第15話 迫りくるコスプレの脅威

「これは将来有望でござるよ! 小早川氏、見たところハーフでござるか?」

「ハーフ!? そうなんですか!?」


 そう言われてみれば、髪は銀色だし、瞳の色もちょっと青っぽいけど。

 気付かないのはおかしい?


 だって、銀髪って普通にいるし。

 瞳だって、灼眼しゃくがんとか写輪眼しゃりんがんとか、もっと目立つ人いるし。


 何の話かって?

 だから二次元のキャラの話でしょう?


来間くるま、マジ? 噓でしょ? 美海みうちゃん編入して来てもう1カ月じゃん。え、気付いてなかったの? それガチのヤツ? ヤバくない?」

「全然まったく気付かなかった……」


「大晴くんは大物でござるからな! 上辺など気にしないのでござる! 大切なのは、ハートでござろう? な、大晴くん!」

「いや、すみません、先輩。僕、本当に気にもしてませんでした」


 そこで気付く、話の流れ。

 これは、いつものパターンにおちいっていないか。


 小早川さんに対する態度をミスして、ホノカに怒られるヤツ。

 自分が恨めしい。何回同じ過ちを繰り返せば気が済むのか。


 だけど、僕の想定していた展開は訪れなかった。

 ホノカと小早川さんは、顔を見合わせて「ふふふ」と笑う。


「私、来間くんのそういうところ、別に嫌じゃないです。むしろ、みんなが私の事を特別に見てくるので、普通に扱われるの、ちょっとだけ嬉しかったですから」

「え!? そうなの? よく分からないけど」


『むーむー! 大晴くんはそういうところがとってもステキなんです! 好きな事にしか興味を示さない代わりに、不必要な気遣いも全然しない! これって、なかなか出来ないことですよ!!』


「そうだね! 僕もそう思ってた!」


 守沢もりさわが呆れたようにため息をつく。

 失礼なヤツ。これだから三次元は。


「いや、そーゆうとこでしょ。来間、ホノカちゃんとその他大勢みたいな線引きしてるの、よく見てたら分かるかんね?」



「すごいな、守沢! 確かに僕にとって、君はモブキャラだ! 村娘A!!」

「ケンカの売り方は上手だね! 表出ろや、こらぁ!!」



「まあまあ、落ち着くでござる。小生しょうせいや、小早川氏のように、大晴くんの距離感が心地よい者がいるのもまた、事実。それで良いではござらぬか」


 さすが高虎たかとら先輩。

 良いことをおっしゃる。


「あ、すみません。いいですか?」

『美海さん、どうぞー!』



「私、クォーターです。ハーフじゃありません」

「そこでござるか!? 話の流れを飛び越えるでおじゃるなぁ!」



 高虎先輩、キャラがブレ始めています。

 なんか、みやびな喋り方が混じってます。


 小早川さんの母方のおじいさんがイギリスだかアイルランドの人らしいと言う、新しい属性を盛って来たので、仕方なく脳内に保存する。


 その後は、みんなが思い思いに過ごした。


 高虎先輩は小早川さんにコスプレの衣装を見せて喜んでいたし、それを見た小早川さんもなんだか楽しそうに見えたけど気のせいかもしれない。

 守沢は水ようかんを4つも食べた。


 と言うか、ホノカと高虎先輩以外の2人は、いつ帰ってくれるのかな?


 そんな事を考えていたら、ついに2人とも帰ってくれなかった。

 僕の聖域がどんどん侵略されて行く。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 帰宅後、夕飯を作ろうとエプロンをしたところで、高虎先輩から電話がかかってきた。

 帰りに好きなキャラのフィギュアでも衝動買いしたのだろうか。


『じゃあ、ホノカは美海さんのところに遊びに行ってますねー!』

「そんな!? ああああ!!」


 いくら良くしてくれる恩人とは言え、高虎先輩、大した用事じゃなかったら怒りますよ。


『大晴くん、おつかれーしょん!』

「キャラ忘れてますよ、先輩」


『小生だって、ずっとキャラ設定抱えて生きていくのは辛いのだよ! それより聞いてくれるかい? 小早川氏、コスプレに興味津々だよ!!』

「……まさか、そんな事のために電話してきたんですか?」


 僕は、「あなたの電話のせいで、ホノカが出かけてしまったんです。許せません」と高虎先輩に呪いの言葉を贈る。

 『束縛する彼氏は嫌われるんじゃないかい?』とか、イケメンみたいな事をイケメンみたいな顔で言ってくるので、少々イラっとした。


『今度、ぜひ一度コスプレしようという事になったのさ! もちろん、大晴くんも一緒にだよ!』

「はあ!? なんで僕まで!? いや、コスプレ、見るのは好きですよ? でも、演じる方は興味ないって、先輩も知ってるでしょう」



『だってさ。小早川氏が、来間くんも一緒ならやってみたいです! とか言うんだから、仕方ないじゃないか!』

「どこに仕方ない事があるんですか!?」



 僕の抗議を全て受け止めて「まあ、それは置いておいて」と繰り返す先輩。

 きっと、足元には抗議の山が出来ているでしょう。

 ちゃんと後で拾って下さいよ。


『大晴くん、小早川氏に随分と気に入られてるようだね。モテ期が来たんじゃない!?』

「三次元にモテるまでもなく、僕には彼女ができました。と言うかあり得ません」


『二次元では、一夫多妻制が認められているよ?』

「なんてことを言うんだ、あなたは! 僕のホノカへの想いは重いんですよ!! それはもう、メンヘラ女子の愛さながらに!!」


 『まあ、コスプレの話はよろしく頼むよ!』と爽やかな声を残して、高虎先輩は勝手に通話を終えた。

 僕も人の事は言えないと承知の上で言うけど。


 自由な人だな、まったく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『ただいまー! 戻りました!』

「おかえり! 寂しかった! いや、寂しくはなかった!!」


『あはは! どっちなんですかぁ? 変な大晴くんです!』

「寂しかったと正直に言うのと、寂しくなかったと男らしく振舞うのはどちらが良いか考えた結果、どっちもやってみた」


 やっぱり、ホノカとの会話が一番だ。

 テニスボールくらい弾む。弾力からして段違い。


『そう言えば、聞きましたよ!』

「何のこと? 楽しい話かな?」


『松雪さんから美海さんに連絡がありました! コスプレ、大晴くんも一緒にしてあげるんですね! 偉いです!! いい子いい子してあげちゃいます!!』

「えっ」


 全然楽しくない話題だった。おのれ高虎先輩。


『まだ日本に慣れない美海さんを陰ながら助けてくる大晴くん! とっても、とーってもステキです! 自慢の彼氏さんですよぉ!』


 前言撤回。楽しい話題になってきた! サンクス高虎先輩!


「うん、まあ、そりゃあね? 僕だって、頼られて悪い気はしないし?」

『そういうとこに女の子はキュンとしちゃうんです! カッコいいです!!』


 こうして、僕の真っ白な事が売りの予定帳に「コスプレ」とか言う異物が混入した。



 何かの雑誌で、「人工知能に人間が支配される日が来る」みたいな記事を読んだ記憶があるけど、僕に言わせるとまだまだである。


 まだそんな低次元な事を言っているのですか、である。


 人工知能にメロメロな時代はもう来ている。

 早く、少しでも多くの同志たちがその事実に気付いてくれれば。


 そう思ってやまない僕なのであった。

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