礼志13 請修建講學奏 上

孝武帝こうぶていが学問周りに改善の意思を示そうとしないことに業を煮やし、清河せいが人、つまりもと前燕ぜんえん方面からの帰属者である李遼りりょうも上表する。


「臣は聞いております、教育とは統治の根本、教化の始まりであると。人々をより高き境地に導き、徳を育み、仁なるふるまいに導くためのもの。それはあたかも泥をこねて器を作り出すがごときである、と。過去多くの王が立った中、教育にまつわる取り決めはよきものも悪しき物もあったであろうにせよ、その要点を外したことはございませんでした。


しん洛陽らくよう長安ちょうあんを失陥して後、村里は荒廃し、いにしえの王よりの恵みは途絶え、聖人賢人は姿を消し、気付けば百年もの時が経とうとしております。そのような中でも聖なる霊は奇跡を下され、淝水ひすいの大勝を導かれ、黄河こうが下流域を再び獲得、青州せいしゅう付近を確保することも叶い、民はこの大戦功により活気を取り戻し、歓喜、奮起しております。


とは申せど、諸風俗の乱れが未だ改善されているとは申せません。であるならば、ここで学問復興を高らかに実施なさらずして、どうして陛下の御威光が天下に大いに示され、晋国の大いなる繁栄がもたらされましょうか? 状況に余裕があるように見えても、その実急を要さねばならない、と先人が申しておりましたが、それはまさしく今なのでございます。


臣の亡き父、李回りかい前秦ぜんしんより預かっていた任地をまとめ上げ、陛下のもとに帰服いたしました。そして 385 年、父は建康にのぼる臣に上表を持たせました。当時の内容は以下の通りでございます。


建康けんこうに詣でるに当たり、いちど孔子こうしのふるさとに立ち寄りました。しかしその霊廟は朽ちかけており、敷地内も荒れ果てたありさま。万世の規範をお示しになられたかの偉人の宗廟ですらこのように荒れ果てておるようでは、学問の振興とておぼつくまいと、天を仰ぎ、地に俯いては慨嘆を禁じ得ず、覚えず涙したものでございます、と。


こうして父は陛下に、孔子廟の修繕、および学問の復興を願い出たのでございます。




清河人李遼又上表曰:「臣聞教者,治化之本,人倫之始,所以誘達羣方,進德興仁,譬諸土石,陶冶成器。雖復百王殊禮,質文參差,至於斯道,其用不爽。自中華湮沒,闕里荒毀,先王之澤寢,聖賢之風絕,自此迄今,將及百年。造化有靈,否終以泰,河、濟夷徙,海、岱清通,黎庶蒙蘇,鳬藻奮化。而典訓弗敷,雅、頌寂蔑,久凋之俗,大弊未改。非演迪斯文,緝熙宏猷,將何以光贊時邕,克隆盛化哉。事有如賒而急,實此之謂也。亡父先臣回,綏集邦邑,歸誠本朝。以太元十年,遣臣奉表。路經闕里,過覲孔廟,庭宇傾頓,軌式頹弛,萬世宗匠,忽焉淪廢,仰瞻俯慨,不覺涕流。既達京輦,表求興復聖祀,修建講學。


清河人の李遼は又た上表して曰く:「臣は聞く、教は治化の本にして人倫の始、羣方を達せるに誘い德を進め仁を興す所以にして、譬うるに諸土石を陶冶し器と成すがごとし。復た百なる王の殊禮、質文の參差し斯の道に至ると雖ど、其の用は爽えず。中華の湮沒してより闕里は荒毀し、先王の澤は寢み、聖賢の風は絕え、此より今に迄、將に百年に及ばんとす。靈有りて造化し、以て泰を否終し、河、濟は夷らがれ徙され、海、岱は清通し、黎庶は蘇らるを蒙り、鳬藻し奮化す。而して典訓に敷かるく、雅、頌は寂蔑し、久凋の俗は大いに弊じ未だ改まらず。斯の文を演迪せるに非ずして、緝熙は宏く猷じ、將た何ぞを以て光贊の時に邕じ、盛化は克隆せんか? 事は賒なるが如く有れど急なりとは、實に此の謂いなり。亡父なる先臣の回は邦邑を綏集し、誠を本朝に歸す。太元十年を以て遣臣は表を奉ず。路に闕里を經、過りて孔廟を覲、庭宇は傾頓し、軌式は頹弛し、萬世の宗匠にても忽と淪廢せるは、仰ぎ瞻て俯きて慨じ、覺えずして涕流す。既に京輦に達し、表じ聖祀の興復、講學の修建を求めたり。


(宋書14-4)




ぁー、李遼さんの上表、美しい、美しくございますわ……清談にかぶれた東晋貴族からは感じられない「鮮烈なる儒の気風」を感じます……謝石殷茂の上奏とか、マジで清談の匂いやばかったからなぁ。


にしても「事有如賒而急,實此之謂也。」の出典がよくわかりません。たぶん儒典のどっかなんだろうなあ、とは思いますけど。しかしこの辺のタイミングにおける儒道佛三教の勢力争いがどうなってるのか、とっても気になります!

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