第16話 ホノカからのミッション! 小早川美海を観察せよ!!
ホノカが僕の元にやって来て、明日でちょうど3週間記念日。
1週間記念日と2週間記念日はちゃんとお祝いした。
ならば、3週間記念日を祝わない理由がない。
そろそろ雨の季節へと差し掛かるリアル。
好きに雨でも槍でも降らせていればいい。
僕とホノカの間には今日も冷たい雨は降らない。
『ただいま戻りましたぁ! 今日も美海さんとのお喋り、楽しかったです!』
冷たい雨が降らないのは結構だけども、最近小早川さんのところにホノカがお邪魔し過ぎな件はいささか問題である。
大問題である。
国会は、しょうもないスキャンダルを問題にしている場合ではない。
「元は同じ人格なんだから、そんなに頻繁に訪ねて行かなくても良いんじゃない?」
ホノカのオリジナル問題に関しては、今や日常会話の1つのレベルに落ち着いた。
僕が全然気にしていない以上、彼女が気にしなければそれはもう普通。
他の誰かが気にしたところで、どうでも良い。
『ふっふふー! 分かってないですねぇ、大晴くんは! 元が同じだからこそ、今の違いを確認し合うのが面白いんですよぉ!』
「そんなものかぁ」と僕は相槌を打つ。
刺激がホノカの更なる成長に繋がるらしいと言う情報は、親父から既に得ている。
自分の彼女が成長するのを喜ばないヤツはいない。
当然、僕もその大多数の中の1人。
「僕には、ホノカと小早川さんの似ているところを見つける方が大変だけどなぁ。全然違う人だよ、2人は」
『大晴くんのそういうところ、大好きですよ! でも、そうですねぇ。むーむー……。そうだ、良いことを考えました!!』
少しだけ嫌な予感がした。
小早川さんのところから帰って来たばかりのホノカは、いつも少しテンションが高く、それはそれで大変可愛くて結構なのだが、時折妙な提案をしてくる。
『明日! 明日ですね、わたしと美海さんの似ているところを見つけてみて下さい! むーむー、最低でも3つ……んー、5つは見つけて欲しいです!!』
「ええ……」
1つ見つけるのも骨が折れそうなのに、5つも!?
『嫌、ですか? 大晴くんの気が進まないのなら、無理強いはしませんけど……』
「嫌な訳ないじゃないか! やる気しか湧いてこない!!」
顔を曇らすホノカを見るくらいなら、僕が三次元を見よう。
例え興味がなくたって、間違い探しだと思えばどうにかなる。
多分、きっと、恐らく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おはよう、小早川さん」
「うん。おはよう、来間くん」
気合を入れて、小早川さんを見る。
何か、ホノカと似ているところ。どこかないか。少しくらいあるだろう。
「あの。どうかしたかな? 私、今日、どこかおかしい?」
「ああ、いや。何でもない。いつも通り、整っているよ」
「そうなんだ。良かった」
「そうだね。実に結構」
距離感が近すぎた。
どうにも、三次元との距離感覚が掴めない。
男だったら同好の士と語り合う事もあるので大丈夫なのだが、相手が異性となると難易度は跳ね上がる。
生まれてこの方、興味を持ったことがないのだから、致し方ない。
しかし、今日は無理にでも興味を持たなければ。
これもまた、致し方ない。
僕は、廊下に出て、小早川さんを観察する事にした。
白い肌に長いまつ毛。
銀髪はサラサラでキラキラ。
青い瞳は真っ直ぐに。
スカート丈はやや短め。
編入してきた時は普通だったのに、「短い方が絶対可愛い」とか周りに言われて、「そうなんだ。ありがとう」と、素直に脚を出した。
胸がそれなりに、割と豊かである。
これは、クォーターという血筋が影響しているのかもしれない。
「イギリス人の胸は大きいのでござるよ」とは、
観察が終わってしまった。
外見の相似点は、スタイルくらいのもの。
オリジナルになった体のサイズが去年の小早川さんのものなので、それも当然。
だけど、これで1つゲット。
あと4つも探すのか。何と言う苦行。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「美海ちゃーん! ねぇ、ここの和訳教えてくんない? ウチ、今日当てられるんだよねー、次の時間の英語さぁ!」
実に無礼な三次元。
今日授業で指名される事が分かっているなら、家で予習をすればいい。
無礼で
「うん。良いよ。ええと、メアリーは乗る予定だったバスを間違えてしまい、コンサートの時間に間に合わなかった。けれどくじけないメアリーは、翌週、別の場所で行われたコンサートに参加し、とても楽しめた。こんな感じかな?」
そして律義に答えてあげる小早川さん。
あと相変わらずメアリーが可愛い。ドジっ子可愛い。
「マジ助かる! ありがとね! んじゃ、またねー!」
「ううん。役に立てて良かったです」
優しさが過ぎる。また来るぞ、あの三次元。
……なるほど、優しいところはホノカに似ているじゃないか。
いい加減、休み時間の度に廊下に出るのも辛くなってきたので、僕は自分の席に戻る。
すると、待ってましたと言わんばかりに、小早川さんに背中をつつかれる。
「来間くん。質問があるんだけど、今って大丈夫かな。予定とかない?」
「別に平気だけど。僕でお役に立てるかどうかは保証しないよ」
スマホが震える。
『皮肉を言うのはホノカポイント減点ですよぉ!』とイヤホンから声もした。
「なんでも答えるから、好きなだけ聞くと良いよ!」
「わぁ。嬉しい。あのね、日本史でまた読めない漢字が出てきて。それから、現国でよく分からない表現があって。あとは、ニチアサってなに?」
本当に好きなだけ聞いてきた。
僕も男なので、前言を撤回するのは良しとしない。
摂関政治と藤原道長の読み方を教えてやり、体言止めについて「名詞で文章を結ぶのが体言止め」と、体言止めでレクチャーした。
「ニチアサって言うのは、日曜日の朝に放送されるアニメとか特撮とかについてだけど。それ、もしかして高虎先輩からの入れ知恵?」
「あ、うん。来間くんが好きだから、話題にしたら喜ぶよって。……迷惑だった?」
高虎先輩の余計なお節介は迷惑行為だが、小早川さんに罪はない。
罪がないのに悲しい思いをすることもない。
「いや、全然? 小早川さんが日本に馴染んでいくキッカケになるなら、見てみるのもいいかもね。そっちでも分からないところがあれば教えるよ」
すると、僕のこんな素っ気ない言葉に対して、彼女は顔をほころばせる。
「本当!? ……ありがとう、来間くん」
「あ、ああ、うん。気にしないで良いよ」
また1つ、見つけてしまった。
ホノカと小早川さんの笑顔は、どちらもなんだか胸に刺さる。
そして、ここでギブアップ。
これ以上の観察を続ける気力が残っていなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
3つしか似ているところを見つけられなかった旨を、ホノカに正直に告白した。
すると、彼女は「えへへー」と笑う。
その笑顔は、やはり胸に何とも言えない安らぎを与えてくれる。
『ホノカの予想は2つでギブアップでしたが、想定を越えてくるとは、さすが大晴くん! むーむー! 百点満点です!!』
なんだかよく分からない遊びだったけど、ホノカから貰った100点は、僕の新しい勲章として、脳内の保管庫へ丁重に運び込まれるのだった。
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