前らしいが、とんでもない威圧感を身に纏っているからな。

 戦闘では敵兵を喰っちまうという美少女艦長でさえ、飼い犬のようにおとなしくしているし、航海長も一目置いている感じが分かる。

 まさか、ジョンはチビってないよな?

 「だから、手掘りで丁寧にかっぱらうんだ」

 美女からニヤリと笑顔を向けられて、ジョンはほっと息をついている。

 おい、ほっとしている場合じゃないぞ!

 敵地で真昼間にポテト掘りをするのが、海賊稼業に含まれているなんて俺は想像もしていなかった。

 いや、農家の仕事がどうこうじゃぁない。

 海賊たちがポテト掘りをしているってのを、地元の農民から知らされたガリアの当局が信じるかどうかは怪しいが。

 「ガリアの騎兵隊でも出てきたら、どうなさるんで?」

 立耳海兵のバフラム二等兵が手を上げてビッキーに言う。

 美少女艦長に訊かないというのが、この場の力関係を現わしているようだけど。

 艦長の権威は大丈夫なんだろうな?

 「その時は、海兵隊に給料分の仕事をしてもらうということだ」

 航海長ノアが断言をする。

 居並ぶ立耳海兵たちが背筋を伸ばして一斉に、アニクという名前を持つ先任軍曹のほうに顔を動かす。

 「ガリアの竜騎兵や重装騎兵が出て来ても」

 先任軍曹アニクが空中から、大型のライフル銃みたいなヤツを取り出した。

 普通の立耳海兵だと思っていたが、魔法を使える妖狐族の一員か。

 「コイツがあれば対応できるから、安心してポテト掘りに励んで欲しい」

 ニコリともせずに、銃についての説明を始める。

 「ボーイズ対戦車ライフル銃だ。13.9ミリ弾。本来はボルトアクションの弾倉式で装弾数は5発だけどな。だが、ベルト式の自動給弾に改造してある。機関銃手に支給する」

 銃身と装薬も改造して五ケーブルの距離までは確実に当てられるから、速度が出ない重装騎兵を狙うには十分なのだと言う。

 竜騎兵は速度を出せるが、そっちは軽装備なので立耳海兵が常時携帯しているL85ライフル銃でなんとかなるらしい。


 なんだかんだで。

 ゴールデン・ビクセンは戦闘旗を風に靡かせながら、ノルトマヌスにあるポテト農園に着陸・・をした。

 真昼間に空からガレオン船が降って来るというのは、ガリア人にとっては御伽噺を地で見せられているようなものだったろう。

 折しも収穫時期とあって、老若男女に子供までが畑に出て働いていた。

 ガレオン船を見て呆気に取られていたけれど、ヨハンたちが舷門から飛び降りて行くと泣き叫びながら逃げ出した。

 「海賊だぁ~~!」

 水兵の経験があるらしい壮年の男が叫びながら、農民たちに逃げる方向を指示している。

 「攫われれて奴隷にされるぞぉ~~!」

 兵役前らしい若者が、腕を振り回しながら女たちの背後に立って逃げるように大声を上げている。

 「食べられちゃうよぉ~~、おがぁじゃぁ~~ん!」

 大人の半分くらいの背丈しかない女の子が、泣きながらお漏らしをしている。

 本艦は正統派の海賊船、もとへ、私掠船なので奴隷商売はしてないし小耳族のガリア人を喰ったりはしない。

 いや。

 妖狐族の女官や立耳海兵たちは小耳族や立耳族の敵兵を喰うらしいが、今回はジャガイモ掘りが目的なので民間人を喰ってはいけないと言われている。

 逃げ出す農民たちは放っておいて、俺たちはポテト掘りに精を出す。

 掘り出したポテトは籠に溜めて、ゴールデン・ビクセンが吸い上げていく。

 周囲の畑をからにした頃、通報を受けたらしいガリア陸軍の騎兵隊が遠くの街道に現れた。

 先任軍曹アニクの見立ての通り、隊旗を風に靡かせた竜騎兵小隊が先頭を走り重装騎兵小隊が続いている。

 農場に着陸しているガレオン船を見て立ち止まるが、すぐに武器を構えて戦闘隊形を取るのはプロの軍人だけのことはある。

 「竜騎兵、銃を構えて突撃にぃ~~!」

 小隊長らしい将校が自分も騎兵用に銃身を短くしてあるカービン銃火打石式単発銃を構えて、乗馬に拍車を当てようとしている。

