神の御加護

力が抜ける。

圧倒的な力が。

死など存在せぬこの力が。

平和を望み、人類を護り、王と対峙するための十分な力が。


今、目の前の "神" によって消されたようだ。


意識が……いや、身体自体が宙高く舞っている。

なぜだか目は閉じれず、風によって目が乾き、自然と涙が出てくる。


しかし、視界は鮮明で、人類ではまるで見えないような場所まで見えている。

とても表現しづらく、不思議な不快感に襲われる。

まるで、私が人間では無くなっていくような……。


忘れかけていた仲間や家族、国民達との記憶が無理やり思い出される。

頭が痛い。彼等はまだ、私達に希望を持っているのだろうか。


神は国に手を翳す。

なにをしようとしているのだ。


…いや、やろうとしていることはもう分かっている。

これは、ただの現実逃避だ。勇者が魔王の前で現実逃避をしたと知られたら、ガドルフやアリア達にからかわれてしまうな……。

クリスの "もう、皆してからかわないの!" という声が聞こえてくるようだ…。


皆と出会ったのは、今から丁度1年程前だったか……?

王にロングソードと500Gを渡されて「そこの3人を連れて魔王を討伐してこい」など言われた時は流石に怒鳴りそうになった。


だが、国民達はそんな私を見かねてか、色々と優遇してくれたな……。


「魔王…いや、神よ…頼む………どうか…どうか私の命で許し


そんな言葉を遮るかのように、国が爆散した。


無力で滑稽な "元" 勇者の声の木霊は、いとも容易く爆発の音圧で掻き消えた。

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