夕月を蹴る

@kanadagan

夕月を蹴る

高校3年生の秋。受験生だから気を引き締めないといけない自覚はあったものの勉強に対するやる気はあまり無かった。友達と放課後ファストフード店に行き、近所の運動公園でサッカーの真似事をするのが日課になっていた。このルーティーンは現実逃避に過ぎないのだが、この時だけは受験生であることを忘れられた。友達は俺たち受験生なのに何してるんだろうなと笑っていた。僕も一緒になって笑った。楽しかった。運動をしていると余計なことを考えずに済むから、嫌なことが頭から消えていく。

友達と遊んでいると、時々考えていたことがあった。数ヶ月後には会えなくなるんだと。夜を照らす街灯と月が解散の合図だった。その時間帯になるとふとそう思っていた。実感はなかった。

数ヶ月後、僕と友達はそれぞれ受験を終えて高校を卒業した。今になって思う。会いたい。くだらない事をして笑い合っていたあの頃の時間は戻ってこないということに今更気がつく。それでも楽しかったんだと、二度と、あの頃が、やってこなかったとしても、ずっと消えることはない。大人にならなければいけないんだと自分に言い聞かせる。今寂しいと思うのではなく先を見て生きるべきなんだと自分を励ます。大人にならなければ。それでも消えることがない思い出はあの頃よく見ていた月と重なって輝いて見える。今感じていることが、この先の人生に何かを与えてくれると思って、今を生きるんだ。

また、いつか、放課後。とは言わないけれど、一緒に時間を過ごしたい。

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