第7話 経過情報

 マンションに着くとあの怪しい合言葉をいって中に入った。

 おじさんの人形に怒りを含む笑みで出迎えられた。そのまま、通り過ぎようとしたが、顔面を掴まれた。アイアンクローだ。


「君は何をしているのさ。昨日だけで寝れないほど仕事を増やすのは、どういう嫌がらせかな?」


 ロボットの割に力強く、的確にツボに入っていた。


「痛いです。昨日の事は全部が事故です」

「スカイライダーのチームの事もかい?」

「あれは仕方なく」

「だから、チームリーダーに会えといったのにさ」

「会う前に変なのに絡まれたんです」

「まったく、本当に子供のお使いだね」


 心外だ。これでも勇気を出して大人の店に入ったのだ。


「頑張りました」

「結果に至らなければ意味がない。頑張りましたで済む年齢は終わった」

「厳しい」

「そういう世界に足を突っ込んでいるんだ」

「口調が変わってきましたが」

「……まあ、いいわ。さっさと部屋に入りなさい」


 顔面を掴んでいた手が離れた。慌てて横を通り、廊下を進みリビングにはいる。そして、ソファーに座った。

 横のソファーに座る女性型ロボットはにっこり笑っているが、目は怒っているようにみえた。人間みたいに器用だなと思った。


「あなたが昨日した事の詳しい説明がいるかしら?」

「……はい」

「それは良い心がけね。素直で良いわ。遠慮なく怒れるわ」

「……反省してます」

「へえ、それは今日の事もかしら」

「今日は何もしてないはずですよ」

「六階建てほどの低いマンションとはいえ、その屋上を飛び回るのは交通法違反よ」

「あれは仕方なく……」

「まあ、それはどうでもいいわ。問題はチームを動かせなかったことね」

「そっち?」


 意外な答えに肩透かしを食らった気分になった。


「あら、交通事故の件は情報部のミスよ。人物照会確認の怠りと能力者相手に強引に前に出た。はっきりいって、能力者に対して素人の対応よ。だから、それは別。加えていうと、苦情を代わりに送っておいたわ」

「そのいい方だと、能力者と知られていたのですか?」

「いいえ、能力者を判別する機能が軍のスーツにはあるだけ。測定能力は低いけれど」

「それに引っかかると追いかけられるのですか?」

「どちらかといえばスカウトね。幼い方が軍に所属してもらいやすいからね。パスファインダーを見ればわかる通り、能力者は皆、個人主義ばかりだからね。自分のしたい事しかしない」

「なるほど」

「なるほどって、あっさり受け止めるのね」

「目の前にもいますから」

「あら、そう見える。これでも、しがらみが多くて困っているのよ」

「式典に関わってます?」

「あら、わかる?」

「能力者でしょう?」


 女性型ロボットが笑う。


「よくわかったわね。どこでバレたのかしら?」

「ロボットに源気が出入りしているから」

「ああ、なるほど。人に近いように操作しているから、自然と使っちゃうのよね。普段はそんなことしないけど」

「なぜですか?」

「子供を相手にしているからかな。普通なら得意な能力が暴かれる可能性があるから使わない。源気を見て能力がわからないでしょう」

「……はい」


 逆にどのように見て源気からの能力を分析するのか疑問だ。


「だからよ。……それよりも今後よ。式典のせいでリソースが足りなくて困っているのよ。少年のチームを利用したかったのは、それを補う苦肉の策よ」

「では、依頼できなくてもよかったのですか?」

「それとこれとは別よ。それぐらいできないと困るわ」

「……はい……」


 いい返すどころか、肩身が狭い。


「ともかく、今後はこっちで何とかするわ。同業者を雇うかもしれないから、お金をよろしくね」

「……はい」


 携帯端末の残高を確認する。変わらず、三千万以上あるが、いくら飛んでいくのかわからず、ため息が出る。そもそも、このお金を使うと決めたが罪悪感がある。しかも、必要経費なので渋っていられない。消費したお金は後で補充するしかないだろう。どうしようと頭を抱えるが、お金の稼ぎ方も知らないので、イリアさんに相談するしかなかった。だが、連絡がとれないのは、変わりなかった。


「ところでサラマンドラに会った感想は?」

「知っていたのですか?」

「もちろん、君の身辺警護も任されていたからね」

「え?」


 昨日は警護の目があるとは、確認できなかった。いや、警戒のアンテナに引っかからないのは気になった。


「ごめんねー。どいつもこいつも私の手足では警護できなかったのよー」

「昨日はずっと尾行していたのですか?」

「そうよー。本当、嫌になちゃう。どいつもこいつも一流でしょう。私の『目』を潰して隠れるし、警護のために端末義体も回しても意味なかったし」

「『目』を潰すとは何ですか?」

「ハッキングした監視カメラや防犯カメラとかを壊すことよ。それより、聞いてよ。何体、端末義体を潰されたと思う?」

「その前に、端末義体を知らないです」

「操作できる五感を持つロボットと思って。代わりの体って感じね。それを八体も潰されたのよ。赤字よ、赤字」

「……そうですか」


 裏で戦闘があったとは知らなかった。自分の警戒感の鈍さに心配になった。


「そうですかじゃないわよ。サソリ野郎もあっさり無効化するし、自信なくすわ」

「はあ、頑張ってください」

「他人事ではないわよ。警護もなく、この先、この街に居られるの?」


 ライムントから警護がつくという話はない。だから、一人で対処するのが基本と思っている。


「最初から、なかったと思っていますから」

「……心に刺さるわー。こっちは本業なのよ。ここで頼られないのは、堪えるわー」

「それより、ジュウゴの方は?」

「それよりって……。そっちの情報は集まっているけど、決定的な情報がないわ。なので、ちょっと他の能力者を頼るわ」

「マキナさんは情報のスペシャリストではないのですか?」


 マキナさんは渋い顔で反応した。


「さらに心に抉ってくるわね。私は電子が専門よ。それに対して相応の対策を持ってすり抜けている。別のアプローチが必要なのよ」

「それはどんなアプローチですか?」

「ごめんなさい。相手の能力の特徴も知ることになるからいえないわ」

「そうですか」

「私自身が出張れば一番いいのだけど、それでは他の仕事に支障が出るのよね」

「能力者を雇うなら、金額が高くなりますか?」

「ああ、それは気にしないで。赤字だけと、面子の問題だから」

「面子?」


 意外な話に聞き返してしまった。


「そうよ。私の仕事は評判が命ともいえるわ。だって、失敗ばかりしているなんでも屋なんて知ったら、使わないでしょう?」

「確かに」

「だからよ。これからは本腰を入れてやるわね。迷子の子供の捜索が、ここまでこじれるとは思いもしなかったわ」

「はあ、よろしくお願いします」

「じゃあ、入ってきた情報をまとめといたから、報告するわね」


 そして、ジュウゴの身辺情報と捜索の経過報告を受けた。


 経過報告から、やるべき事はなかった。変わらず、ジュウゴの襲われた現場に行くのは止められている。写真をもって周囲の聴き込みもだ。能力名はいわなかったが、浄化能力が場を綺麗にして、能力で探る可能性を消すらしい。聴き込みも目立つ上に危険なため禁止されている。そのため、一任する他なかった。

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