第7話 艦の通路にメイドカフェの扉が取り憑く大事件

★創世歴20,200年★

★聖紀1,860年★


 シボネイ島の軍港であり貿易港でもあるポンテ・オピドムの岸壁にゴールデン・ビクセンを 繋留する許可が出た。

 交渉役の、アングル海軍の中年海尉が上手に手配をしてくれたらしい。

 さすが、ソブリン金貨の威力は大したものだ。

 いや。

 アングル海軍では、この程度のは賄賂とは言わない。

 あくまでも。

 業務を円滑に進めてもらうための潤滑油でしかないという共通認識であって、汚職などというレベルのものでは無いから、摘発されるようなことは絶対に無い。


 吹けば飛ぶような小島であろうと、陸であることに間違いは無いので、艦の補給業務と並行して乗組員たちに上陸休暇を与えるのも当然の成り行きと言える。

 ゴールデン・ビクセンの船倉は無限とも言える収納力を持っているので、清水せいすいや牛肉などを補給する必要は無いのだが、それをしないと当局に怪しまれるし地元民からの心証も悪くなること請け合いだ。

 軍艦であれ、商船であれ。

 航海の途中で、いろいろな物資や食料が不足するのは当然のこと。

 港に着けば、その不足分を補充しなければならないのが通常なので、処の商人たちが売り上げを期待するのは当然の成り行きと言えるだろう。

 その辺りは新鮮な野菜や果物とも併せて、交渉役の海尉に小遣い稼ぎをさせてやることにした。

 そういう艦のほうの業務が一段落したところで、

 ノア美少女艦長ナナオとも相談をして、小耳族ヒトのというよりは普通の「人間」だけを日帰り限定で半舷上陸させることにした。

  は、「人間」だけが住んでいる世界だ。

 立耳族や妖狐族の乗組員たちを上陸させると、シボネイ島どころか世界規模での騒動になること請け合いなので、今回は留守番役をお願いすることにした。

 一応はというか、パールサの軍艦に化けているので、乗組員たちにはそれらしい制服に見えるお揃いを着せておく。

 この海域には初めて来たという乗組員が多いので、楽しんでくるのは良いけれど、羽目を外さないように念押しすることを忘れない。

 女性乗組員はともかく、男性乗組員たちには絶対に怪しい病気を持ち帰ることのないように、軍医のローガンからも注意を与えておいた。

 私掠船、いや軍艦の集団生活で怖いのは正体不明の伝染病や感染症だ。

 それは海軍の軍艦だけではなくて、陸軍にも共通の悩み事ではあるのだけれど、根絶出来た軍隊は無い。

 もしも、そんな「お土産」を持ち帰る不届き者がいたならば。

 美少女艦長ナナオ以下、ジャミーレたち妖狐族が。

 文字通り、取って喰っちゃうぞと宣言している。

 喰っちゃう相手は怪しい病気を体内に持ち込んでいる訳だけれど?

 うん、彼女たちなら食中りなんかしないんだろう。

 俺も詳しい事は知らないけれど、妖狐族は「人間」とは身体も精神もまったく別のシステムで動いているものらしい。

 いざとなれば。

 本艦には魔法使いの看護師たちと、最新医学を修めた船医ローガンが揃っていることだしな。

 ナナオのほうは、妖狐族には珍しい純情派を気取って。

 「嫁入り前のわらわには、何の話か分からぬぞ」

 などと言っている。

 それって、知ってるんじゃないのかよ?!


 上陸休暇と並行して、拿捕したブリッグ艦の修理に充てる要員を、目立たない人数で派遣しておく。

 せいぜいが百人~二百人も乗れば満員となるだろうサイズのガレオン船であるゴールデン・ビクセンから、二百人~三百人もの人数が一度に上陸したり作業したりしていては怪しまれるだろう。

