第3話ルートB 反逆者




 その斧は白魚のような首に当てられることはなかった。


 殺せない、殺してはいけない。

 刑吏は十五、六の少女を抱えて走った。


 斧はその場に投げおかれ、それを踏みつけて兵は刑吏を追った。


 罪人は目を丸くさせ、刑吏は息をきらし、反逆者らは馬を奪って走った。


 

 「どうして?」

 罪人は聞いた。


 「分からない」

 刑吏は言った。


 

 運命は一瞬のうちに結びつけられ、刑吏の感じた赤い糸はその腕の内にあった。


 

 罪人のプラチナブロンドがなびく。

 刑吏の心臓がどうとうとなる。


 

 どこまでいくのだろう。

 どこなら生きられるのだろう。


 神が認めるのならば、直感が導いてくれるだろうと。

 ひたすらに、無計画に、冷静な刑吏にしては珍しいことに考えることを放棄していた。


 

 夜。


 逃げおおせて森の奥。


 眠る彼女はやはり美しいと。


 刑吏は罪人の語る全てを頭にしまいこみ、その肩を抱きよせた。



 真実は守られた。しかし誰がそれを真と知れるのであろう?

 平穏は破れた。国をも揺るがす蝶のはばたきは既に。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

斬首の娘と執行人 雨禍津 しう @amagatsu_sh1u

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