第3話 トラブル
ドーム周りを廻る環状線のゲート近くの駅で降り、大通りへと歩いていく。大通りに出ると目的のゲートが遠目に見えた。四体の巨大ロボットが門を守るように鎮座している。
ゲートより手前に鎮座する汎用型二足式戦闘機には、囲むように人混みのができている。ただ見上げる者から、写真を撮る者、コスプレしている者など、様々な人が集まって熱気を放っていた。
その後ろにも汎用型多脚式戦闘機もいるが、人は少ない。やっぱりロボットと言ったら人型だろう。実戦投入されたことはないと聞いているが、人気がまったく違った。
一歩下がってそれらを見ていると、殺気ではないが鋭い視線を感じた。
視線の先を見ると、五階建てのビルの上に、ぼんやりとした人型のシルエットが見えた。
通称『カメレオン』という光学迷彩だ。だた、問題点は完全に隠れない点である。背景に隠れても輪郭がぼやけて見えてしまうのだ。そのため、カメレオンと笑われている。そして、カメレオンの方が上と冷笑されてもいる。
「そこの子、乗ってみないか?」
二足式戦闘機から男の声がした。
二つの目が僕の方を見ているが、確認のため、左右を見てみる。
「青い服の君だよ」
目の前に大きな戦闘機の手が伸びてくる。周りはどよめきながら、道を開けた。
「大丈夫、そんなに高くないから」
戦闘機が手の平に乗れとばかり突き出されたが、素直に乗れなかった。ドームへと続く壁の上に立つカメレオンが、こちらに視線を飛ばしながら、どこかにハンドサインを飛ばしているからだ。
戦闘機に首を振って否定し、大通りをゲートは反対の方向に走った。
視界の脇では人がギラギラした目をして、戦闘機の手を見てた。
集まっていた人混みを抜けると背後から戦闘機の男の悲鳴のような怒る声が聞こえた。
「おい、乗るな。定員オーバーだ。……乗るんじゃねえー!」
走りながら背後を振り返ると、砂糖に群がる蟻のように戦闘機の手の平に人が群がっていた。戦闘機の手の平に乗るために、前の人間を掴んで登るかと思えば、人を蹴り落している。一つの地獄絵図があった。それを尻目に大通りを人を避けながら走った。
ビル群の脇道に入ると、一息つく。しかし、視線を上から感じた。
追いかけられる覚えが……ある。ジュウゴを襲った者達だ。探っているのが知られたら、何かしらの行動をとるだろう。
情報が漏れている?
その可能性があった。それ以外に追いかけられる覚えがない。
光学迷彩をした状態で五メートルの範囲に入ってきた。
この距離は能力者にとって攻撃範囲内だ。姿を見せずに、その範囲に入るのなら、攻撃の意思があるのだろう。突き飛ばして逃げるしかないようだ。
能力を開放し、着地の瞬間を狙い、懐へ飛び込む。狙い通りに着地して態勢が変えられない瞬間に両の手の平を腹にぶち込んだ。
地面に二度、三度とバウンドしながら、裏路地から跳ね飛んでいく。光学迷彩が解かれ、全身装甲のパワードスーツを晒す。そして、裏路地から飛び出たところで、ちょうど空から降りてきた来た車にぶつかった。
ドゴッと車にめり込んで、車と共に横滑りに滑って、建物にぶつかって止まった。
「キャー」
誰かの悲鳴が聞こえる。
そして、ファーーン、と何かが鳴り続けていた。
僕はただただ、飛んで行った道の先を見ていた。予測の出来ない事態に動けなかった。
ライムントさんなら片手で防いでいただろう。そんなに強い攻撃ではないはずだった。
ふと、視線に気づき、何しているんだと、茫然自失になった自分を叱り、周囲を警戒する。カメレオンがもう一人いた。だが、そのカメレオンは僕から視線を外すと、事故現場の方に跳んで行った。
危険が去ったと思うが、事故現場が気になる。人が死んでいたらと思うと不安になった。だか、カメレオンが向かったので近づけない。仕方なく、事故の方から逃げると、人にぶつかった。
「おっと、すまんな」
顔を上げると髪の毛を逆立てた筋肉隆々な男が口角を吊り上げて、嫌な笑みで見下ろしていた。
男は笑って肩を掴んでくる。
とっさに能力を全開にして、後ろに下がる。しかし、伸びてくる手から避けられそうもなかった。
男は笑ったまま僕の肩を掴んだ。しかも、肩にかかる力は強かった。
上位の能力者。しかも、その力は僕の師匠と同じくらいだろう。
内側から漏れ出る源気が発する存在感が違った。
