第30話 文芸部の正しいアニメ鑑賞会
『2人とも、ガチチアの鑑賞会をして、ポーズを研究しましょうよ!!』
基本的にホノカの提案を蹴るという選択肢が僕には実装されていない。
それがいかに破滅的なものでも、僕は「いいね!」と頷く。
であれば、それが建設的なものだった場合は、言わずもがな。
「いいね!」
結局なに言われても一緒じゃないかって?
そこが分かってもらえたなら、僕としても大満足。
「何話にする? 一期全部見たいけど、それだと夜になっちゃうよね」
小早川さんの動きは速い。
もう既に、プレイステーション4の前でお尻をこちらに向けてディスク選び。
女の子がそういう姿勢を取るものじゃないと思うよ。
指摘すると面倒な予感がするから、黙って目を逸らすけども。
「もちろん、1話! と言いたいところだけど、チアイエローが加入するまでが3話。シルバー司令官と勢揃いのシーンを見るとなると、5話になるよね。作画的には8話も捨てがたいけど、8話は水着回だからなぁ」
『水着回、イイですよねぇー! レッドのムチッとしたお尻も良いですけど、スレンダーなブルーの水着姿は貴重ですし、普段ぶっきらぼうなイエローちゃんが可愛い水着なところも要注目ですよぉ! ……じゅるり』
「ストーリー的には10話から12話を一気見したいな。やっぱり一度敵に敗れてからの再起を図って、友情と努力からの勝利のカタルシスはこの作品の良いところが全部詰まっていると思うし。最後のチアハンマーのシーンは感動だよ」
オタクが集まると、すぐに話が脱線する。
それぞれが言いたいことを言うので、話は混線もする。
誰かが強いリーダーシップを発揮しないと、その状態からの脱却は絶望的。
「ところで、何の話だったっけ?」
『ええと、水着がですね! ……あれ?』
「チアハンマーが熱いってことを伝えたかったの」
ご覧の有り様である。
強力なリーダーが求められるのは、スポーツも政治もオタクの世界もみんな同じ。
僕たちは、20分かけて本来の目的を思い出した。
その時間で1話視聴できたよ、もったいない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃあ、4話と5話に集中しよう。異論があれば言って欲しい」
『ホノカは全然問題なしです! チーム戦メイン回ですね!』
「私もそれで良いよ。って言うか、もうチアーズが見られるならなんでも良いよ」
全会一致を果たしたところで、プレイステーションに副業を頼む。
ゲーム機に映像再生機能を持たせた発想と技術は素晴らしいと思う。
僕はずっとソニーに着いて行く。
だけど、任天堂には着いて行かないとは言っていない。
ゲームハードの話はオタクにとって御法度。
千日戦争を覚悟しなければならぬ。
全部がオンリーワンで良いじゃないか。
ナンバーワンにならなくてもいいって名曲でも言ってる。
巨大な液晶テレビでは、チアレッドとチアブルーが先行して戦うもやや苦戦。
そんな中、イエローが駆けつけて、チアシューターで援護射撃。
最高に熱いシーンである。
「良いなぁ」
『ですねぇ』
「うん。イイ」
アニメを鑑賞する時のタイプにも多くの種類があり、「うぉぉぉ!」と絶叫する系と、「ああ……」と静かに感じる系に大別される。
さらにそこから細かく枝分かれしていくのだが、その話も長くなるので割愛。
とりあえず、僕たち3人は全員が心の中で炎をたぎらせるタイプだった。
ちなみに、高虎先輩は絶叫タイプ。
そっちはそっちで盛り上がるから、今度は先輩も呼んであげよう。
「そう言えば。あ、ごめん。いいかな?」
『なんですか? 今はちょうどエンディングなので、大丈夫です!』
「エンディング曲も神だけど、もう100回は聞いたから、私も平気」
アニメ鑑賞中は、発言する際許可を求めるのが暗黙のジャスティス。
いきなり世間話を始めたりすると、ハチの巣にされても文句は言えない。
「いや、思ったんだけどさ。チアーズ、武器があるよね。レッドはハンマー。ブルーはランス。イエローはシューター」
『ありますね! ホノカはシューターも捨てがたいですが、やっぱりハンマーです!』
「うん。ハンマーこそ始祖にして至高。最終戦もハンマーで締まるし」
「あれってかなり大きいじゃない? 一番小さいシューターでもキャラの腰くらいまであるし。ハンマーとかもうキャラより大きいし。どうするのかなって」
素朴な疑問だった。
コスプレは鑑賞派の僕は、武器や小道具の出来栄え点も加えたい。
ただし、演じる側になると話は変わってくる。
7月の上旬。まだ梅雨も明けていないであろう、高温多湿の屋外。
あのバカでかい武器を持って、果たしてほぼ全員初心者の僕たちがイベントを完走できるのか。
『えー!! 絶対にハンマーは欲しいですぅ!! ハンマーのないチアレッドなんて、チャーシューのないチャーシュー麵みたいなものじゃないですかぁ!!』
「うん。チアハンマーは至高。これは来間くんが相手でも譲れない。チアハンマーユニゾンアタックのポーズは絶対に外したくないもん。絶対。絶対」
どうやら、愚問だった模様。
まあ、ホノカはスマホの冷却装置を親父に用意させたら良いとして。
小早川さんもスポーツ万能だから、体力にも自信があるようだし。
僕? シルバー司令官は武器ないから。代わりにマントがあるけど。
平気、平気。オタクって運動できないと思っているのは偏見である。
弱虫ペダルで自転車を始めたし、ダンベル何キロ持てる? で、筋トレもやりまくったし。
一度ハマると、一般人の数倍の情熱を持って体を動かすから。
さあ、アニメの視聴に戻るので、同士諸君もお静かに。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「良かった」
『最高でしたぁ』
「うん。萌えたし、燃えたね」
2話分、時間にして40分強の、1時間にも満たない上映会。
しかし、その熱量は確実に僕たちの心を動かしていた。
そして、3人とも気付いていた。
「僕たち、改めてポーズ確認するまでもなくない?」
『ホノカはとっくにバッチリです! レッドもブルーもイエローもイケますよぉ!』
「私もだよ。シルバー司令官も、何なら敵のブルドッグのポーズも、完コピ余裕」
僕たち、ただアニメを楽しんでただけだ!
これ以上ないくらいに学習済みな僕たち。
学ばせるべき人間は他にいると確信に至る。
『大晴くん! 美海さん! 今、牡丹さんにメッセージ送りました!』
「僕は飲み物でも淹れるよ。あと、水ようかんで釣ろう」
「私、守沢さんが来たら、すぐに
この後、のこのこやって来た守沢が、ホノカと小早川さんの挟撃を受けながらガチチアのマラソンをするのだけど、まあその話はまたの機会に。
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