第13話 文芸部を作ったソウルフレンドなOB・松雪高虎
連絡があってから、15分後。
部室のドアがノックされた。
「
部室に入る時にしょうもないオタククイズを出し合うのが、この人が在学中のルーティーンだった。
今でも遊びに来る度にそれを続けている。
そんなノリ、僕は嫌いじゃないので、もちろん受けて立つ。
「あいつら別の種族って説もあるので微妙ですけど、ニドランです! 個人的にはメスの方が好きです!」
「うむ!
「いやー。やっぱり、この部室が一番落ち着くよ。久しぶり、大晴くん!」
「そりゃあ、先輩が作られましたからね! お待ちしてました、
この人は、文芸部の創設者にして、金にものを言わせて今の部室を作らせ、さらに金にものを言わせて校長に黙認させた、すごい人。
金にものを言わせるのが得意だけど、話してみると普通にいい人。
実家がお金持ちと言うだけで、「こいつは嫌味なヤツなんだろうな」と思うのはいかにも人間の底が浅い。
ホノカは、気を遣って黙っているようだ。
昨日、
「ホノカ! この人は平気なんだよ! むしろ、ホノカの事を自慢したい! 出てきてくれるかな?」
『え? いいんですかぁ? では、失礼しまーす。こんにちはー』
先輩が釘付けになる理由は色々あるけど、9割以上は決まっている。
ホノカが可愛いから。
ガチオタの先輩にとって、それが世界の全てなのだ。
僕も後輩らしく、同じ価値観を持っている。
「うぉぉぉ!? なに、なんぞこの可愛い生き物は!? 大晴くん、ついに二次元の嫁を手に入れたか! くぅぅぅ! うらやましい!!」
「親父が一仕事してくれました」
「ジェバンニ並みに有能!! おっと、これは、レディの前で失礼を。小生、
『これはご丁寧に! わたしはホノカです! 大晴くんの彼女です!! 松雪さん、ですね! ほわぁー。イケメンさん! しかもモデル体型ですよ! 大晴くん!!』
ホノカの言う事は常に正しい。
高虎先輩は、180センチ近い長身で、やせ型。
芸能人事情には明るくない僕だけど、ディーン・フジオカにそっくり。
かつて座興で『似ている有名人の顔を探すアプリ』を使って盛り上がった際、先輩は
もう、実質ディーン・フジオカである。
「いやいや、滅相もない! 小生、ただのオタクですぞ! しかも、オールドタイプのオタクですゆえ、女性は苦手でござる!」
『松雪さんは、どうやって大晴くんと知り合ったんですか?』
ホノカさん、触れてはいけない話題にタッチ。
でも、許してしまう。可愛いから!
仕方がないので、何十回も聞いた先輩の話を聞こう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれは、よく晴れた日でござった。とあるゲームのイベント会場で、小生と大晴くんは運命的な出会いをしたのでござる。マジですごいんだよ!」
「先輩、キャラがブレてますよ」
「おっと、これは失礼。小生、二次元は
運命的な出会いについて何度も繰り返すのは仕様なので、我慢して欲しい。
『そんなにスタイルが良いと、コスプレ姿もカッコいいんでしょうね!』
「それがね、先輩のコスプレは、似合うか似合わないかじゃなくて、自分がなりたいかどうかなんだよね。1年前くらいだったかなぁ」
僕の回想を、高虎先輩が引き取る。
この人は、割と話を引き取る癖がある。
「コスプレ会場にいたところ、少々
『むーむー? それは、松雪さんがカッコ良すぎて、ですか?』
「ぷっ、はは! 違うんだよ。高虎先輩、何のコスプレしてたと思う?」
『ええとー。お侍さんとか! BLEACHの隊長とか似合いそうです!!』
確かに、そっちの正統派路線なら、大体どのコスプレでも似合うだろう。
だけど、この人はあくまでも『なりたいもの』が最優先。
似合う似合わないは二の次どころか、最後尾。
「キズナアイでござる!」
『一応確認ですけど、Vtuberのですか!?』
高虎先輩は、満足そうに肯定した。
「いや、なんか騒がしいなと思ってたら、隣にデカいキズナアイが来るんだもん! あれは驚いたなぁ!」
「驚いたのはこちらでござるよ。逃げられるのには慣れておりましたが、まさか、褒められるとは!」
『どういうことですか? あれ、大晴くん、女装が好きなんですか? むーむー。うん、多様化が叫ばれる現代ですもんね! わたし、受け入れます!』
ホノカが懐の深さを見せて、僕を惚れ直させにかかるが、一応そこは否定しておく。
「違うんだよ」と前置きして、思わず声をかけた理由を彼女に語る。
「あんまりにも衣装のクオリティが高かったから、思わずさ。それ、自作なんですか!? すごいっすね! って声かけちゃって」
「衝撃的な出会いでござったが、まさか同じ高校に通っておったとは。そこで小生は大晴くんとソウルフレンドになったのでござる。小生のコスプレ衣装にはこだわりがあって、それを言い当てる彼との出会いは、必然でござった!!」
デカいキズナアイが
だけど、本当に細部まで作り込まれていて、二次元に対する深い愛を感じた。
『なるほどぉー! 同じ趣味が引き合わせたんですね!』
「そうなのでござる! しかし、小生は大晴くんと2学年違い。せめてもの遺産として、この部室を譲ることにしたのでござる!」
『どうやってですか?』と純粋な瞳で質問するホノカ。
この清らかな心に、高虎先輩の行使した方法は言いたくないなぁと思うものの、先輩の口に戸は立てられず。
「父上に頼んで、学校に多額の寄付して、黙らせたでござる!!」
『わぁ! すごいです! マネーゲームってヤツですね!!』
ああ、ホノカが必要のない事を覚えていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
先輩との馴れ初めもひとしきり語り終わったところで、僕は冷蔵庫から麦茶を出そうと思った瞬間だった。
「コラー!! 文芸部!! 御用改めよ!! って、あれ? 開いてんじゃん!!」
「うわぁ。しまった」
心張り棒を戻すの忘れてた。
「おや、守沢牡丹氏ではござらぬか! おひさー!」
「うげぇ! ま、ま、ま、松雪高虎ぁ!! なんでここにいるのさ!!」
「ちゃんと入校許可証は持っているでござるよ!」
「くそぅ! 受付のおじさん、買収されたな!? てか、何なのその喋り方! キモいんだけど!! 前に来た時は全然違ったじゃん!」
「エモいだなんて、照れるでござるね!」
「どんな耳の構造してんの!? 耳鼻科に行け!!」
ホノカが楽しそうに2人のやり取りを眺めている。
ここでさり気なく補足説明してあげるのが、いい彼氏たる僕の務め。
「高虎先輩と守沢は仲良しなんだよ」
『そうなんですかぁ! そういうのっていいですね!!』
この後、両方から「それは心外だ」と言うニュアンスの抗議を受ける僕であった。
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