第3話 学校でもホノカと一緒!

 月曜日なんてなくなれば良いのに。

 特に、ゴールデンウィーク明けだとそれはひとしお。

 学校が罰ゲームに思えてくる。


『初めてのお出掛けです! これは、なかなか、ドキドキしますねー!! ふんすっ!』


 ただし、それは一昨日までの僕。

 今はホノカと一緒。彼女とはどこへだって一緒に行ける。


「ホノカはいつでも喋って良いからね」

『博士がくれた、超小型のイヤホンですか? でも、授業中に雑談はいけないと思います! 大晴たいせいくんが不良になっちゃいます!』


「僕にとしてはホノカと話ができていれば、それで満足なんだけどなぁ」

『むーむー。大晴くんは彼女を困らせる悪い彼氏です。……分かりました、授業に関する質問のみ受け付けましょう!』


 僕の勉強に対するモチベーションが急上昇した瞬間だった。

 ホノカが困るような難しい問題を質問して、イジワルしてみるのも良いなとか思ってしまった。


「おはよう、大晴。今日はまたやけに早いな。日直か?」

「おはよう、親父。いや、ホノカと散歩でもして登校しようかなって」

「そういうことなら、これを持って行け!」


 親父が取り出したのは、ボールペンだった。

 「そういうことなら」との繋がりが見えてこない。

 ホノカを生み出すのに脳の容量使い切ってアホになったのかな?


「お前、父さんをバカにしてるな? このボールペン、ここのところがカメラになってるんだよ! つまり」

『わぁ! 外がしっかり見えます! カメラと同期することで、ホノカの目の代わりにできるんですね! 博士!!』


「そういうこと! ホノカちゃんは理解力が違うな! 誰かと比べて!」

「悪かったよ。親父はスーパー研究員だよ。あと5年早かったら、参観日の時に読んだぼくのお父さんの作文の内容が変わってたのに」


「お前……父さんのトラウマを……。あれは、何と言うか、こたえたな……」

「んじゃ、行ってきます!」


 作文の内容?

 「うちの父さんは母さんに浮気された挙句、よく分からない研究のため何週間もいなくなったり、1ヶ月毎日家にいたりします」とかだったかな?



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ここのコンビニでお昼のパンとかおにぎり買っていくんだよ」


 歩き慣れた通学路も、ホノカと一緒だとステキなデートコースへ早変わり。

 でも、今日は寄らない。


『大晴くん、今朝はお弁当作ってましたもんね! お料理ができる男子はポイント高いですよ! でも、コンビニに寄るって事は、毎日は作らないんですか?』

「そうだね。気が向いた時と、あとは親父が徹夜明けの時なんかは、仕方がなく昼ご飯を用意してやってるから、そのついでに作るかな」


 親父は生活力がまるでないから、必然的に僕の生活力が反比例する形で伸びざるを得なかった。

 中学生の頃くらいからだろうか、僕が家事をこなし始めたのは。

 それより前はハウスメイドを雇っていたけど、料金だって高いし、出来る事は自分でやるように自然と変化していった。


『やや! あれはなんですか、大晴くん!』

「ああ、あのスズメみたいなヤツ? あれはね、うちの市のゆるキャラだよ。名前は知らないなぁ。興味持ったこともないし」


 僕の住む涼風すずかぜ市。

 物心ついた時には、あの微妙にリアルなスズメのゆるキャラは存在していた。


『検索、検索ー! あっ、分かりましたよ! 名前はすずめるるちゃんです!』

「すごい! そんなにすぐ分かるんだ!」

『えっへん! 行動承認を得たわたしは、ネットワークが庭みたいなものですから! すごいですか!?』


 ドヤ顔のホノカが実に可愛い。

 可愛いの最大級ってなんだろう。

 現国の授業を熱心に受けていれば良かった。


『どうしましたか? 大晴くん? 悩み事ですか?』


 僕の表情を見て、瞬時に察してくれるホノカ。

 こんな芸当、三次元の女子にはとてもできない。


「ホノカの事を可愛いって褒めたいのに、適切な言葉が思い浮かばないんだよ」

『へっ、あ、わたしの事をですか!? むーむー。大晴くん、そういう事を真顔で言っちゃうタイプの人なんですね。ホノカは学習しました』


「ヘラヘラしながら言ったら、信憑性に欠けるじゃないか」

『なるほど、さらに理屈っぽいところもアリ、ですね。研究者のお父さんから影響を受けたのでしょうか? ホノカはさらに学習しました』


 親父が言っていた。

 ホノカはどんどん学習して成長していく、と。


 既に僕の好みのど真ん中にストライク判定な彼女が、これからさらに僕に合わせて成長するだなんて、恐れ多い話だ。


「じゃあさ、ホノカの検索能力で、可愛いの上位版を探してよ」

『むーむー。これはホノカに対する挑戦ですね! 良いでしょう、受けて立ちます。……女の子は、おにかわ、とか、ばちかわとか言うみたいですよ!』


 おにかわは、鬼のように可愛いかな?

 ばちかわって何だ。ばちってばちのことなんだろうか。

 可愛いに罰をつけるとか、女子の思考はまったく理解できない。


『あとはですね、めっかわっていうのもあります! ちなみに、すずめるるちゃんはぶさかわですね! どうですか! わたしの検索機能は!!』

「うん、すごい! だけど、やっぱりホノカの可愛らしさが一番すごいよ」


『うっ、大晴くんは割と頑固者ですね。そんなに褒められると、困ってしまいます』


 何か気に障る事を言ってしまったのだろうか!?

 僕は慌てて訂正する。


「ご、ごめん! ホノカを困らせるつもりはなかったんだ! ごめん!!」

『あはは、そして大晴くんはとても優しい人です! 褒められて困ると言うのは、嬉しいの上級表現ですよ! 女の子にもちゃんと興味を持って下さいね!』



「なんだ……。僕はホノカを怒らせちゃったのかと。人が悪いなぁ」

『さっきからわたしを褒めるばかりの大晴くんに仕返しです!』



 こうやって、楽しい会話をお供にすれば、歩いて20分の距離にある僕の学び舎までのルートも、新鮮な世界に色を変える。

 彼女っていうのは、本当にすごい存在なんだなぁと、改めて実感。


 もちろん、二次元の、と注釈は付けさせてもらうけれども。


「そろそろ見えてくるよ。ちょっと坂道になっているのが腹立たしいけど」

『最近は災害時の避難場所として利用できるように、わざわざ高台に校舎を建てる学校もあるそうですよ』


 そうだったのか。

 これはとんだ失礼を。

 しかも、1年と1カ月もの長きにわたりウザがってしまった。


 まあ、それは反省したから良しとして、ついに全容がホノカにも確認できる距離まで近づいたので、紹介しておこう。


「ここが涼風すずかぜ西高校。特に特徴もない、平凡な学校だよ。ホノカは気に入るかな?」

『気に入りますとも! 大晴くんの普段過ごしている場所! ほわぁー、とっても楽しみです!!』



 今日から学校でもホノカと一緒。

 そう思うと、僕もなんだか楽しくなってきた。

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