 「前へぇ~~!」

 号令と共に突撃喇叭ラッパも鳴って、軍馬たちが走り始めた。

 竜騎兵に続いて重装騎兵も突撃を始める。

 ベテランの先任軍曹だけあって落ち着いた態度で、アニクが海兵隊に指示を出す。

 「海兵隊、横列二段で膝撃ち用意!前列、撃て!」

 「対戦車ライフルは戦列の中央で、二脚を広げて伏せ撃ち!撃て!」

 L85ライフルを持つ海兵たちが竜騎兵を狙って弾幕を展開すると、突進しようとしていたガリアの竜騎兵たちが馬から落ちる。

 目の前の竜騎兵小隊が消えてしまった重装騎兵たちは、対戦車ライフルの銃弾で装甲を撃ち抜かれてしまう。

 これが艦同士の斬り込みだったら敵兵からの略奪も許されるのだが、敵地での陸戦となれば悠長な事はしていられない。

 「総員、艦へ引き上げるぞ!」

 先任軍曹が殿しんがりを引き受けながら、俺たちの尻を叩いている。

 艦の舷門ではヨハンたちを出迎えながら、笑顔の美少女艦長ナナオが声を張る。

 「ご苦労じゃった。海へ戻るぞえ!」


          *****


 「外部異空間通路、切り離し」

 「外部異空間通路、切り離しました」

 艦内商店街と本艦を繋いでいた異空間通路と防御障壁が切り離されて、ゴールデン・ビクセンは本体だけのガレオン船としてテルース大地の圏内から離脱できる準備が出来た。

 CIC戦闘指揮所で航海長が指揮する様子を艦内通信のモニターが映し出している。

 航海長の後ろの椅子には美少女艦長も腰掛けているが、宇宙空間での航海は航海士たちの専門領域らしい。

 ヨハンたち水兵も担当部署で待機中だが、当座の仕事は無い。

 「全区画の気密扉、閉鎖」

 「全区画の気密扉、閉鎖しました」

 「飛行石、遮蔽を解放二分の一」

 「飛行石、遮蔽を二分の一で開放します」

 「艦は上昇中です」

 「上昇中、了解」

 航海長と航海士や機関士たちのやり取りが続いている。

 テルースの拘束から脱出して宇宙空間とやらに出るには、飛行石ではなくて反重力エンジンとやらを動かすらしいが。

 反重力エンジンを地上に近いところで動かすと、地上の生物などに悪影響を及ぼすらしい。

 いや。

 此処までの話は、ヨハンにはさっぱり判らないけどな。

 「熱圏から外気圏に出ます」

 「外気圏、了解」

 航海長の声に続いて、美少女艦長の声がする。

 「本艦は宇宙空間へ出る。気密状態や艦隊の異常があれば報告してたもれ」

 航海長と航海士たちのやり取りが続行される。

 「飛翔石、遮蔽九十パーセント」

 「飛翔石、遮蔽九十パーセントです」

 「反重力エンジン、始動」

 「反重力エンジン、始動します」

 モニターの画像がCICの室内から、艦の外側の風景に切り替えられた。

 青や緑の模様で色分けされた巨大な円盤が、モニターの画面に映し出されている。

 「おい、あの丸いのは何が映ってるんだ?」

 「そうか。お前は初めて宇宙空間に出るんだったな?」

 俺の声に応えたのは、トイヴォという名の水兵長だ。

 トイヴォは本艦ビクセンに長く乗り組んでいるという小耳族の男で、俺たちの班長を勤めている。

 CICで航海長たちが何をやっているのか、説明してくれているのがトイヴォだ。

 「あれは、俺たちが住んでいた世界だよ」

 「あ?」

 思わず変な声を出してしまったが、トイヴォは俺を馬鹿にするでもなく説明をしてくれる。

 「あの丸いヤツテルースの上に、俺たちは住んでいたんだよ」

 「・・・」

 過去形で言われると、何か不安な気持ちになってくる。

 「あの丸いヤツから飛び上がってな。空の上を通り抜けて、俺たちは火星へ向かって飛んで航海しているのさ」

 「・・・」

 俺は生まれながらの船乗りだ。

 物心がついて此の方、河賊として水の上で成長した後は海賊に転職して、水の上で暮らしてきた。

 俗に「地に足がつかない生活」と言う慣用句があるらしいが、水は水なりに存在感があったような気がする。

 ん?意味が違うのか?

