四国にて

これは僕が二十代の頃付き合っていた女の子の友達から聞いた話だ。


その女の子をめいちゃんと呼ぶ。めいちゃんは当時四国に住んでいて某有名テレビ局でアナウンサーをしていた。


僕は知らなかったのだが徳島に住んでいると皆が知っているような番組のアナウンサーだったらしい。


僕と彼女が旅行がてらめいちゃんに会いに徳島へ行き実家に泊めてもらった時、そろそろ夜も更けて来たという頃にめいちゃんが話し始めた。


「そういえば君怖い話好きだったよね?実際におかしな体験をしたんだけど聞きたい?」


ベッドの上からめいちゃんが僕達に尋ねる。


酒の勢いもあり聞きたいと僕は答えた。


めいちゃんの家は畑に囲まれた場所にポツンと立っている一軒家でカエルがうるさいほどに鳴いていた、真夏の暑苦しい夜だった。


怖い話を聞くシチュエーションとしてはこの上ない。

彼女も興味深そうにめいちゃんを見ている。


「去年の同じくらいの時期に番組の企画で心霊スポットを巡る事になってレポーターとして行く事になったの。私の他に5人、カメラマンや音声さん達のいつものチームで何軒か回ったんだけど最後のお寺でおかしな事が起きてさ、さっきまでは普通に動いていたカメラが突然動かなくなったんだ。

うんともすんとも言わなくなって撮影は中断、休憩になってその間カメラさんが修理をしていたの。」


心霊スポットあるあるだなと僕は思った。

後で撮影したものを見たらそこには映ってはいけない物が映っていた、までは想像する。

実際にはお寺の名前も聞いたし後日録画した放送も見せてもらったがそういう事ではなかったのだが。


めいちゃんは続ける。


「少し経ったらカメラが直ったらしくて撮影を再開する事になったの。影がよく出るという場所を撮影し終わって何事もなくその日は解散になった。」


そこから深呼吸をしてめいちゃんは続ける。


家に帰って夜寝てたら金縛りに遭った、と聞いた途端嫌な予感がした。


「身体が動かなくなって目を瞑っていても部屋が見えるのね、怖いと思っていたらそこのドアが開いてぞろぞろと人が入って来たの。十人は居なかったと思う。見た目は白装束を来たお遍路さんみたいな格好でスーッと浮くようにベッドの周りを取り囲んだと思ったら私を見ながらブツブツと口々にこう言うの。」


「この子だよね?」


「そう、この子この子。」


「そうかこの子か。」


「そうそうこの子。」


恐怖に駆られ必死に念仏を唱えごめんなさいごめんなさいと呟いた。

気がつけば集団は消えていたらしい。

汗をぐっしょりとかいていて閉めていたはずの扉がほんの少しだけ開いていたという。



***


動けるようになった彼女は両親を必死に起こして皆で戸締りを確認したが誰かが入ってきた痕跡はどこにも無かった。


「昼間最後に行ったお寺からあの人達は来たんだと思う。だってあそこはお遍路さんの幽霊が出るって噂されている場所だったから。私顔を覚えられてしまったわ。もう心霊スポットには行かない。」

というとめいちゃんは肩を竦める。


部屋は話の途中から寒々としていて話終わっても冗談を言えるような雰囲気では無くなっていた。

まさにこの部屋で起きたという話に身体が強張る。




そしてカエルはしんしんと鳴き続けていた。





めいちゃんはその少し後テレビ局を辞めて今は何をしているか分からない。


何年か後に泣きながら電話をかけて来たことがあったが元気にしているだろうか?


四国には人智を超えた何かがいるのだろうと僕は思った。

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