 上陸するメンバーは日替わりにするし、島の警備隊もいちいち顔なんか確かめちゃいないだろうと踏んでおく。

 俺がアングル海軍の軍艦に乗っていた時だって、土地の警備隊が上陸して来る水兵のひとりひとりを確認するなんてご丁寧な仕事はしていなかった。

 せいぜいが、土地の当局が定めた禁制品を持ち込んでいないかくらいの手荷物検査がいいところだ。

 武器についても、手槍やカットラスを持ち込めばひと悶着あるけれど、海尉や准海尉の長刀や水兵のダークについて文句を言われることなど無い。

 船乗り相手の酒場や飯屋は、金貨とはいかなくても銀貨を山ほども落として貰えれば文句は言うまい。

 と言うよりは、他の港へ行かれては商売にならないから、厳しい取り締まりをしないように警備隊へ袖の下を出している商店組合もあるほどだ。

 あ。

 間抜けなヤツがなんか振り回さないように、舷門で持ち物検査をしておくように海兵隊のアニク先任軍曹に頼んでおくか。

 此の時代の人間達にオーパーツモドキなんか見せるわけにはいかないのだ。


 早朝のうちに、本来なら副長がやるであろう仕事を済ませたノアは。

 操舵甲板の監督を、航海士のひとりに任せて。

 朝食を摂るために食堂街へと降りて来た。

 本艦の食堂街は、テナント制で運営されているという。

 テナントとは言うが、家賃や水道光熱費は取らない代わりに経営は自己責任の独立採算制。

 顔見知りになってきた店の女将たちやマスターたちの話によれば。

 ある日。

 美人海賊ビッキーが現れて、秘密厳守の商談を持ち掛けられたということだ。

 その内容たるや。

 何処かの世界の何処かの街に実在する、喫茶店や食堂や酒場などの出入口が本艦の食堂街に繋がっているのだという。

 当然。

 何処かの世界の何処かの街の住人達が、経営者として店を営み。

 何処かの世界の何処かの街の住人達が、客として来店するのだが。

 彼らは。

 ひとつの店内で違和感を持つこと無く食事を終えて、それぞれの世界へと帰って行くのだそうだ。

 あくまでも、店の出入り口は一つしかないのだけれど。

 そこにはビッキーの魔法が働いているようで。

 何処かの世界の住人は、何処かの世界へ。

 本艦の乗組員は、本艦の通路へと戻される。

 そして。

 テナントにとっての大きな関心事は、代金の取り分だろうと思えるが。

 本艦の乗組員たちが店で消費した、飲み食いの代金については。

 ビッキーからテナントが存在する何処かの世界の通貨で支払われ、店が全額を自分たちの売り上げに出来る。

 三食朝昼晩の支給を保証されている本艦ビクセンの乗組員は自分が現金で支払うことは無いが、テナントからの請求に対してビッキーが艦の金庫から清算をして支払っているということらしい。

 まぁ、出納の実務は主計長の管轄だろうから艦内事務の問題だ。

 航海長である俺は、金銭面については、詳しいことを知らない。

 本艦ビクセンの乗組員は艦の外見とは異なり千人くらいは、いるだろうから。

 十店くらいの飲食店が客を分け合うとしても良い商売だ。

 店を経営する女将やマスターたちが、どちらの世界を生活拠点としているのかということについても俺は知らない。

 ビッキーが、どうやって異なる世界の異なる時間帯からテナントにする店を物色しているのかも俺は知らない。

 まぁ、それはビッキーの仕事なので俺が関心を持つ問題では無い。

 本艦には。

 食堂街の他にも書籍や生活用品や理美容や被服類や甘味類などを商売にしている商店街もあって、こちらの買い物は利用者乗組員がカードで自分の給料から引き落とすことになっている。

 支払いは本艦の引き落としシステム以外に現金払いも可能なのだが、こちらのほうは面倒なことがあるから乗組員が使う事は少ないようだ。

 理由は簡単。

 異なる世界の異なる時代で使われている通貨は、当たり前だが同じ通貨では無いことくらいは想像がつく。

 俺が船乗りをしていた世界のアングル島で使われていたソブリン金貨は、同じ世界なら隣国のガリアだろうが離れているモナルキだろうが、当事者同士が納得してれば同じ交換価値を持つ。

