劉裕85 安帝反正の詔 下

皇度有晉 天縱英哲

使持節

都督揚徐兗豫青冀幽并江九州諸軍事

鎮軍將軍 徐青二州刺史

忠誠天亮 神武命世

用能貞明協契 義夫響臻

 しかし、晋国しんこくに英雄はいた。

 天が彼を遣わしたのであろうか。

 劉裕りゅうゆう殿の忠義心は天にも届かん勢い、

 その勇武は広く天下に知られ、

 忠良なる仲間らを率いられ、

 多くの義徒もまたそれに応じた。


故順聲一唱 二溟卷波

英風振路 宸居清翳

 よく統率された声が一度響けば、

 その勢いは怒涛の波のごとく。

 英雄らは堂々と進軍し、

 そして帝の住まう地は掃き清められた。


暨冠軍將軍毅 輔國將軍無忌

振武將軍道規

舟旗遄邁 而元凶傳首

回戈疊揮 則荊漢霧廓

 また劉毅りゅうき殿、何無忌かむき殿、劉道規りゅうどうき殿は

 鋭く水軍を率い、桓玄かんげんの首を取り、

 残党をも一掃、荊州けいしゅう漢水かんすい流域の

 霧を振り払われた。

 

俾宣元之祚 永固於嵩岱

傾基重造 再集於朕躬

 司馬懿しばい様、司馬睿しばえい様が嵩山すうざん泰山たいざんにて

 長く堅固なものとされたこの国の基礎は

 一度傾きこそしたが、今再び朕の元へ

 集い来ることが叶った。


宗廟歆七百之祜 皇基融載新之命

念功惟德 永言銘懷

 先祖の霊は七百の福に喜ばれ、

 みかどの権威は新たに結ばれた。

 その功績はまさに徳に満ちたもの。

 永く祝い、思いを胸に懐き続けよう。


固已道冠開闢 獨絕終古

書契以來 未之前聞矣

 その道義心の気高さは

 天地開闢以来のあらゆる道義に冠じ、

 また未来を見渡しても

 類を見ないものであろう。

 少なくともこれまで、文字にて

 このような功績があったと

 書かれたのを見たことがない。


雖則功高靡尚 理至難文

而崇庸命德 哲王攸先者

將以弘道制治 深關盛衰

 その功がどれだけ高かろうとも、

 敬おうとするものは多からざろう。

 理屈で言えば、その功績を

 文で表すのが至難なためである。

 しかし物事の道理を深く知る

 いにしえの哲王らは、

 大道の理屈を正確に用いることで、

 国家の盛衰を深く見抜かれた。

  

伊望膺殊命之錫

桓文饗備物之禮

況宏徵不世 顧邈百代者

宜極名器之隆 以光大國之盛

 そのため伊尹いいん太公望たいこうぼう

 特任を得る証の錫杖を得、

 斉桓公せいかんこう晋文公しんぶんこう

 周を奉じるための礼を万全に整えた。

 ましてやみかどの号令が

 広く天下に届かぬなど、

 はるか百代を見返しても、

 あり得ぬことだったではないか。

 此度の義挙に参じた者は

 明器の極みと言うべきであり、

 この大晋国の隆盛を照らさんとした。

 

而鎮軍謙虛自衷 誠旨屢顯

朕重逆仲父 乃所以愈彰德美也

 そこに照らせば、劉裕殿は

 謙虚にその誠意をしばしば顕とした。

 朕はここに王導おうどう様の勲功を重ね、

 改めてその勲功を顕彰したく思う。


鎮軍可進位侍中、車騎將軍

都督中外諸軍事

使持節、徐、青二州刺史如故

顯祚大邦 啟茲疆宇

 劉裕殿を

 侍中、車騎將軍、都督中外諸軍事とし、

 使持節、徐、青二州刺史については

 元のとおりとしたい。

 大国としての報奨をここで明らかとし、

 この国の導き手として期待したい。




皇度有晉,天縱英哲,使持節、都督揚徐兗豫青冀幽并江九州諸軍事、鎮軍將軍、徐青二州刺史,忠誠天亮,神武命世,用能貞明協契,義夫響臻。故順聲一唱,二溟卷波,英風振路,宸居清翳。暨冠軍將軍毅、輔國將軍無忌、振武將軍道規,舟旗遄邁,而元凶傳首,回戈疊揮,則荊、漢霧廓。俾宣、元之祚,永固於嵩、岱,傾基重造,再集於朕躬。宗廟歆七百之祜,皇基融載新之命。念功惟德,永言銘懷。固已道冠開闢,獨絕終古,書契以來,未之前聞矣。雖則功高靡尚,理至難文,而崇庸命德,哲王攸先者,將以弘道制治,深關盛衰。故伊、望膺殊命之錫,桓、文饗備物之禮,況宏徵不世,顧邈百代者,宜極名器之隆,以光大國之盛。而鎮軍謙虛自衷,誠旨屢顯,朕重逆仲父,乃所以愈彰德美也。鎮軍可進位侍中、車騎將軍、都督中外諸軍事,使持節、徐、青二州刺史如故。顯祚大邦,啟茲疆宇。


(宋書1-48_言語)




自分の中で「劉裕のクーデターは手続き的にくっそマズい」ってのがあるので、どうしてもこういう方向に訳さざるを得ない感じがあります。伊尹や太公望、斉桓公や晋文公ですら基礎となる権威に基づいた、みたいな事が書かれていて、で、劉裕はそういった「理屈」の部分をしっかり理解していたのだ、このことを讃えずしてどうしようか、みたいな感じだと思うんですけど、どうなんでしょね。


とすると詔勅ってのは序文、要約、本文、まとめ、みたいな感じの構成になってるんでしょかね。ちょっと一回ちくま三國志の詔勅だけざっとひっくり返してくるかなー。


あと、途中で出てくる「仲父」も、多くの場合は孔子とみなされる。正直どっちでもいい感じはしてる。まぁけど劉裕の功績と重ね合わせられるのであれば、どちらかといえば王導なのかな、という感じもしますしね。まぁ、そんな感じで。

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