囁くもの
後楽ビルという奇妙なビルがある。
戦後に建てられたままの外観で中は回廊の様になっており怪しげなバーが立ち並ぶ。
東京でいう所のゴールデン街を煮詰めた様な場所、サブカルの聖地として名高く、このビルはメンヘラと基印にしか見えないと言われている。
毎晩の様にお笑いやSMやクラブなどのイベントが開催されていてまるで不夜城の様相を呈していた、コロナのずっと前の時代だ。
僕はあるイベントでここに吸い寄せられてから虜になった。
本名も分からない、何を生業にしているのか分からない人達と酒を飲み仲良くなるのは楽しかった。
大袈裟ではなく何百人も顔を知っているのに本当に名前を知っているのは多分十人も居ないと思う。
ある時イベントに誘われて作ったばかりのバンドでライブをさせてもらえる事になった。
僕は行きつけの店の閉店後の時間を借り持って来ていたギターをアンプに繋ぎマイクも用意して歌う練習をする事にした。
鍵も借りていていたので少し練習したら帰ろうと思ってギターを弾き、歌おうとした時
「※$%#°していい?」
「※$%#°していい?」
と二度左耳のすぐそばで男の声に囁かれた。
もちろん店には僕以外にいるはずもなく空耳でもない、扉は固く閉まっている。
その瞬間身体の左半身だけに鳥肌が立った。
左側に男が、いる。
左側を絶対に向いてはいけないと本能が告げる。脳内で死に関する警告が出ている。
恐怖に足が竦みながら左側を見ない様ギターとアンプを片付け逃げる様に店を出る。
あの時男は何をしていいかと聞いていたのか、そして頷いていたらどうなっていたのか思い出しても寒気がする。
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