第4話 チーム
時間にしては早いが、『白い翼』のたまり場に向かうと決めた。情報屋から貰ったメールに書かれてある指定座標を携帯端末に入力して、ルートガイドを起動する。表示されたのは西部地区の大学近くのバーのようだ。ガイド通りにモノレールや地下鉄道を乗り継ぎ目的地に向かった。
途中で情報屋の指示通りに百万の大金を現金自動預け払い機で下ろして、紙幣の束を備え付けの封筒に入れた。
まだ夕暮れには早いがバーを見つける。しかし、入りづらい店構えだった。扉は空いていて中の様子が見える。暗く落とされた照明の中で趣きのある木造のテーブルや椅子。少し奥にはダーツのボートが壁に掛かっていた。その店内でカウンターの奥の照明だけが明るかった。大人が通うお店と一目でわかった。しかし、人に会うためには入らなければならない。意を決して入ると、テーブルを拭いている顎鬚の生えそろった渋いおじさんと目が合った。
「君がこの店に入るには若すぎるよ。帰りなさい。親御さんが心配するよ」
苦笑しながら優しくいわれた。
「マーカス・ハドックさんに会いに来たのですが、いませんか?」
携帯端末のメモを見ながらいった。
「残念ながら、今はいないね。開店前だからね」
周りを見るとおじさん以外に誰もいなかった。
「何時ごろ来ればいいですか?」
「彼に言づけがあるなら聞くけど」
「依頼ですので、会っていわないと」
「依頼かい?」
「はい、白い翼のリーダーに直々に依頼しなさいといわれているので」
「なら、待つかい?」
「はい」
おじさんがカウンタ-に入った。連れられる様にカウンターの席に飛び乗った。高くて足が着かないからだ。学校ではいつも背の順で一番前だった。
「飲み物は何がいい? もちろんアルコールは抜きでね」
「ジュースなら、なんでもいいです」
何があるのかわからないので、適当に答えた。
「そうかい」
おじさんがシェイカーを取り出しその中に色々な液体を入れ、軽くシェイクした。そして、用意したグラスに中身を空ける。
出てきたものは緑色の液体をしていた。恐る恐る口を付けると、甘いがスッとした爽やかさがあった。何でできているか分からないが、とても美味しい。
ふと顔を上げると、おじさんが笑みをこぼしていた。
「気に入ってもらえたようだね」
「はい、とても美味しいです」
「私は開店準備で忙しないけど、君はゆっくりしてなさい」
「はい」
おじさんはカウンターを抜け、テーブルや椅子を拭いたり、掃除を再開していた。
開店まではまだ時間がありそうだ。携帯端末を操作して、ニースを調べる。先の交通事故が載ってないか調べるが、検索には引っかからず、見つけられなかった。
ニュースになるには、まだ早すぎたのだろう。仕方なく、ニューワイズの目ぼしい情報を検索して時間をつぶした。
店のドアが開いて人が入ってくる。開店前だが三人の男たちは気にもせず、店内を進んだ。
「何だ、ガキがいる。いつからここは保育所になったんだ」
先頭に立つ二十歳ぐらいの男がいやらしく笑いながら、声を張り上げた。
わざわざ、聞こえるようにいっているのだろう。嫌な感じだ。
「依頼人だよ。彼を呼んでくれないか?」
「そんな必要あるか? 俺で十分だろう。そうだろう?」
馴れ馴れしく肩に手を回してきた。
「お前、金を持っているのか?」
「ありますけど」
「なら、出せ」
「依頼内容を聞かないの?」
「どうせ大したトラブルじゃないだろう。簡単に片づけてやるよ」
どうするか考えて、とりあえずリュックサックから札束が入った封筒を見せた。
男が乱暴に取り上げ、中身を確認し始める。
「おいおい、百万はあるんじゃないか?」
他の男達に見せ、喜んでいる。
「マスター、いつものくれ。金ならたんまりある」
「それは依頼料ではないのか? 彼に知れたらただで済まないぞ」
「あ? あいつ。関係ないな。これは俺の金だ」
情報屋が気を付けろといっていたが、この事かと納得した。
「依頼を受けてくれないのですか?」
面倒くさそうな目を向けられた。
「ああ、依頼ね。依頼。……これは前金として貰っておく。で、成功報酬として三百万の追加だ」
「聞いていた相場とは違いますが」
「あ? 俺が受けるんだ。当然の額だ」
舐め切った台詞に怒りを感じた。
「依頼は断ります。お金は返してください」
「もう、前金として貰ったんだ、返すかよ」
「そう」
心の中で怒りが沈み込む。
能力を開放し、身体能力を上げる。そして、男の手ごと封筒を掴んだ。
「何しやがる」
男の声に焦りがあった。
手ごと掴んだままさらに力を入れると、男が苦しみだした。
「いてえ、離しやがれ」
無視してさらに力を入れると。マスターに肩を叩かれた。
「その辺にしてくれないか。ここでは喧嘩はご法度でね」
手を放すと同時にマスターが封筒を男から抜き取った。そして、そのまま封筒を渡された。
「おい、マスター。何しやがる。俺はここの常連だぞ」
傷んだ手を抑えながらも、男は怒鳴った。
「OBとして見ていられなくてね。それに君がこの店に来なくても何ともないよ。……一応、先輩として忠告するなら、誠意ある態度で臨まなければ、相手も誠意を見せないよ。それと相手を見て発言した方がいい」
「何いってるのかわからねよ。こんなガキのどこを見ろというんだ」
マスターが溜息を吐いた。
「彼の携帯端末を見るといい。それだけでわかるだろう」
男はいつの間にかポケットから出て、ぶら下がっている携帯端末を見ると顔色を変えた。驚くと同時に顔から血の気が引いていた。
「嘘だろ、偽物に決まっている」
「私が保証するよ。あれは本物だ。偽物ではあの精巧な模様は出せない」
改めてこの携帯端末がどういう物か分からなくなった。身元を保証してくれると、説明書きがあったが、訳が分からなくなった。
「くそ、帰るぞ」
男が叫ぶと、取り巻きの二人を連れて、店から出て行った。
ドアが乱暴に閉められる音がした。
「済まないね。大きなチームとなると、ああいう手合いも抱え込むことになる」
「別にいいです。他を当たりますから」
「……そうか。これは迷惑料だ」
出されたジュースを一気に飲むと、店を出た。
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