 ま、いいや。

 だけど。

 地面から飛び上がるまでは分かるけど、空の上を通り抜けるってのは。

 「どっかのヤツが言ってる、神々の世界へ行くってことかい?」

 「いや。火星に神様は住んでないと思うぜ」

 トイヴォはニヤリと口元を曲げる。

 火星も俺たちが住んでたテルースと同じような円盤の上に陸や海があって、タコの他にもいろんなヤツラが住んでいるのだという。

 「それでな。タコに会ってコンニチハと言って、ポテトを喰わせてやるんだとさ」

 そうか。

 火星ってのは、空に貼り付いてる赤い色した松明じゃなくてテルースと同じような平らな世界のことだったのか。

 「話が通じりゃの事だけどな。ポテトを喰ったタコのご機嫌が良ければ、珍しい真珠玉を貰えるんだとよ」

 その真珠玉を持ち帰れれば、一財産ひとざいさんになるらしい。

 やっとのことで腑に落ちた俺は、トイヴォに教えて貰った礼を言ったのだった。


          *****


 レークス・ポリュープスタコの王はグルメを自認する火星の有力者である。

 「王様ぁ~~、此の辺りに据え付ければいいんですかい~?」

 大道具職人の親方が、二階屋ほどの大きさがありそうな張りぼてを子分たちに運ばせている。

 「よぉーし。神様の乗り物は、そんなところで良かろう」

 レークス・ポリュープスはラーティクルッティ招神祭の会場となる広場の真ん中で、図面を睨みながら祭壇の据え付けを指図していた。

 大きな張りぼての前には、ポテトが盛り付けられた大皿という想定の張りぼてが並べられている。

 張りぼての横にはヨハンたちが見ればコロールという文字が書かれた札も立てられているが、此処火星の住民たちに読める者はいない。

 広場で作業する職人たちどころか見物人たちだって、何と書かれているのか知りたいと言う顔をしているが。

 レークス・ポリュープスからは、訊くんじゃないぞ!というオーラが目に見えるほどに放射されている。

 「俺だって読めないんだから、質問したヤツは反逆罪でタコ焼きにしてやる」

 いや、タコ焼きってのが何なのかは知らないが。

 昔、天から降りて来てコロールジャガイモを下さった神様のお供をしていた御使いみつかいのひとりが俺たちを見て。

 「タコ焼きにしたら美味そうだよな」

 などという事を言っていた、らしい。

 すると。

 それを聞いた神様が、怖い顔をして御使いに何か言っていたそうだ。

 その後は二度と聞いたことは無いから、神様の秘密事項である、らしい。

 どうやら、神様の住まわれる世界には、俺たちに似た姿のタコという生き物がいるらしい。

 そして。

 神様が召し上がるタコ焼きとやらは天上の食べ物であるらしく、きっと美味いに違いない。

 タコの王もグルメを自認するからには、一度は喰ってみたいものだ。

 あ、共食いは俺たちの文化には無いからな。

 まぁ、当面はコロールを下げ渡していただくためのラーティクルッティ招神祭を成功させることが優先だ。

 神様から前回いただいたコロールは、喰い尽くして残っていない。

 そのために造っているのが、目の前の祭壇だ。

 神様をお招きするには、降りて来ていただくための乗り物が必要となる。

 神様が乗って来られた大きな家のようなモノをかたどった張りぼてを造るのは毎度のことながら、細かな作業が必要だ。

 間違いが無い様に造らないと、神様は降りて来て下さらないだろうからな。

 よし。

 祭壇には神様への御供物となる霊力玉真珠玉も、金属水素の大鉢に盛り上げて置こう。

 「準備が出来たら、全員がアタマにハチマキを巻いてダンスをするぞ!」

 これも神様の御使いから教えられた知識の一つだが、タコ踊りと言う神聖な踊りらしい。

 アタマに巻くハチマキという白い布は神様への恭順と、わが身を清めたという印なのだそうだ。

 俺の号令に従って、楽隊も整列して祭りが始まった。

 大空へ向けて十本の喇叭らっぱを吹き鳴らし、ドラムを敲いてタコ踊りのリズムを奏でる。

 俺も空に向かって、特別な喇叭を吹き鳴らす。

 この一本は神様からいただいたもので、神様をお迎えする準備が整ったことをお知らせする神具だ。

 これだけは、祭祀長でもあるが管理している。

 この神具無しで神様をお迎えしようとすれば、神様を謀ったとして神罰が下されることになるから余人には任せることが出来ない。


          *****


 ゴールデン・ビクセンは火星の大気圏へと潜りつつあった。

 艦内モニターには、テルースと同じように見える、陸と海の色分けが映し出されている。

 テルースと異なるところがあるとするなら、全体的に赤い色をしてるという事だろうか。

 ヨハンは切り替えられたモニター画面に注目をする。

 「人工音が聴音ソナーに入っています」

 艦のCICに陣取る美少女艦長ナナオに向けて、航海士が報告している。

 「スピーカーに出してたもれ」

 ナナオの指示で、スピーカーから喇叭とドラムの音が響き渡る。

 パッパラパッパー・ドンドンドン!パッパラパッパー・ドンドンドン!