 まぁ、特定の商品や食品が各国で同価格かどうかの評価と換算が必要になるという程度の事だ。

 ガリアのワイン一本を例に挙げれば、現地での小売価格とアングルでの輸入品(密輸業者の仕事だ)としての小売価格では差が付くというあたりだろうか。

 だが、別の世界で使われている通貨が全く異なる素材で造られているとなるとソブリン金貨を通貨として使えないことだってゼロとは言えない。

 相手がソブリン金貨に価値を認めて買い取った事にしてくれるとか、珍しい品物として物々交換ということでやるとなれば、値付けの交渉過程がややこしくなる。

 そういう理由もあって、艦内商店街に対しては乗組員のカード使用状況に応じてビッキーが|各店別にで支払いをしていると聞いた。

 問題は。

 本艦で店開きしている商店街の、個々の店や通貨のアレコレにあるのではなく。

 本艦に店のほうにある。

 そう。

 男性の乗組員でもいいし、女性の乗組員でもいいのだが。

 異性が接客をしてくれる、息抜きのための店が見当たらないのだ。

 酒場はあるが、客は酒を飲んで肴を摘まむだけ。

 テーブル席なら看板娘が酒と肴を運んでくれるが、座り込んで客と会話をすることは無い。

 接客してくれる店については、上陸休暇の際に現地調達すればいいのかもしれないけれど、問題が多いのは周知の事実だ。

 長期の航海においては乗組員たちの気晴らしとして、あってくれれば便利な存在なのだけれどな。


 そんなことを考えながら。

 朝食を済ませた俺は食堂街と交差する「空き家」になっている通路を通り過ぎようとして、ちょっとした違和感を感じて立ち止まる。

 艦内配置図は記憶しているが。

 設備など何も無いはずの、行き止まりになっている通路の中ほどで。

 艦が装備している扉ではない、未来の町の高級集合住宅にあるようなデザインの玄関扉がひとつ。

 勢い良く開くと同時に、メイド服を着た娘が喚き声を上げながら飛び出してきた。

 「ちこくだぁ~~」

 と叫びながら通路の向こうへと駆け抜けて。

 突き当りのドアの中へと、飛び込んで行った。

 ドアには飾り文字で「メイドカフェ」なんたらと書いてある。

 後ろ姿を見ただけなのだが、金髪のアタマの両側には大きな耳が突き出していた。

 本艦ビクセンに。

 大耳族エルフの女性が乗り組んでいるとは、俺は聞いていない。

 俺が大耳族としての姿を見せただけでチビった、妖狐族の美少女艦長ナナオの反応を見ていても。

 俺以外に大耳族エルフの姿をした誰かが、乗っているはずは無い。

 それよりも。

 あるはずの無い扉から、いるはずの無いメイド服の大耳族エルフの娘が飛び出して来て。

 あるはずの無い、目玉が付いたドアの向こうの空間へと飛び込んで行ったというのを・・・ビッキーは。

 「あたしだって、知らないよ」

 声と一緒に、ビッキーが俺の隣に現れる。

 いくら自分自身ビッキー?の身体同然の艦内だとは言うものの。

 心臓に良い現れ方とは言えないとボヤく俺の事など見向きもせずに、目玉の付いたドアを睨みつけている。

 「誰だよ、勝手な事をしているヤツは」

 不機嫌を通り越した感情のマグマが、目に見えるような声色こわいろだ。

 うん、明らかにコイツビッキーを出し抜いたヤツがいるということか。

 牙を見せて戦闘モードに入っているビッキーに、片手を上げて待ったをかける。

 こら。

 引き締まった腰に着けてる、44マグナム拳銃を差したホルスターの安全ボタンを外すんじゃないよ。

 「魔力でパワーアップしている得物を艦内の通路でぶっ放すのは、斬り込みを受けた時以外はご法度だろうに」

 「だけどさぁ、これは立派な侵略だろう!」

 ビッキーの発する怒りの言葉と、半端ない圧力で周囲の空間が歪んできているのを感じるが。

 「思うところがあるから、ちょっと待ってくれ」

 と、ここはお願いをすることにした。

 俺は、ビッキーの正体を知らない。

 上級神としての俺をバックアップしてくれた恩人?ではあるけれど、何処の世界宇宙から来たのか知らないし。

 どれくらいの「神位」にあるのかも、聞いたことは無い。

 だが、今は俺とチームを組んでいる大事な相棒なのだ。

 此処で暴れたら、本艦とその本体であるビッキーにも損害が出るのは間違い無いところだろう。

 問答無用で殴り込みをする前に、相手の正体を確かめたほうがいいこともあるのだよと呟いておく。

 「あれメイド大耳族エルフだったし。それならば、俺のほうが話が通じるかもしれないしな」

 上手くやれば、接客業として商店街のテナントを一軒。

 獲得できる可能性もあるという打算も働いている。

 メイドカフェと言うのが看板の通りの店ならば、本艦の福利厚生の幅が広がるというものだ。

 

