第2話 ホノカの仕様説明という名のご褒美
「なんてこった。日曜なのにこんなに朝早く起きてしまった」
ニチアサ? 録画予約してあるとも。
僕はリアタイ視聴にこだわらない派。
時刻はまだ8時過ぎ。これはもったいない。
寝直そう。
『
ホノカの声が、僕を一気に現実世界へと呼び戻す。
「そ、そうだ! ホノカ! おはよう! おはよう!!」
『おはようございます! 大晴くん! 1日の始まりは気持ちのいい起床からですよ! お寝坊さんなんてダメダメです』
そして僕は、現実世界から二次元の世界へ。
さようなら現実。夢と二次元の中継地点だから、滞在時間は短いのだ。
「おはよう! いや、グッドモーニング!?」
『あはは、大晴くん、急に元気になりましたね! ホノカは嬉しいです!』
朝起きて、最初に彼女とおはようが言える生活。
僕はその世界の事を、天国としか形容できない。
そうか、僕はついに辿り着いたんだ、理想郷に。
「あれ? ホノカ、服が変わってる?」
「はい。大晴くんがネットワークとの通信を許可してくれたので、ホノカは基本ネットワークの海をスイスイ泳げるのです! 今日は、デフォルトの衣装から、世話焼き幼馴染なセーラー服スタイルです! 大晴くん、気に入りましたか?」
人間は、なんて欲深い生き物だろう。
もう、これ以上望むべくもない幸せを
僕ってヤツは。
「あの、世話焼き幼馴染っぽく、僕を起こしてくれる?」
何を言っているんだろう。
『ふふふー、仕方ないですねー、大晴くんは! では、こほんっ!』
『ちょっとぉ、いつまで寝てるの!? 起きなよ! 学校遅れるよ!!』
「ああ、もう死んでもいいかな」
僕自身、何を言っているのか軽く引くような要求を、ホノカは、僕の彼女は笑顔で叶えてくれる。
昨日までの
僕はもう振り返らない。
「おおい、大晴! ご飯作ったけど、一緒に……食べないよな? 日曜だもんな」
「親父! いや、お父様! おはよう、そしてありがとう!!」
少し驚いた表情の親父だったが、すぐに悟ってくれた様子だった。
さすがは僕の父親。分かっている。
2階の自室を出て、リビングへ向かう。
もちろん、彼女と一緒に。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやぁ、良かった! 気に入ってくれたか、父さんの研究!」
「マジでビビった。親父がこんなに世の中に貢献してたなんて。見直したよ」
『ダメですよ、大晴くん! お父さんの事はちゃんと尊敬してあげてください!!』
画面の中のホノカが、腰に手を当ててぷんすかしている。
もう、僕も画面の中に入りたい。
「親父。僕も画面の中に入りたい」
「……お前、多分、心の声と現実の口がシンクロしてるだろう?」
さすが、人工知能を作り出した大博士である我が父。
そこまで分かるとは。話が早い。
「結論から言えば、できる訳ないだろう! あのな、ラノベとかアニメで流行ってるVRMMOとか、もちろん研究はされているけどもだ。それを父さんが開発できたとしたらどうなると思う?」
「僕が幸せになる」
「そうだな。一人息子の社会性を失うな。そして父さんはノーベル賞だよ。ただ、安心しろ。そんな非現実的な未来は当分ない。本当に望まれるカノジョ1号だって、むちゃくちゃ最新鋭の技術が注ぎ込まれているんだぞ?」
『博士! わたしの名前はホノカです! 大晴くんが付けてくれました! これからはホノカと呼んでください!!』
僕の彼女が、僕の名付けた名前を誇らしげに語る。
そして親父は「なるほど、その手があったか!」と膝を打つ。
目玉焼きにかけた醤油が飛び散りそうだからヤメて欲しい。
「コミュニケーション能力は問題なさそうだな! 本当に……じゃなかった、ホノカは、行動承認をしてあげると、自分でどんどん興味のある分野について学習していく。今はまだ生まれたてだけど、凄まじい速さで成長するぞ」
「行動承認、全面的にするよ。いくらでも、好きなだけどうぞ!」
『わぁー! ありがとうございます! 大晴くんの好みの彼女になれるように、ホノカ、頑張りますね!』
ホノカが「えいえいおー!」と気合を入れている。
こんなに愛おしいものが世界に存在するだなんて。
「親父! ありがとう! 生まれて初めてこんなに親父に感謝してる! じゃあ、僕は部屋に行って、ホノカとお喋りするから! ごちそうさま!」
『わわ、大晴くん! 急に画面を転回しないてくださぁーい! 酔っちゃいますよー』
僕が去った後のリビングで、親父が何かを呟いていた。
「これで少しでも、あいつの女性不信が改善してくれると良いんだがなぁ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
『大晴くん! タピオカミルクティーってもう古いらしいですよ!』
「あー。なんか、小っちゃい玉こんにゃくみたいなヤツが入ってるミルクティーだっけ? 飲んだことないなぁ」
『それはもったいないです! ブームが下火になっているとは言え、美味しいですよ、これ!!』
「これってどれだろう」と思い、画面のホノカを見ると、彼女が持っているのはまごう事なきタピオカミルクティー。
どういう事なのだろう。
『ふっふっふー。驚いていますね? わたしは、ネットワークに存在するもののデータから、実際に現実世界で扱われているものを解析して再現することができるのです! つまり、今わたしは、タピオカミルクティー飲んじゃってます!』
「すごい! そんな事まで出来るの!?」
『もちろんです! あとはですね、わたしは今、大晴くんと同じ、16歳。高校二年生として、モデルになった女子に類似した体型をしていますが!』
「モデルがいるんだ?」
『もちろん、いますよ! ホノカの体は、そのモデルに協力してくれた女子と同じ設定になっています! 人格のベースもですね! 続きをお話しても良いですか?』
僕は、ホノカのお喋りに口を挟んでしまった事に気付き、「ごめん」と謝る。
モデルなんてどうでもいい。三次元の話は
『なんと! ホノカが食べた分だけ体は成長するのです!』
「ええと、つまり、カロリーを摂取したことで体に変化があったりするんだ?」
『おおー! 大晴くん、頭が良いんですね! さすがホノカの彼氏です!!』
油断すると鼻の下が際限なく伸びてしまいそうになり、僕は平静を装う。
とは言え、ホノカに褒められるとむちゃくちゃ嬉しい。
「あれ? って事は、太ったりもするんだよね?」
『ちょっとぉ、大晴くん? 女の子に向かって体重の話ですかー?』
「いや、何かでタピオカミルクティーってラーメン一杯分くらいのカロリーがあるって聞いた覚えがあって」
『え゛っ』
「少しくらい太ったってホノカは可愛いよ?」
『男の人はすぐにそう言うんです! もぉ! わたし、お昼は玉こんにゃくしか食べません!! 大晴くんのバカっ!!』
へそを曲げるホノカも大層可愛かった。
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