 「音源データに照合検索」

 ナナオが航海士に命令をする。

 「音源データに照合検索、アイ・アイ、サー」

 「タコ踊りという音楽です、艦長サー

 一瞬で照合結果を出したモニターを見て、航海士が声を上げる。

 「この音の発生位置を確認してくれ、航海士」

 そう言ったのは、ビッキーだ。

 航海長ノアの顔を見て、頷いている。

 「この音が出ている所に、商売相手のタコがいる」

 ビッキーに応えて、航海長が操艦を指示している。

 「アイ・アイ。大気圏飛行開始。飛翔石、遮蔽解除八十パーセント」

 「飛翔石、遮蔽解除八十パーセントです、航海長」

 「反重力エンジン、停止」

 「反重力エンジン、停止しました」

 「面舵、十度」

 「面舵、十度。アイ・アイ、サー」

 そこで、艦内モニターは再び外の景色を映し出した。


 地表が迫って来て、あちらこちらに集落らしい建物の集合が見えている。

 やがて、大きな広場に鎮座する帆船と群衆がモニターに映し出される。

 「おい、本艦ビクセンと同じガレオン船がいるぜ!」

 ジョンがモニターを指差して、声を上げる。

 「大砲を突き出してるけど、大丈夫なのかよ?」

 「ありゃぁ、タコが拵えた張りぼてお飾りだから大丈夫だよ」

 慌てるジョンを宥める様に、トイヴォが笑いながらジョンの肩を叩いている。

 いきなり、モニターに映し出されているガレオン船の張りぼてが火を噴いた。

 「うわ、なんだよ?」

 ヨハンが驚いて声を上げると同時に。

 「あれは取引相手の作品じゃなくて、偽物だから燃やしておいた」

 前触れも無くCICの室内から、ビッキーが説明を始める。

 偽物で本艦を引き付けて、コロールを横取りしようとする連中が多いらしい。

 それほどに、タコにとってコロールは貴重品らしいのだが。

 張りぼてに、本物も偽物もあるわきゃないやと呟く俺にトイヴォが言う。

 「本当の取引相手は、ビッキーが与えた喇叭型の発信機を持っているんだ」

 それがビーコンの役目をして、本艦の進路を教えているのだそうだ。

 「そして、価値のある真珠玉はそいつだけが持ってるんだとさ」

 「そりゃぁ、凄ぇや。教えてくれて、ありがとな」

 トイヴォの説明に、俺は幾度目かの礼を言っておいた。


          *****


 「神様の乗り物が見えましたぁ~~」

 王都を囲む城壁に付けられた望楼で、見張り役の兵士が指さしている。

 彼方の空中に、祭壇の張りぼてと同じ姿の神様の乗り物ゴールデン・ビクセンが浮いている。

 喇叭とドラムのリズムが響き、音に酔った踊り手たちの熱気と溶け合って、タコ踊りは最高潮に達しようとしていた。

 丁度の呼吸で、神様が到着されるという事らしい。

 「隣の邑で、炎と煙が上がってまぁ~~す」

 「ふん、懲りもせずに偽物の祭壇なんか造るからじゃい」

 見張りの声に、長老たちの誰かが神罰が下ったのだと口にする。

 「神様の御心は、我等の考えの及ぶ処では無い」

 は、神様の乗り物に向かってアタマを下げる。

 天の彼方にある神界の産物である貴重なコロールと、俺たちの世界火星では装飾品にしかならない、霊力玉を交換してくださる神様の御心が那辺にあるのか。