 ということで。

 さっき、メイド服を着た大耳族エルフの娘が飛び込んで行ったドアの前まで行ってみる。

 「メイドカフェ・ハルティアエルフ」と飾り文字で書かれたボードの貼られたドアには。

 二つの目玉が付いている。

 ドアノブが付いているので、手を掛けて回そうとすると。

 目玉がノアの顔を見て、抜かしたぞ。

 「認証登録されていません」

 ふん。

 こいつは自律型の防御障壁か。

 顔認証か、魔力紋様認証あたりの簡易型で攻撃機能は付いてないようだ。

 ならば、ここはビジネスモードでやってみよう。

 「平和的な商売の申し込みだ。責任者を呼んでくれ」

 ご予約は?とか、一見さんお断りです!とか抜かすんじゃないよ。

 門番は門番らしく、丁寧に親玉に取り次いでくれれば問題は起きない。

 俺の後ろでは、問題は起きちゃってるよと牙を剝いてるお姐さんが得物を用意して待ってるけどな。

 融通の利かない門番相手に、押し問答をやっても時間の無駄だ。

 というより、時間切れになったらヤバイ事態が待っているのだ。

 ビッキーの沸点は俺よりも低いけれど、戦闘力は遥かに上を行っている。

 しょうがねぇな。

 「この顔ならば、通じるか?」

 俺は小耳族ヒトの顔を消して、大耳族エルフの顔を出すことにした。

 ドアの目玉を睨みつけて。

 大耳族エルフでも、そんじょそこらの大耳族エルフには出せないレベルの威圧パワーを押し込んでやる。

 途端に、ドアの目玉は見開かれ。

 「これはこれは、カルディナーリ枢密卿様ではございませんか。お久しぶりでございますねぇ~?」

 のんびりした声と共に、ドアのロックが外されて大耳族エルフの男が一人顔を出したのだ。


          *


そしてフソウでは

★復活歴2,100年★


 「それは、お騒がせをして申し訳ございませんでした」

 通された、店の内部の応接室で。

 店長のエリアスと名乗った大耳族エルフの男が、丁寧に頭を下げる。

 相手はノアカルディナーリ枢密卿様と呼んでいるので、俺のことを知っているらしいが、俺のほうには見覚えが無い。

 というか、記憶に無いのだ。

 訊いてみれば、いろいろな話が出てくるのだろうけど。

 長い話になるのだろうな。

 それよりは、ビッキーが暴れださないうちに問題を決着させるほうが優先だ。

 他人の縄張りと言うよりは本拠地の中に、勝手に通路を開いたりしたら。

 こちらが魔術師でなくて王侯貴族であっても、宣戦布告されたと受け取るだろう。

 気が短い人間だったら、部隊を呼んで突入していても不思議ではないのだ。

 ビッキーを人間と呼べるのかどうかは、俺にも判然としないけれど。

 それはさておき。

 俺の説明に対して、恐縮しきりのエリアスが言う。

 「店に付いている『表のドア』と『裏のドア』が勝手に空間魔法の練習をしていておりまして。そこで何かの間違いが起きてそちらの艦ゴールデン・ビクセンに取り憑いてしまったと、『裏のドア』が申しておりまして」

