第3話
「え!なぜ、あなたが、あの時の事を知っているのですか?」
その時、ドアが、開き駅に降りようとする人が、僕を通り抜けた。
僕のそばを通り過ぎたのではなく、僕の身体を通り抜けたのだ。
その人は、僕の存在そのものに気付きもしていなかった。
「これは?」
僕は、どうしてしまったのだろう。
「あなたは、とても誠実に一生懸命生きてきました。だから最期に、これまであなたを慰めてきた光景を見せてあげたいと、思いました」
紳士は、立ち上がり名刺を取り出し、僕に差し出した。
「申し遅れました。私は、こういうものです。先ほどは、嘘をつきました。ごめんなさい。私は、現役バリバリです」
名刺には、死神とだけ記されていた。
「僕は、死んだのですか?」
「正確には、死にかけています。死神には、人間の医学は、分かりません。もし助かるのなら良いのですが、無理なら、それまでの時間、せめてあなたの心を日々慰めてきた光景を見せてあげたいと思いました」
死神は、頭をさげた。
「申し訳ない。死神に出来ることは、これくらいです」
「では、すでに魂は、肉体を離れている?」
「そうですね。だから、こういうこともできます」
窓の外には、僕の子供が、生まれた頃のまだ狭い我が家、妻と結婚した頃、部屋でコーヒーを飲んでいる自分自身の姿など、懐かしい光景が、流れていった。
「死神さん。僕は、幸せだったらしい。行きましょう」
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