劉裕84 安帝反正の詔 上

桓玄かんげんの手より解放された

安帝あんていが出した詔勅だ。

関連は

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054888581828



405 年3月、安帝が江陵こうりょうより

建康けんこうへと帰還。詔を下す。



古稱大者天地 其次君臣

所以列貫三辰 神人代序

諒理本於造昧 而運周於萬葉

 古より、最も偉大なものが天地であり、

 その次に君主や家臣が来る。

 それは太陽、月、星の序列であったり、

 神と人との序列に同じい。

 この世が混沌の中にあった頃から、

 その理屈は明らかであったし、

 万年に渡り、世は巡ってきた。


故盈否時襲 四靈通其變

王道或昧 貞賢拯其危

天命所以永固 人心所以攸穆

 故に大いなる邪悪の襲来を

 霊獣たちは察知したし、

 王室の権威が揺らぐ時、

 良く賢き人々は

 王室を助けんと立ち上がった。

 ゆえに天命は永く堅固、

 人心は平和に帰趨したのである。


夏周中傾 賴靡申之績

莽倫載竊 實二代是維

 寒浞かんさくより簒奪を受けたときには

 少康しょうこう伯靡はくびが補佐した。

 しゅう幽王ゆうおうの横暴によって傾くと、

 幽王の正妃である申氏しんしの父、

 申侯しんこう平王へいおうを支え、中興をなした。

 王莽おうもう司馬倫しばりんが簒奪を為したところで、

 その天下も永くは続かなかった。


或乘資藉號 或業隆異世

詩書以之休詠 記策用為美談

 義士らは朝廷に

 公認されておらぬ軍権を振るった。

 その功績は従来であれば

 認められぬものであったとしても、

 なお詩や書はそなたらを讃えよう。

 木簡や竹簡にはこの義挙が

 美談として記されよう。


未有因心撫民 而誠發理應

援神器於已淪 若在今之盛者也

 いまだ民を安んじ切れてはおらぬが、

 そなたらの忠誠心の発露により、

 正しき道理が改めて示された。

 すでに傾いてしまった権威を

 そなたらが支えてくれたため、

 今日こうして復正が叶ったのである。



朕以寡昧 遭家不造

越自遘閔 屬當屯極

 朕の不徳により、

 国家に苦難がもたらされた。

 父帝の死後、苦難はついに

 ここにまで至ってしまった。


逆臣桓玄 乘釁縱慝

窮凶恣虐 滔天猾夏

誣罔人神 肆其篡亂

 逆臣桓玄かんげんは国家の衰乱に乗じ、

 凶逆の限りを尽くし、天を侮り、

 ついに天をも傾け、

 簒奪の大逆を為した。


祖宗之基既湮 七廟之饗胥殄

若墜淵谷 未足斯譬

 我が祖先が築き上げられた基礎は

 あらかたが埋め尽くされ、

 七代の祖先らを祀る廟すら

 打ち壊されてしまう有様。

 このような絶望の淵に

 叩き落されたることを、

 どう形容できたであろうか。




義熙元年三月,天子至自江陵。詔曰:古稱大者天地,其次君臣,所以列貫三辰,神人代序,諒理本於造昧,而運周於萬葉。故盈否時襲,四靈通其變,王道或昧,貞賢拯其危,天命所以永固,人心所以攸穆。雖夏、周中傾,賴靡、申之績,莽、倫載竊,實二代是維。或乘資藉號,或業隆異世,猶詩書以之休詠,記策用為美談。未有因心撫民,而誠發理應,援神器於已淪,若在今之盛者也。朕以寡昧,遭家不造,越自遘閔,屬當屯極。逆臣桓玄,乘釁縱慝,窮凶恣虐,滔天猾夏。遂誣罔人神,肆其篡亂。祖宗之基既湮,七廟之饗胥殄,若墜淵谷,未足斯譬。


(宋書1-47_言語)




或乘資藉號 或業隆異世

ここがヒッジョーに難しかったんですが、この時代の軍事行動ってのは基本的に皇帝の承認を受けねば立ち上げてはならなかったはずで、劉裕らの決起ってのはノータイムで処罰の対象、のはずなんですよね。本来。けど、それによって安帝奪還というとんでもない功績が成し遂げられた。ここの二句は、そういう部分を語っているんだろうなあ、という感じがします。つまり「非合法な軍事行動を強引に認めさせてしまった」のが反桓玄クーデター。


この辺結構緻密なバランス調整があった感じがします。というのもこのクーデターに際し、劉裕って敵軍相手に「俺ら陛下からの命令を受けて立ち上がったんだぜ!」って宣言してんのに、檄文では。同じく檄文においては毛璩もうきょ郭昶之かくちょうしの参与、王睿おうえい諸葛長民しょかつちょうみんの連動が歌われてるんですが、前者がこのクーデターに協力したという確証はないし、後者はスタートする前にコケてます。この辺見てると、ある程度ハッタリで嘘をかまして良いラインもないではないが、公的な声明において「皇帝からの承認を受けている」だけは絶対にやっちゃいけないラインだった、というのが伺えそう。そしてそういうのがあって、上掲二句が改めて詔勅の中に登場した気がします。「お前たちのやったことはやべー、やべーけど、世は称える、朕も称えるぞ」的な。


しかもこの詔勅、典拠についてはきっちり檄文を受けて、それに応じる形で記されてるんですよね。それもまた晋サイドからの「お前たちのやったことを認め、称える」意思の発露と見れそう。


まぁ、董卓の代わりに司馬倫が出てきたのは、たぶん詔勅策定チームがツッコミ入れてますよね。「おい董卓別に簒奪してねえぞ……この流れで董卓は出せねーだろ……司馬倫出しとけ司馬倫」って。そう考えると、ちょっと面白い。

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