 或いは亦、どうして俺たちだけと交流してくださるのかも分からない。

 すべては、神様の思し召しとして受け取らせていただくのが穏当な処だろう。

 「くれぐれも、失礼の無いようにな」

 長老たちが悪戯盛りの若い者に注意を与えているのを見て、大事な事を思い出す。

 「お前たち。神様や御使いの皆様に対して変化の術を使うのではないぞ」


 昔。

 神様が初めて降臨された時に、神様の力を侮った阿呆が変化の術を使って見せたことがある。

 神様の目の前で、神様のお姿に似たような何者かに化けた途端に。

 その阿呆は、天から降った雷電に撃たれて黒焦げにされたのだった。

 「あたしをおちょぐるヤツは、このように神罰を下してやるからな!」

 そう言って俺たちを睨む神様の後ろでは、身体に炎を纏った御使いたちが武器らしいモノを手に整列していた。

 「あれは、神様の偉大さが分からない阿呆がやったことでございますー!」

 「二度と、神様に失礼な事は致しませんー!」

 「我らは神様のしもべとして、服従をお誓いいたしますー!」

 「お詫びは仰せの通りに致しますので、お慈悲を下さいませぇ~~!」

 恐懼して伏し拝む俺たちに。

 「お前たちが持ってる霊力玉を差し出すならば、許してやろう」

 神様は、寛大なお言葉を下されたのだった。

 寸暇を置かずに搔き集められて器に盛られた霊力玉を、嘉したもうた神様は。

 「よし。これからも服従をするなら、褒美を取らそう」

 お言葉と共に、神様もお召し上がりになるという御饌みけでもあるコロールが積み上げられたのだ。

 ・・・。

 そして、今日。

 神様が我らの邑に、幾度目かの降臨をされる。


          *****


 「飛翔石、遮蔽解除十パーセント」

 「飛翔石、遮蔽解除十パーセントです」

 「地表から五尋で、滞空静止」

 「地表から五尋で、滞空静止しました」

 航海長と航海士たちのやり取りが進んで、ゴールデン・ビクセンは火星の地表から五尋の高さで停止した。

 「目的地に到達しました、艦長サー。大気状態に異常無し。エアロックを解除します」

 航海長が艦長に報告している。

 「よし。海兵隊から、続いて上陸じゃ」

 大丈夫だよな?という顔でビッキーを見てから、美少女艦長ナナオの命令が下った。

 地上五尋の高さから、立耳海兵たちが降下し飛び降りてて行く。

 火星の引力はテルースの三割程度なので、運動能力に優れる立耳族にとって問題では無い。

 本艦の下に展開した立耳海兵に続いて、ビッキーと艦長が飛行魔法で緩やかに降下する。

 ヨハンたち水兵も、コロールの籠を積んだ飛行カートを操作しながら火星の地面に降りて行ったのだ。


          *****


「すごいですねぇ~~!レーラは火星に行ったことは無いんですよぉ~~」

あたしは、ヨハン様にお話の先を催促しちゃったのよ。

「うん。火星に降りてから、俺たちはタコに会ったんだ」

そして。 

ヨハン様は、火星のタコたちのお話を聞かせてくださったのよ。

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