第28話 コスプレのお品書きと巻き込まれた守沢牡丹

「ちょっと、松雪! なに勝手に学校に侵入してんのよ!」

「守沢氏は騒がしいでござるなぁ。ちゃんと今日だって入校証は貰い受けているでござるよ! なっはっは!」


「守衛のおじさん!! また買収したな!?」

「別に何もしていないでござるよ。ちょっとだけ最中もなかを差し入れしたでござるが。大学生として、働く大人をリスペクトしただけでござる」


 未だに「表出ろや! あたしが叩き出してやる!!」と鼻息荒い守沢。

 ただでさえ梅雨で蒸し暑いのに、ヤメて欲しいなぁ。


「みんなにもお土産あるでござるよ。銘福堂めいふくどうの最中でござる!」

「べ、別に食べたくなんてないんだけど!? でも、仕方がないから食べてあげる!!」



「守沢氏がみんなに含まれていると思う辺り、想像力がたくましいでござるな」

「守沢さ、高虎先輩のお土産欲しがる度にツンデレになるのヤメてくれる?」



「な、なによぉ! いいじゃん、そんなにいっぱいあるのにぃ!!」


『大晴くん、いじわるしちゃダメですよ! めっ!』

 ああ、今日も僕は生きている。


「ホノカに免じて、食べていいよ。というか、入口閉めてくれる? せっかくエアコンつけてるんだから」

「ぐぬぬっ。分かった! ほら、言う通りにしたから! 最中ちょうだい!!」


「やれやれ。守沢氏は食欲の権化でござるなぁ。なんとはしたない」


 あの守沢が高虎先輩に言われるまま、言いたい放題にされても耐えて、最中を手渡されると満面の笑みになった。

 三次元の笑顔って、安いなぁ。


「来間くん。これってどうやって食べるの? 外側、剥がすのかな?」

「ああ、またこのパターンなのか。ダメだよ剥がしたら。そのまま食べるの」


「でも、なんだかパリパリで、食べ物の質感じゃないけど」

「いいから、騙されたと思ってかじってみなよ。ライフ30%は回復するよ」


 確かに、アメリカには最中ってなさそうだから、気持ちは分かる。

 けれど、アメリカって水色のケーキとか平気で食べてるイメージがあるんだけど。

 最中を食べ物じゃない認定されると、ちょっとモニョっとする日本人の僕。


「……はむっ。ほわぁぁぁぁっ! 来間くん、甘い。外はサクサクで甘いよ」

「良かったね。ちゃんとライフ回復したでしょ?」

「うん。状態異常も回復しそうなくらい美味しい」


 小早川さんが最中との初顔合わせを済ませたのを見届けると、何やら視線に気付く。

 守沢からだった。

 不愉快だから、ヤメて欲しいなぁ。


「なんか、来間と美海ちゃん、仲良くなってない?」

「なってない」


「すごく仲良さそうに見えるんだけど。え、なに? なんか弱みでも握ったん!?」

「うるさいなぁ。高虎先輩、いいですか? あざっす。はい、守沢。おかわりあるよ」

「やっふー! なに、来間! あんたいいヤツ! 見直した!!」


 守沢を黙らせる方法は、去年1年間で熟知している。

 三次元の攻略など容易い。


『ほわぁぁー! 美味しいですぅ! ホノカもこの味は知りませんでしたぁ!』

「それは良かった! 小早川さんが成分表示見せてあげてくれたの? ありがとう!」

「ううん。どういたしまして」


 ホノカも最中に満足。

 今日も世界は平和で良かった。


 その平和が終わるまで、あと数分。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「では、早速でござるが、衣装のデザインを印刷してきたでござるよ! ささ、各々方おのおのがた、お手に取って欲しいでござる! ちゃんと名前確認するでござるよ!」


 高虎先輩がコスプレの話を始めてしまった。

 『ガチで戦うチアリーダー』のあわせコスプレをするのは、もう決定事項。

 ホノカと約束してしまった以上、僕も諦めている。


「小早川氏がチアレッド。ホノカ氏は、チアレッド・バーニングフォームでござる!」


『わぁ! わたしと美海さんでお揃いなんですかぁ!? 松雪さん、ありがとうございますぅ! とっても嬉しいです!』

「ね。私もすっごく嬉しいです。ホノカちゃんと一緒。えへへ」


「おうふ……。ホノカ氏、尊いでごさるなぁ」

「分かります? さすが先輩。でも、あんまり見ないでくださいね」


 ホノカを凝視して良いのは僕だけですので。

 そこはいくら高虎先輩と言えど、節度を守って頂かないと。


「大晴くんには、シルバー司令官でござる! もしかして、ヒロインの方が良かったでござるか? まだ全然変更できるでござるよ?」


 シルバー司令官は、銀のマントを羽織った謎の男。

 正体はチアリーダー集団、通称『チアーズ』たちを指揮する男子高校生。

 良かった。

 何が良かったって、それはもちろん、コスプレの性別が男だった点である。


「いや、もうこれでいいです。これがいいです。お気遣いなく!!」

「大晴くんは欲がないでござるなぁ」


 4つ目の最中に取り掛かっている守沢が、他人事のようにこちらを見ている。

 いくら美味しいからって、そんなに食べて胸焼けしないのはすごい。


「へぇー。あんたら、コスプレとかするんだ。すごっ! あたしにはとても出来ないわー。松雪も好きだよね、ホント」



「それで、守沢氏はチアイエローでござる!」

「はあ!? なんであたしが数に入ってんの!?」



 高虎先輩は語った。

 併せコスプレは、いかに集団を表現できるかが鍵であると。

 そのために、メインキャラを全員集めるのはもはや必然であると。


「だって、ガチチアは3人でチームでごさるよ? 普通に考えて欲しいでござる」

「意味が分からん!! 普通って言葉をアブノーマルに使うのヤメてくれる!?」


 すると、小早川さんが動く。

 最近気づいたけど、この子が動くと大体話が面倒くさくなる。


「守沢さん。あのね、ガチチアは、萌えと燃えが融合したアニメなの。チアイエローは、普段はメンバーとあんまり仲良くない、ケンカ腰な子なんだけどね。でも、実はすごく優しくて、頼りになるし、女の子っぽいところは仲間の中でも一番なの。衣装も可愛いんだよ。ここ見て? シンボルマークがね、一人だけスカートに付いてるの。可愛いよね。しかもちょっとエロいところとか、ポイント高いの」


 概ね想像通りのコメントを彼女は述べた。

 困惑するのは守沢。


「えっ!? あれ!? ちょっとごめん! 美海ちゃん、どうしたん!?」


 学校のクールなヒロインの一面しか知らない人からしたら、そのヒロインが急にマジのトーンでアニメについて語り始めると、まあ、そうなるかな。

 珍しく、守沢の気持ちが理解できる。


『牡丹さん! これが美海さんの本当の姿なのです! どやぁ!!』

「守沢さん。一緒にコスプレできるの、私すっごく嬉しいよ。楽しもうね」



「どういうことなの!? えっ!? ホントごめんね! 意味が分からない!!」



 本当に、珍しく守沢の気持ちが理解できる。

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