喪失

「……なぜ、手を緩めた?…なぜ君は泣いているのだ…?」


「あ……ぅ…」


「…現時点で敵である私を殺さぬと言うのか?」


「いや……そういうわけじゃ…」


「目の前で仲間や国民が死に、それでもなお戦えと?」


「……」


「早く殺してくれ。神に逆らい、民の期待を裏切り、それでも私は生きている。」

「いや……私は死ぬべきでは無いのかもしれぬ。寧ろ永遠の命と共に生きていく方が似合ってるのかもしれぬな。」


「そんな……わけ…」


「…魔王の 同胞を虐殺した私が言うのもなんだが、なにかあったのか?」


「……」


───────────────────────

魔王は、とても仲の良い友が居た。

その友は、魔王の優しく、皆に好かれるような性格を尊敬しており、魔王もまた、友の誰にも負けない力強さと行動の速さを尊敬していた。


しかし、友は嫌われていた。

誰よりも強い力を持つ代償だとでも煽るように、友には性格が足りなかった。

いや、実際は悪い訳ではない、ただ空気が読めないだけだったのだ。

しかし、そんな中途半端に性格が良いからこそ、魔王と距離を取ってしまった。


魔王から見れば、友は唯一の親友とも呼べる存在だった。

もしも友のせいで皆から嫌われたとしても、絶対に離れるつもりはなかった。




ついに魔王は友を見つけ、いつもの様に声をかけようとすると


「それ以上俺に近付くな。」


と、冷たく一蹴されてしまった。

それでも、魔王は諦めず近付き────


そんな事情など知らぬ友は、魔王を殴ってしまった。

彼女の力強く、馬鹿にならない威力の拳が、腹部を抉る。

力では友に勝てない魔王は、簡単に飛ばされ、気絶してしまった。


魔王が目を覚ますと、さっきまで立っていた友の姿は見えない。

大好きだった友に、尊敬をしていた友に見捨てられてしまったみたいだ。


でも、そんな事では魔王は諦めなかった。

この程度で諦めてしまったら、友に笑われてしまう。

いつか必ず来る、友とまた隣で笑いあう日々が。


そう信じていたのも束の間、訃報が届いた。


「友が人間に殺された。」


信じられなかった。

友を殺せるほどの実力者など、人間にいるはずが無かった。それに、友より強い者が居そうな魔族も同族殺しはできないのだ。それもあり、絶対に友は死なないと思っていた。


もう一生友と話せない。楽しく話をして終われなかった。

それだけが悔いだった。

魔王は、人間への復讐を決意した。


友を殺した人間を、友がなぜ死んだのかを徹底的に調べあげ…て………


……自殺…だった。

魔族は魔族の手では殺せない。

それは、自分自身も例外ではない、自殺が出来ぬようになっている。

だが、そんな魔族でも自分殺せる人間へ、友は依頼したそうだった。




絶望しました。心だって痛いです。


でも、私は人間が好きです。

暖かい人間が大好きです。



でも、今はそんな人間が憎くて憎くて堪らない。






はずだったのに。


───────────────────────


「な…んで……君は私の友達に似ているの……?」


「……え


「なんで私の友達に似ているの!口調も!顔も!身長も!性格も!何もかもが!!!!」


「……」


その友人が死んで以降、彼女は人間に復讐を誓った。しかし、そんな彼女を気味悪がった魔族達は彼女の下を離れ、それ以降は今の今まで孤独に過ごしてきた。


勿論、彼女は王という立場なのだ。

メイドや執事も居る。

しかし、そんな使用人達も皆避けていた。

積極的に話そうとする者は居らず、嫌われていた為何度も暗殺をされかけていた。


「……どうして…どうしてなの……」


……あ……違う、もしかして


「私……いや、俺からは何も言えない。ただ、それならば俺は死んだ方が良いかもしれないな。」


「……ぁ…」


「……まあ、その友とやらの辛い思い出を思い出させるのは俺としても気が引ける。」


勇者は、自らの動脈に伸びきった爪を立てる


「ま……って…………」


「…いや、もしかしたらただ死にたいだけなのかもしれぬな……本当にすまなかった。」


首元から血が溢れ出てくる


「ち……が


『今までありがとうな、フェアルスト』



────────勇者

愚かなる少女にとって

もっとも悲しい哀しい出逢いであり

もっとも後悔した別れであった。


「…どうして……君…は……」



愚かなる少女の手元には、一筋の泪と1人の魔族の亡骸しか喪失なかった。

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