劉裕88 義熙土断上奏 下

臣荷重任 恥責實深

自非改調解張 無以濟治

 王朝の大権を拝命している

 私といたしましては、

 かかる事態を憂慮せざるを得ません。

 抜本的対策を施さぬ限り、

 解決は難しいと察せられます。


夫人情滯常 難與慮始

所謂父母之邦 以為桑梓者

誠以生焉終焉 敬愛所託耳

 人とはとかく、ひとところに

 留まり居りたいもの。

 論語ろんごに言う父母の邦を、

 詩経しきょうでは桑梓そうこうと呼んでております。

 人とは生まれ落ちたところで

 死にゆきたいもの。

 そこは敬愛する両親の

 いたところでもあるからです。


今所居累世 墳壟成行

敬恭之誠 豈不與事而至

 いま、流寓とされた者たちも

 世代を重ね、先祖代々の墓も、

 この地にございます。

 ならば彼らの思慕は、

 北地の奪回の先にはございません。


請準庚戌土斷之科

庶子本所弘 稍與事著

 桓温かんおん様がなされた土断に準じ、

 この地で生まれた流寓の子らを

 この地に根付かせて下さいますよう。

 さすれば、

 彼らの思いを明らかと出来ましょう。


然後率之以仁義 鼓之以威武

超大江而跨黃河 撫九州而復舊土

 然る後、彼らを仁義でもって率い、

 大晋たいしんの威武でもって鼓舞することで、

 長江ちょうこうの遥か北、黄河こうがをもまたぎ、

 全土を慰撫し、天下統一の折の

 栄光を取り戻せましょう。


則戀本之志 乃速申於當年

在始暫勤 要終所以能易

 すなわち、中原回復の願いは、

 彼らをこの地に根付かせることで

 より、その実現が早まるのだ、

 と申せましょう。


伏惟陛下 垂矜萬民 憐其所失

永懷鴻雁之詩 思隆中興之業

 伏して拝察いたしまするに、

 陛下が万民を思われ、また

 彼らの喪失を憐れまれたのは、

 長らく詩経「鴻雁こうがん」にて

 歌われるが如くのお気持ちで

 あらせられたのでしょう。

 そしてまた、晋朝の威信復活を

 思っておられたのでしょう。


既委臣以國重 期臣以寧濟

若所啟合允 請付外施行

 臣めに国の大権を

 お預けいただけたのであれば、

 すなわち臣めによる威信回復を

 ご期待いただけているものと

 感じております。

 どうかここに示したる建議を

 ご許可いただき、

 土断をご施行下さいますよう

 おん願い申し上げます。




臣荷重任,恥責實深,自非改調解張,無以濟治。夫人情滯常,難與慮始,所謂父母之邦以為桑梓者,誠以生焉終焉,敬愛所託耳。今所居累世,墳壟成行,敬恭之誠,豈不與事而至。請準庚戌土斷之科,庶子本所弘,稍與事著。然後率之以仁義,鼓之以威武,超大江而跨黃河,撫九州而復舊土,則戀本之志,乃速申於當年,在始暫勤,要終所以能易。伏惟陛下,垂矜萬民,憐其所失,永懷鴻雁之詩,思隆中興之業。既委臣以國重,期臣以寧濟,若所啟合允,請付外施行。


(宋書2-21_政事)




あー、謝霊運しゃれいうん撰征賦せんせいふで「桑梓」句を持ち出してるのは、恐らくこの上奏に引っ掛けてるんですね。それで「劉公がこの地を父母の眠る地とお呼びになった思いを同じくしたい」と言った展開になる。こういう援用っていろいろなところに見いだせそうだけど、今の所謝霊運の他の引用についてはしっかり踏み込みきれてないからなあ。現状では小雅小弁と、あとは引用語句は違うけど大雅文王しか一致する引用詩がないので。この傍証だけだったらちょっと先走り過ぎかもしれませんね。


引用被りから見えてくる文章同士の関連性とかも見えてきそうで、にわかにワクワク度が増してきた。

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