 ふん。

 あいつらドアたち妖怪族もののけか?という突っ込みは、口には出さないし表情も変えないで聞き流す。

 おまけに。

 「『表のドア』と『裏のドア』は文字通り表裏一体で、どっちがどっちという区別をつけることはできませんので。どっちが間違いをやったのかは、判らないのでございますよ」

 と、エリアスは言う。

 あげくには。

 「間違いで起こした『事故』でございまして。過程を再現できないために、修理方法原状回復は見当たらないのでございます」

 とアタマを下げる。

 つまり。

 メイドカフェとゴールデン・ビクセンは、空間的には繋がれたままの状態になるというのが結論だ。

 そりゃぁ、ガキの言い訳だろうとは。

 俺が此処で口に出せば、どうなるかくらいは互いに承知の上での駆け引きだ。

 艦にとってのセキュリティとしては、大いに問題はあるのだが。

 友好的であるならば、実際上は他のテナントと変わりは無い。

 ここは強引にテナント出店の勧誘のほうに話を持ってゆくのが上策か。

 このメイドカフェという店には結界魔法の障壁が張られているが、俺にとっては無視できるレベル。

 通路の向こうで待たせているビッキーにアタマの中で話し掛けると、俺に任せるから新規のテナントを取り込んで見せろと返事が聞こえる。

 「!?」

 という顔をエリアスがしているので。

 「事情があって、可愛い女性たちが接客してくれる真面目なテナントを探してるんだけどな」

 ざっと経緯を話した、俺は。

 エリアスを店のドアから連れ出して、ゴールデン・ビクセンへと繋がる通路を見せてやることにした。

 通路の向こうでは、威圧パワーを全開にしたビッキーが仁王立ち。

 周辺の景色が陽炎のように歪んで見えている。

 ビッキーの後ろでは。

 ナナオとジャミーレまでもが、パールサ風のシャムシール曲刀に魔力をまとわせてブラブラさせている。

 さらに後ろには、L85《えるはちご》で武装した立耳海兵の先任軍曹であるアニクと海兵の分隊までも侍らせている始末だ。

 それじゃぁ、戦闘態勢丸出しだろうと思いながら。

 「取り敢えず、本艦の商店街を見てくれないか?」

 そう言いながら、ビッキーとエリアスの間を仲介し。

 艦長であるナナオとジャミーレも紹介をして、商店街を見せながらテナント出店のメリットについて説明をする。

 この人間関係?をエリアスが呑み込めたかどうかは、判らないけどな。

 いやいや。

 何で私掠船の艦内に商店街があるのかも、呑み込めたなら大したものだよと思っていたけど。

 エリアスは艦内にある商店街を見ても、驚いた素振りは見せなかったのだ。

 どうやら、同じような現象を見た事があるらしい。

 兎にも角にも。

 本艦に乗り組む千人ほどの人員のうち、男性の割合は七~八割といったところか。

 食堂や日用品の商店を別にすると酒場くらいしか娯楽施設の無い艦内生活をしている彼らは、メイド服を着たピチピチの大耳族がもてなしをしてくれるメイドカフェなる店があるとなれば常連客となること請け合いだ。

 エリアスのほうだって。

 『ドアたち』が引き起こしたトラブルのケツ持ち尻拭いをしなくて済む上にプラスアルファの常連客を得られるならば、店長の立場としては万々歳だと呑み込んだと見える。

 この後、店長のエリアスにはメイドカフェの経営者たちを納得させるという作業が残っているけど。

 相手が何処の誰であろうと、それは彼等のほうの内部問題だ。

 本艦ビクセンとしては。

 メイドカフェと繋がる通路に沿って並ぶメイドカフェの従業員寮だという玄関扉に隠蔽強化の魔法を掛けて空間を分離し、住人以外の者が侵入できないようにしておけばいい。

 うん。

 なんとか、丸く収まりそうで良かったよ。

 無用のドンパチなんか始めるよりは、互いの利益に繋がる話を進めたほうが未来志向だというものだ。

 もっとも。

 どういう訳で大耳族エルフが、メイドカフェなんか開いているのか?

 いや、その前に。

 メイドカフェが存在しているのが何処どこの世界なのか、何時いつの時代なのかも。

 まだ、俺にもビッキーにも呑み込めてはいないのだけどね。

 その辺りの話は。

 後日、ゆっくりとエリアスから聞かせてもらうことになるだろう。

 目下のところ。

 俺たちゴールデン・ビクセンの乗組員にはモナルキの黄金船団を、アルビオ海軍の目の前で横取りするという大仕事が待ち受けているのだ。


          *****


 ゴールデン・ビクセンとの「騒動」が一段落した後のハルティアの店内では、ひと騒動どころではない混乱が広がっていた。

 急遽、エリアスに召集された幹部会議では『表のドア』と『裏のドア』が空間魔法の練習で使った施術の過程を説明しようと、汗だくの説明に努めていたけれど。

 「ねぇ、ねぇ。海賊船ですって?」

 興味津々の体で、ソフィアの世話役であるエミリアやレーラたちメイド役をしている・・・・・・・女性陣が質問を差し挟んでくるので話が前に進まない。

 「いや、海賊船ではなくて私掠船なんですけど」

 と言うエリアスの話なんか聞いてはいない。

 軍艦と私掠船と海賊船の違いについて講習会を開いても、問題の解決には繋がらないのは確かだし。

 実際に、『商店街』とかガレオン船とかを見てもらわなければ実感は湧かないことだろう。

 エリアスは。

 何かの仕事で忙しくなるというノアたちの時間が空くまでの期間、試合放棄を宣言することにしたのだった。          

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