肩は万力に挟まれたように、指が食い込み腕が上がらない。そして、反対側の肩も掴まれた。
力負けしていて、自由に体を動かせない。攻撃して逃げる。その方法が思いつかない。格上の能力者だからだろう。僕の重心を抑えつけて前にも後ろにも足を動かせなかった。
複数の声が聞こえた。
「何? もう捕まえたの?」
集団の一人が掴んでいる男に声をかけた。
「何? もう捕まえたの?」
「子供に何の用があるんですか。お
出てきたのは五人の男女。
普通の服に黒の貫頭衣を重ねた男。
眼鏡をかけ髪をポニーテイルで纏めている女。
季節に似合わず長いコートを着ている性別不明の者。
見た目が普通過ぎて個性がない女。
黒一色の男。
全員が能力者であるのが、観てわかる。普通の人と違う能力者独特のオーラの流れをしているからだ。オーラが漏れていない。おそらく、この人たちも師匠レベルである。勝つどころか、完全に逃げられなそうだ。
その集団から一人の男が出てくる。黒一色に染られた服装。一切の隙を見せない立ち振る舞いに、冷徹な視線。僕を物としか見てない気がする。
「初めましてというべきかな」
雰囲気と違う挨拶に応える余裕はなかった。
「危害は加えない。ちょっと実験に付き合ってもらう」
肯定も否定もできず、ただ見返すだけだった。
「状況が把握できているか。それとも放棄しているのか。……まあ、いい」
黒服の男が頭に手を近づける。
嫌な汗が流れる。逃げれるなら逃げたいが、有無をいわさない圧力で全身を拘束されているようだ。
近づく手の源気は弱いが、爆弾を仕込んだような危険な気配を感じる。しかし、頭に手が触れる寸前、手が止まった。気殻を構成する源気の浄化能力が反応して、男の手の平の源気を霧散させていく。
「やはり、能力を弾くか。思った通りだな」
「ヘッド。なんかおかしいの?」
ポニーテイルの女が興味深そうに尋ねた。
「いや。予測通りだと確認しただけだ」
黒服の男が手を下ろし、興味を失ったのか踵を返して、背中を見せ歩き出した。
「お頭、こいつどうします?」
貫頭衣の男が物を見る目で見下ろしていた。
「開放していい。ただの寄り道だ。後は予定通りに動く」
お頭やヘッドと呼ばれた黒服の男が離れると、同じように他の仲間も関心を向けず、踵を返して大通りへと出て行く。
「よかったな」
筋肉隆々の男が肩から手を離した。そして、日常の雑事のような趣きで離れていった。
しかし、背中が見えなっても、警戒心が警鐘を鳴らし続けていた。気配を感じる探知圏内から離れても、しばらく、そのままで警戒していた。
「……はあぁ」
五分ぐらい経っただろうか?
袖で汗を拭い深呼吸する。まだ、心臓の鼓動が治まらない。座り込みそうになるが、我慢して大通りへと歩いた。
通りに出て、周囲を見回す。化け物揃いの集団がいるか、再度、確認したが姿はなかった。
どう見ても普通の能力者ではなかった。背負っている闇が深そうで、陰りがあった。動画で見る連続殺人犯の様な闇だ。特に『お頭』と呼ばれた男は一般人と同じ目線で生きていない。見ている世界が違うように感じた。
壁にもたれかかり、リュックサックからペットボトルを取り出してジュースを飲みこんだ。
「なんだあれ」
思わず独り言が出た。
今まで出会ったことのない人間だ。普通の人とは根本的に異なる。そこら辺の一般人など気にも留めないだろう。しかし、目を付けられた。おそらく、能力者だからだと思う。それから、予測通りとは何だったのだろうか。浄化能力だろうか。だが、黒服の男の目を思い出して考えを放棄した。考えても無駄だと思ったからだ。
見ている世界が違う。
直感で直ぐに悟れるぐらいだった。
サイレンの音が聞こえた。忘れていたが、事故を起こしていたのだった。
足早に大通りをゲートとは反対方向へと逃げた。
逃げている間に大通り上のモノレールの路線を駅を頭上に見つけて、そこへ歩いていく。線路沿いを歩き駅にたどり着くとモノレールに乗り込んだ。
ここまで逃げれば十分だろうと一安心する。だが、小骨が引っかかったように心がチクリと痛んだ。カメレオンを突き飛ばした事故が大事ではないように願った。
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