第81話 なんだか小早川美海の様子がおかしい
今日は学校へ。
というか、部室へ。
快適な空間で好きな事して過ごすのだ。
あとは、出来れば誰も来ないで欲しい。
僕のささやかな願い。
「あ。」
「ああ……」
校門で小早川さんとバッドエンカウント。
こうなると、僕の願いは叶わない。
すごくささやかなヤツなのに。
「おはよう。小早川さん」
「お、おは。おはよ。私、先、行くね」
「うん? いや、先に行っても部室開いてな……行っちゃったよ」
なにやら違和感を覚える小早川さんの態度。
なんだろう。僕、何かしたかな。
昨日の、と言うか今日の話だけど、深夜2時に『異世界転生したらステータス表示が出る系のお話があるよね。あれって、どこまで出るのかな。スリーサイズは出るよね。トイレに行きたい時は状態異常になる?』とか、実に中身のない長文メッセージを送ってきたから、あの時点では元気だったのに。
朝ごはんでも食べそこなったのかな?
僕は部室の鍵を受け取りに生徒会室へと向かう。
そこには守沢の姿が。
「守沢。おはよう。部室の鍵くれる?」
「おっつー、来間。ねーねー、美海ちゃんさっき見かけたんだけどさ。なんか今日、美海ちゃん変じゃない? なんか落ち着きないって言うかさー」
「あ。守沢もそう思ったんだ。僕も違和感があるなぁと思ってたんだよ」
「え゛っ!? 来間が女子に対して違和感を……!? ちょ、ヤメてよ! 今日、ママが布団干してるんだから! 急な雷雨とかマジ勘弁なんだけど!!」
「おかしいな。僕、小早川さんの話してたよね」
守沢と喋っていても得るものはなしと判断した僕は、速やかに部室へ。
今日も暑いし、早いところ部室で涼みたい。
「あ。来間くん」
「お待たせ。早く中に入ろう」
「あぅ。わ、私は、外で平気。お気遣いなく」
「いや、気を遣うよ? 部員が部室の前で熱中症とか、100パーセント部長の僕が責任に問われるよね。バカなこと言ってないで、早く入ってくれる?」
コンディション不良の小早川さんの背中を押して、部室へと移動。
ここからは自由時間。
適切な水分摂取を心掛けてくれたら、後は好きに過ごすと良い。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おっつー! 文芸部の名誉部員である牡丹ちゃんが遊びに来てやったぞー!!」
「いつからそんなものが設立されたんだ……。水ようかん食べたら帰ってね」
守沢が部室へとやって来た。
エアコンがちょうど良い塩梅に効いてきて、実に過ごしやすい室温、湿度になったタイミングを見計らうかのように登場。
もう「御用改めである!」とか言わなくなった鬼の副長。
アイデンティティって1度失うと2度と戻らないんだって事を、彼女は僕に教えてくれる。
「美海ちゃん! 一緒に水ようかん食べよ!」
「あ。ううん。あの。私は大丈夫。お腹空いてないから」
「美海ちゃんが、お腹空いてない、だと……」
「守沢さ、だんだんリアクションが僕たち寄りになって来てるの、気付いてる?」
小早川さんに冷たくあしらわれたのが悲しかったのか、守沢は水ようかんを手に、僕のベストプレイスである部室の隅っこへ。
ヤメて欲しいな。
勝手に国境侵犯してくるの。
「ちょ、来間! 美海ちゃんになんかしたでしょ!? さては、あんた! ついに三次元に目覚めて、やらしいこととかしたな!? 部室に2人きりだからって!!」
「実に不愉快な想像だなぁ」
「だって、明らかに様子がおかしいじゃん! 美海ちゃんに何かできるの、来間くらいでしょ!? そうだ、ホノカちゃん呼んでよ! 聞くから!!」
「ああ、ホノカは今日いないよ。メンテナンスが長引くから、1日親父のところから動けないんだってさ」
「彼女が留守になった瞬間にとか……。いつから肉食系になったの?」
「肉食系の極みみたいな守沢にそれを言われると、本当に遺憾だな」
その後も、守沢は「今日のアメリカのデモ見た!?」とか、「上海の株式指標がさ!!」とか、身の丈に合わないインテリなネタで小早川さんの感心を引こうとするも、ことごとく不発に終わり、最後は涙目になって僕のところに戻って来る。
「来間ぁー! 美海ちゃんがなんか冷たいー!!」
「ほらね? 僕のせいじゃなかったでしょ? むしろ、守沢が何かしたんじゃないの?」
「あ、あたし!? そんな、あたしが美海ちゃんにひどい事する訳ないじゃん!!」
「ほら、何日か前に、私が
「あたし、パンツ見られなくちゃいけなかったの!?」
「さあ? 本人に聞いてみたら?」
今日の守沢のガッツはすごい。
この僕が認めるくらいだから、これはよっぽどである。
「美海ちゃん? ぱ、パンツ見る?」とか言ってたもの。
そこのセリフだけ録音して、夏休み明けたら校内放送で流してあげたい。
何が哀れかって、それだけ体張ったにも関わらず、小早川さんに「ごめんね。今は、そういう気分じゃなくて」とか言われて断られていた点である。
結局、守沢はしょんぼりして生徒会室へ帰って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そんなこんなで、夕方になるまで僕はラノベを3冊読んで、小早川さんは部室の反対側でウマ娘育てていた。
下校時刻になったので当然、僕たちも帰宅するのだが、小早川さんは「私。さ、先に帰るね」と足早に部室から立ち去っていった。
思えば、ちゃんと「さようなら」を言わないで小早川さんが帰るのは初めての事だったかもしれないなぁと、うっすら茜色に染まる空を眺めて思ったりもした。
彼女の異変の理由が分かるのは、メンテナンスを終えたホノカが僕のスマホに帰って来てから、割とすぐの事だった。
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