劉裕93 韓延之返答 下 

劉裕足下 海內之人

誰不見足下此心 而復欲欺誑國士

天地所不容 在彼不在此矣

 劉裕りゅうゆう足下。最早あなたの下心は

 誰の目からも明らか。

 その上でなお、国士を

 誑かして回っておられるのですか。

 このようなやり口、

 果たしてどれだけの者が

 受け入れられるのでしょう。


來示言 處懷期物 自有由來

今伐人之君 啗人以利

真可謂 處懷期物 自有由來 者矣

 先の書に、足下は

 分け隔てなく、多くを受け容れたい

 と書かれておられましたね。

 今まさにわが主を討たんと

 しているにもかかわらず、

 この私に向けては甘言を囁かれる。

 なるほど、確かにその手段は

 なりふり構わぬものですね。


劉藩死於閶闔之內

諸葛斃於左右之手

甘言詫方伯 襲之以輕兵

 劉藩りゅうはんを閶闔の内に殺し、

 諸葛長民しょかつちょうみんを左右の手で処分された。

 甘言で誑かし、油断したところを

 不意打ちにて襲わせる。


遂使席上靡款懷之士

閫外無自信諸侯

以是為得算 良可恥也

 このような手口を取られる足下に、

 諸侯は表向きこそ従いましょうが、

 内心では常にいつ処分を受けるかが

 わからず恐れ、また、

 そのような自分を恥じている事でしょう。


貴府將佐及朝廷賢德

寄性命以過日 心企太平久矣

 足下の部下たち、

 また朝廷におられる賢德の方々も、

 どれだけ足下に

 心底の忠誠を誓っているのでしょうか。


吾誠鄙劣 嘗聞道於君子

以平西之至德 寧可無授命之臣乎

 私は拙劣の身なれど、

 君子の道については

 わきまえているつもりでございます。

 司馬休之しばきゅうし様は至德のお方。

 あのようなお方のために、

 命を投げ出す家臣がおらぬはずなど

 ありえはしませぬ。


未能自投虎口

比迹郗 任之徒明矣

 私はいまだ虎口には

 飛び込んでおりませぬが、

 郗僧施ちそうし任集之じんしゅうしの明察、

 その後を追いたく思っております。


假令天長喪亂 九流渾濁

當與臧洪遊於地下 不復多言

 仮に天が争乱と混濁を

 望むというのであれば、

 私は三国志さんごくしの時代、

 袁紹えんしょうの下につきながらも、

 それでも元上官のために命を張った

 臧洪ぞうこうとあの世で義について

 語らい合うことといたしましょう。

 もはやこれ以上、

 無駄なことは仰いますな」




劉裕足下,海內之人,誰不見足下此心,而復欲欺誑國士!天地所不容,在彼不在此矣。來示言「處懷期物,自有由來」。今伐人之君,啗人以利,真可謂「處懷期物,自有由來」者矣。劉藩死於閶闔之內,諸葛斃於左右之手,甘言詫方伯,襲之以輕兵,遂使席上靡款懷之士,閫外無自信諸侯,以是為得算,良可恥也。貴府將佐及朝廷賢德,寄性命以過日,心企太平久矣。吾誠鄙劣,嘗聞道於君子。以平西之至德,寧可無授命之臣乎!未能自投虎口,比迹郗、任之徒明矣。假令天長喪亂,九流渾濁,當與臧洪遊於地下,不復多言。


(宋書2-26_言語)




まだ曹操そうそうと袁紹が対立していなかった頃の群雄として、張邈ちょうばくという人がいる。彼の弟(張超ちょうちょう)に仕え、また張邈自身からもその才覚を高く評価されていたのが、臧洪。


彼は張邈から劉虞りゅうぐ(後漢の宗室)にあてての使者として派遣されたのだが、途中で袁紹対公孫瓉こうそんさんの戦争に巻き込まれ、立ち往生しているうちに袁紹からも気に入られ、なし崩し的に配下になった。


やがて張邈が曹操と激突、その関係で張超が曹操軍に包囲される。臧洪は元主君を助けたい、と袁紹に願い出るが却下され、そうこうしているうちに張超は敗北、殺された。なので臧洪はブチ切れ、袁紹に対して反旗を翻すも、あえなく敗死する。


ここで張邈=東晋朝廷、張超=司馬休之、臧洪=韓延之かんえんし、そして袁紹&曹操=劉裕とすると、面白いくらいにハマってくる。つまり「どう足掻いても負けるし死ぬ、けどあなたに下ることは絶対にない」と表明しているわけだ。そりゃ劉裕だってこの手紙を見て「これぞ人に仕えるものの矜恃だな」って嘆息します。


ていうか郗僧施や任集之の名前挙げるんならさー、この二人の事績もうちょい教えて下さいよマジで! もしかして沈約しんやく晋書にはこの二人の事績あったんじゃないの!? ほんとに宋書のこの「劉裕派以外の人士など語る必要なし!」って姿勢勘弁して欲しいんですけど! 沮授そじゅ田豊でんほうだって結構三国志には書かれてたでしょ!

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