沖縄、闇の中に遊ぶ

こうしてつらつらと思い返すと旅先でも不思議な体験をした事を思い出す。


友達に誘われ沖縄旅行に行った時の話だ。


SNSで知り合った女の子と初めて遊んだ日、今度沖縄に知り合い達と行くから一緒に来ない?と酒を飲みながら言われた。


どう考えても冷静になって考えればやめておけば良いものを当時僕は若く怖い物無しでタイミングの悪い事に尖っていた時期だったのもあり二つ返事でオッケーをした。


その後違う意味で怖い思いをしたのだけれど本筋からは離れるので語るのはやめておく。



当日空港にはその女の子と女の子のお世話になっているという夫婦が僕が到着するのを待っていた。


急いで駆け寄り、待たせた事を詫びる。


「全然気にしないで!良くあるから!」

夫の方が僕に明るく声をかける。


その返事に若干の違和感を感じたが初対面の緊張ですぐに忘れてしまった。

不思議な雰囲気の夫婦だった、何の仕事をしているのかも女の子との関係も何一つわからない。


僕以外の素性は全く分からない四人旅となった。


そのまま飛行機に乗り込み人見知りの僕は相槌は打つもののあまり会話をする事も無いままフラフラとレンタカーで行楽地を回遊し、山奥にあるペンションに辿り着く。

この場所で二泊三日の予定だ。


***


着いた頃にはもう山の日はとっくに沈んでいて濃い暗闇の中にぼんやりと白い壁が見えて来た。

車を降りるとそこには古い建物があった。

コノ字の様な作りになっていて想像しているよりずっと大きなペンションだ。

そして何より夏前の閑散期で人の気配がまるでしないので僕は急に恐ろしくなる。


廃虚と言われれば信じる程の人気の無さ、例えでは無くまるで誰も居ない。


ペンションに囲まれる様にプールが付いていて水の音だけがチャプチャプと鳴っている。


「確認したらどうやら今日泊まっているお客さんはいないらしい。」

と女の子は言う。


彼女たちはこの状況に慣れているようで荷物を運び込んで行く。

よくあるドラマの殺人鬼が出てくる閉ざされたホテルそのままのロケーション、辺りを見回し暗闇に目眩がして僕は来た事を後悔した。

年配の女性が管理人をしていて三人と談笑をしていたので定期的に来ているのだろう。


鍵を開け部屋に入る。

部屋は変な作りをしていてロフトがそのまま大きくなったような二階があった。

一階の奥の十畳くらいの部屋に入った時ここで皆で雑魚寝すると告げられる。

買ってきた材料で簡単なサラダや一品を作りベランダに持っていって酒盛りが始まった。


自己紹介で男が語るにはどうやら夜のお店のオーナーをしていていて奥さんも女の子もそこの元従業員らしい。

広いベランダでそこに置いてあるチェアーに座りプレートで焼肉を焼きながら酒を飲んだ。


鬱蒼とした山が正面に見えている。

僕は一番左側の椅子に腰掛け右手に三人を見ながら話し込み、長旅の疲れもあり酔いが回りつつあった。

僕が他愛もない話題を振り各々が答える。


そして左の人にも君はどうなの?と質問を投げかけた。


左を見た途端気づいた、そこには壁しか無かったし人なんていないと。

皆が黙り込む。

うるさかった虫の声も止まったような気がした。


重い沈黙の後女の子が口を開く。


「やっぱりそう思った?私達は毎年ここに泊まりに来るけど夜も更けてくると必ず一人増えている気になってくるの。

私達はもう気にしていないから前もってそんな話はしないけど新しく知り合いや友人を誘うと決まって他に誰かいると言い出す人が出てくるのよ。」


僕もそのうちの一人だった。




右を向いて三人と話している時ずっと左の壁から視線を感じていてもう一人いるのだと思い込んでいた事、そして酔っているとはいえ見えないものに話しかけた事に僕の背筋は凍る。


彼女は続けた。


「でも悪意は無さそうし子供みたいだから毎年この部屋に泊まっているの。」


男の子だよね?と僕は言った。


三人は静かに頷く。


その後の沖縄旅行の事はあまり良く覚えていない。


観光地を巡り、部屋に帰りある程度夜が更けるとその気配がし始める。

二日目の夜には誰も居ないはずの二階から駆け回る様な足音が聞こえた。

そして僕は気にしないように泡盛を煽って布団を頭から被り、寝た。


多分男の子は遊んで欲しかっただけなのだと思う。


そんな沖縄の夜の話だ。










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