アプリのカノジョとリアルのヒロイン ~カノジョが学校のクールなヒロインと僕をくっつけようとしてきて困る!~

五木友人

第一章

第1話 最高に可愛い二次元のカノジョができた

 二次元なら嫁が欲しい。


 こんな風に思った事はないか。

 僕はある。


 と言うか、常々思っている。

 自分だけの二次元の嫁が欲しい。


 それが現実に起きるなんて事までは、さすがに想像もしていなかったけど。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 僕は自分で言うのもアレだけど、少し恋愛観がひねくれている。

 女子と付き合うなんて、メリットよりデメリットの方が絶対に多い。

 男女の付き合いにメリットだのデメリットだのを持ち出している時点で、既に思春期の男子高校生としては落第だという自覚もある。


 小さい頃から、両親は喧嘩ばかりしていた。

 価値観の違いや、生活習慣についての言い争い。

 始まりは誰にでも起こり得る些細なもの。


 そこに、母親の浮気と言う致命的な事象が加わり、僕の家庭は呆気なく崩壊した。

 当時10歳だった僕は、その年齢には重すぎる決断を迫られた。


 母と家を出るか。父と家に残るか。


 迷わず僕は、父を選んだ。

 10歳の僕には、男女の関係や、体の相性、不貞行為がもたらす快楽、その他諸々の理解なんてできなかった。


 だけど、簡単に父を裏切る母を見て、得体のしれない気持ち悪さを感じていた。

 思えば、それが僕の恋愛観を作る根底になっていたような気が、しないでもない。


 別に、今となってはどうでも良いことだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「なあ、大晴たいせい! おい、大晴! 今回は父さん、すごいの作ったぞ! 世紀の大発明だぞ!」

「うるさいな。早く食べろよ。トーストが冷えるよ」


 僕の父は、何とかいうラボで研究者として働いている。

 それなりに出世して、それなりの地位を築いているらしいが、そんなに興味はない。


「おおい、今回はお前も絶対に気に入るって! 聞いて驚くか!?」

「聞いて驚けじゃないんだ? じゃあ、驚かないかな」

「つれない事言うなよ、大晴! 驚いてくれよ! 父さん、お前のために、所長に頭下げて、テストプレイヤーの権利貰って来たんだぞ!!」


 興味はないと言ったが、さすがに親父が何について研究しているかくらいは知っている。

 AI、つまり人工知能に関する研究。


「ちょっと、バター取って。で、なに? 何のテストするの? 親父のボケ防止?」

「失礼な! 父さん、まだ50だぞ!」

「早い人はもう始まる頃じゃん。気を付けた方が良いよ」


 休みの日なのに、わざわざ息子に合わせる笑顔を作って、徹夜明けのクマを目の下に作ってまで、親子の時間を作ってくれる気持ちはありがたい。

 さすが研究者。色々作るのはお手の物。


「実はな、もうお前のスマホにインストールしてあるんだ! 驚くぞー!!」

「はあ!? 勝手な事するなよ! 僕は親父のデリカシーについて今驚いてるよ!!」

「まあまあ、良いから、お礼は! 実際に体験してからで良いから! お礼は!!」


 こうなると、何を言ってもなしのつぶて。

 労力の無駄である。

 非効率な事に力を注ぎこむのは愚か者のする事だと、どこかの誰かが言っていた。


「効率の良い生活は賢人けんじんへの第一歩だ! さあ、大晴! 部屋に引きこもって、父さんの大発明を体験すると良い!!」


 ああ、それ言ってたの、親父だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……本当だ。なんか、見慣れないアプリが入ってる。……アンインストールっと」


 アプリをゴミ箱に叩き込もうとするも、何度やっても操作を受け付けない。

 くそ、親父の技術力の高さが憎い。呪いの装備かよ。


「……分かったよ。ちょっとだけ付き合ってやるよ」


 僕はアプリを立ち上げた。

 『本当に望まれるカノジョ1号!!』と画面に表示されて、呆気にとられた。


 その後、「初期設定をしています」と表示されたきり、15分、全ての機能が停止した。

 新しいスマホを購入する要求をどう言おうか考えていると、ピロンと楽し気な音がして、スマホの画面が明るくなっていた。


「やっとか。どんだけ重たいクソアプリ入れやがったんだ、親父。ゆるさ……ん?」



『ご主人様! やっとお会いできましたね! 顔認証完了! 来間くるま大晴たいせい様!』



 バスタオル1枚の美少女が画面の中で、僕の名を呼んでいた。


 意外と可愛い。モーションすげぇ。僕の事を認識してる? 目が合った。髪の質感すげぇ。本当に生きてるみたいだ。ちょこちょこ動いて可愛い。すごく可愛い。


 色々な感情が頭の中を巡る、巡る。


 これでも僕はオタクを自負しており、ギャルゲーだってプレイした数は50に迫るほどな訳で、そんな僕の所見を述べさせてもらうと。


『大晴さまぁー? あの、わたしに服を着せてもらえませんかぁ? この格好、は、は、恥ずかしいですぅ』



 ——なんだこの子! むちゃくちゃ可愛い!! 好きだ!! もう大好きだ!!



 と、とりあえず、服を着せてあげないと!

 どうすれば良いのか、全然分からない!!


「ど、どうしたら良いの!?」


 ついにアプリに質問する僕。

 AIが人間を支配する日も近い気がする。


『あ、すみません。ご説明からですね。わたしはまだ、所有者登録されている来間大晴様から、行動権を与えられていません。端的に表現しますと、服を着て良いよと言ってもらえれば、わたしが自分でネットワークから好みの服を持って来ます』


「そうなの? じゃ、じゃあ、服を着て良いよ?」

『はい! ありがとうございます! えいっ! えへへ、どうですか? メイド服をチョイスしてみましたが、少しベタだったでしょうか?』



「すごく良いです……!」



 ネコミミまで付いている。

 すごい、分かってる。分かってる、すごい。


『では、続いて、承認を頂きたいのですが、よろしいですか?』

「うん。なんでも承認してしまうと思うけど、何をどうすればいい?」



『わたしを大晴様の彼女にして頂けますか?』

「はい、もちろん、喜んで!!」



 即答だった。


 親父の事、正直舐めていた。

 すごいや、僕の親父って。

 僕は親父の息子だった事をこんなに嬉しいと思った事はない。


『えへへ。ありがとうございます。それでは、わたしはこれから、来間大晴様の彼女です! 何か、ご希望の呼び方などございますか?』

「いや、もう、お好きに呼んでください」


『じゃあ、どうしましょう、むむむむ。むーむー。……大晴くん、はどうですか?』

「……最高です」


『あはは、恥ずかしいですね』

「僕も、急に恥ずかしくなってきた。あー。んん? 君の名前は?」

『はい。わたしは、本当に望まれるカノジョ1号です!』


 親父の事を見直したのに、少し評価を下げなければならない。

 詰めが甘いんだよ、親父は、昔からさ。


「その名前はあんまりだ。ええと、なにかいい名前は……。そうだ、本当の『ほ』と望まれるの『の』にカノジョの『か』で、ホノカって言うのは?」


『わぁー! ステキです! ホノカですか! えへへ。大晴くんから貰った、初めてのプレゼントですね! ホノカ、ずっと大事にします!!』


「良かった。気に入って貰えて」

『とってもステキな名前です! ありがとうございます、大晴くん!』



 こうして、僕の物語はスタートした。

 名前はまだ決まっていないけど、恐らく、多分、こんな感じのタイトル。


 僕とカノジョの物語。

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