反覆の国

僕の夢の中にだけ存在している世界がある。


ずっと続いている夢と言うべきかそれとも人間の深層心理の集合的無意識としてある場所なのかは分からないのだけれど。

あなたにもあるだろうか?あなただけの町、そして国が。


***


一度や二度見た夢ではない、物心ついた頃から常連の様に通い気づけば中毒の様に行列に並んでいる。

味は思い出せないのだが存在しないラーメン屋「まろい軒」は味噌ラーメンが美味しい店として有名なのだ。

平屋で古民家のような雰囲気、昭和から時が止まっている様な風情のある店で駐車場がだだっ広い、しかし車が止まっている事は無い。

だいたいの場所も僕の頭の中にあるが現実世界のそこに「まろほ軒」は存在せず出来るならいつか食べてみたいと思っている。

僕は味噌よりとんこつ派なのだけれど。


***



踊ってばかりの高校

これは「まろほ軒」のすぐそばにある高校の話でいつも文化祭をやっている。僕は味噌ラーメンを食べるついでに冷やかしに訪れたりする。ずっと空に色とりどりの風船が飛んでいてクラッカーの音が鳴り続けている。生徒達はいつも浮かれて踊り回っている、まるで遊園地のパレードの様に。

この世界には珍しく晴れていて心地がとても良い、昼間の間は。


僕は校舎の中に入り自分の学校では無いと知りながらも下駄箱から上履きを取り出し上がろうとする。

行ってはいけない場所が4階の北校舎にある、多分呪いの類いだろう。女の影が出ると噂されているので夕暮れ時には立ち入り禁止と校則で定められている。一度逢魔ヶ刻に渡り廊下を北校舎の方へ向かって歩いてしまい女の叫び声と明らかに異様な影を見てトラウマになった。

その夜は金縛りで目が覚めた。


***


暗い温泉旅館

吊り下げられた無数の裸電球が有り得ないほど暗くいつも雨が降っていて本館から露天風呂へ行く長い廊下には人外が徘徊している。

真っ黒な河童の様な存在で捕まると大変な事になると誰かから教えられた。しかしどうしても風呂に入らなければならずそこへ行ってしまう。

物陰に隠れてやり過ごしまだ河童に見つかった事は無い。


その旅館の特筆すべき事は内海に面した高い崖の上に経っているという事。

地理的には広島辺りなのだが断崖絶壁でこの場所を訪れるのにいつも苦労する。


おかしな事をつらつらと書き並べているのは承知の上でもう一つこの世界のおかしな点を言うと


【世界が全て鏡の様に反転している。】


大阪、広島、山口辺りと四国を山手線の様に反時計にぐるりと高速鉄道が走っていて件の温泉宿はそれに乗って訪れる。


勿論現実世界にはそんな鉄道は存在しないし鏡の様に反転した世界など存在しないのは理解している。


崖の上の旅館なんて行った事もないし人外が彷徨いている四国の旅館に訪れた事もない。


僕はいつも家に帰ろうとする、でも切符が無かったり終電が終わっていたりで帰る事が出来ない。夜になって雨が降り出して暗い海が見えて怖くなる。


孤独感に苛まれ家族に会いたくなってどうにかして帰ろうと歩き出す。そうするといつのまにか列車に乗っていて窓から帳の降りた景色を眺めている。雨は強さを増していく。

地元の大阪へ帰っているのに進行方向は西で左の窓には海が見えていてそれでも安堵して僕は家に帰ろうとしている。


今回紹介した場所は現実世界ではここだと地図を指差せる場所ばかりなので実際に一度足を運ぶのも悪くないかもしれない、ふとそう思った。


あなたにもこんな場所があるなら酒を飲んだ時にでもこっそり教えて欲しい。

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