第29話 1度覚悟を決めたら、楽になれるよ
「マジかぁ。いや、そうなんだ。美海ちゃん、オタクだったのかぁ」
「つまり、この場にいる全員が同士という訳でござるな!!」
「ヤメろ! あたしを頭数に入れんな!!」
守沢は、未だに一人で無駄な抵抗を続けていた。
僕はホノカとコスチュームについてお話し中。
つまり、三次元の相手はできない。
「やー! あたしは無理だから!! マジで! そーゆうの、興味持ったりしたことないし!!」
「守沢さん……。やっぱり、嫌かな? 私って、おかしいかな?」
「え゛っ!?」
学校のヒロインで、西高に通っていれば知らぬ者のいない小早川さん。
そんな彼女が、潤んだ瞳で守沢を見つめる。
「いや、そんな! おかしくないよ! 美海ちゃんがどんな趣味持ってても、あたしは友達だと思ってるし! ホント、マジで、全然平気! 気にならないから!!」
鬼の副長をもってしても、小早川さんの可愛らしさには打ち勝てず。
ちなみに、可愛らしさを数値化すると、小早川さんが100としたら、一般の女子生徒が2になり、守沢は辛うじて3くらい。
ホノカは560000。
「本当に? 良かった。私、嬉しい」
「あー、うん! マジであたし、偏見とかそーゆうの全然ないからさ!!」
僕と高虎先輩に対して取ってきた数々の無礼を棚に上げる守沢。
なんという厚顔無恥な三次元。
「じゃあ、一緒にコスプレできるね!」
「え゛っ」
だけど、許そうと思う。
抜け出せないアリ地獄に落ちた守沢が、ほんの少しだけ可愛く見えたから。
三次元の罠にハマる三次元。
「では、話がまとまったところで、スケジュールについてでござるよ!」
「ま、まとまってないし!」
「もしかして、守沢さん、チアレッドの方が良かった? そうなら言ってくれたら良いのに。私、変わるよ? チアイエローも好きだから」
「あ、ああ、いや! 違うの! イエローに不満はないんだけど!」
「そうなんだ。良かった。実はね、ずっとイエローは守沢さんだなって思ってたの」
「たしゅけて、来間ぁ」
何か、哀れな三次元の声が聞こえた気がするけど、さっきから僕はホノカと『チアレッド・バーニングフォーム』の胸元についての議論で忙しいから、残念だけどそれは拾ってあげられない。
「再来週の土曜日に、涼風市でコスプレイベントが開かれるのでござる! そこで、我々が乗り込み、群衆を圧倒して見せるのでござる!!」
『ほわぁー! 良いですね! なんだか、みんなで1つの目標に向かって頑張るの、青春って感じがします!! ホノカ、頑張りますよぉ!!』
「私も、すごく楽しみ。日本に来て良かったなぁ」
いつの間にか、僕の隣に移動してきた守沢。
なんだか涙目で、こちらを見つめてくる。
「諦めなよ。もしくは、小早川さんに嫌だって言えば?」
「どうして、どうして、あたしがこんな事に!! ちょっと
涙目で上目遣いの守沢を脳内で、強気だけど押しに弱い二次元キャラに切り替えると、意外と推せた。
守沢、三次元ヤメたら?
◆◇◆◇◆◇◆◇
コスプレ会議は大変な盛り上がりを見せ、守沢は最後までどこかで抜けるタイミングはないかと無駄な足掻きを繰り返した。
それ、僕がもう充分にやってるから。
結局、小早川さんに「DVD、貸すね。ブルーレイとどっちがいいかな?」と言われ、「うちブルーレイ再生できないから」と言ったばっかりに、部室にあったDVDを全部持って帰ることになった守沢。
部室のDVD?
何の問題もない。貸し出したのは布教用のヤツだから。
観賞用のヤツはちゃんと残っている。
『むふぅー! 楽しみ過ぎますねぇ、大晴くん!!』
「そうだね!」
ホノカさん夏服エプロン・ポニテバージョンと言う最強の姿になった彼女を前にして、何か反論めいた事が言える人は、直ちに人間を辞めた方が良い。
『しかも、今回は松雪さんがホノカのコスチュームまで作ってくれるんですもん! データに起こして! ありがたみが過ぎますー!!』
「僕はホノカの手作りのチアコスも好きだったよ?」
今日の晩御飯は生姜焼き。
付け合わせのキャベツの千切りをしながら、僕はホノカに
『むーむー! 大晴くんはホノカの事が好きだから、何を着てても好きって言うんじゃないですかぁ?』
「これは困る! 否定し辛い! だけど、ホノカが一生懸命作ったヤツなんだからさ。たまに着て見せてくれると嬉しいな」
ホノカは照れた様子で、黒い髪をクルクルといじる。
大変可愛らしくて、ノールック千切りを披露してしまった。
素人が真似すると大変危険なので、ご注意されたし。
ついでに、ふと気になった事を口に出してみる。
ホノカが相手だと、本当に話題に事欠かないので、このままではコミュスキルがみるみる上昇してしまうだろう。
「そう言えば、ホノカの髪って黒いよね? 小早川さんは銀色なのに」
『はい! だって、美海さんと髪の色まで一緒になったら、大晴くん見分けつかないんじゃないですかぁ?』
「それはないよ」
相手の発言を即否定するのは失礼だったかなと思うものの、この質問は何回聞かれても即座に否定してしまう自信があった。
『どうしてですか?』
「そんなの、決まってるじゃない。ホノカはホノカで、小早川さんとは別人だから」
冷蔵庫を覗いてみると、野菜が結構入っていた。
よし、豚汁も作ろう。
『大晴くんは、時々ズルいです! そんな風に言われたら、困っちゃいますよぉ』
「あれ? もしかして、ホノカ、照れてる!?」
『て、照れてないですもん! わたしを照れさせたら、大したものですよぉ!!』
長州小力のネタが萌えワードになるんだから、ホノカは本当に尊いなぁ。
そうなると、ノールックで里芋の皮剥くのも致し方ない。
顔赤くしてアワアワしているホノカを見ないで、里芋見ろって言う人とは、悪いけど話が合いそうにない。
「ホノカは可愛いなぁ」
『ちょっとぉ! ヤメてくださいよぉ! 彼女のスキを突いてそういうこと言う大晴くんの事なんか、嫌いになっちゃいますよ!』
なんて楽しい夕飯の支度だろう。
こうしてホノカと話していると、あんなに嫌だったコスプレも楽しみに思えてくるのだから、愛の力ってヤツは凄いと改めて実感。
そして親父を召喚して、夕飯。
「なあ、大晴。豚汁の里芋、多くない?」
『多いです! これじゃあ里芋の煮物ですよぉ!』
だって、ホノカに夢中になっていたら、箱の中にあった里芋を全部処理しちゃっていたのだから、仕方ないじゃない。
愛の前には豚汁も無力なのだ。
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