異世界転生したけれど何しましょう

信仙夜祭

異世界転生したけれど何しましょう

 前世で、トラックに轢かれて、女神に会った俺……。

 異世界に行って欲しいと言われて、スキルを要求した結果、チートと思われるものを全部くれた。

 『鑑定』から始まり、『強奪』『アイテムボックス』『転移・転送』『千里眼』『言語理解』『成長率百倍』『限界突破』etc……。

 思いついたスキルは全部くれました。


 これで、スタート時点でどんな環境でも生きていけると思えた。

 そして、転生先の家は、王家だった。しかも、皇太子。数年後には、婚約者との面会まであった。

 この婚約者は、性格も良く国民からの人気も高い。幼少期を地獄のような訓練で過ごして、皇太子の婚約者候補を勝ち取ったのだとか。

 こういう奴ほど裏がある。

 だけど、どんなに調べても、淑女としか言えない性格だった。『千里眼』で見続けたので間違いない。

 極めつけは、粗相を働いたメイドに優しく接して、回復魔法まで施す始末だ。

 唯一怒ったのを見たのは、


「下賤の者に対する貴族の態度ではない」と言った取り巻きを、叱責した時くらいだ。


 実に〈国母〉に相応しい、人物だった。

 週に二回ほど会い、会話の時間を作って貰っている。コミュニケーション術も巧みであり、話題も多い。

 完璧な女性と思えた。


 俺はと言うと、十歳でレベルをカンストさせてからやることがなかった。

 俺は現地人よりも優位に立ち回れた。当たり前だ。超能力と呼べるスキルを数多く所持しているのだから。

 魔物の氾濫スタンピードが起きれば、一人で討伐に向かい、全滅させて来た。後から来た騎士などは真っ青になっていた。

 ダンジョンが見つかれば、最速で攻略して発掘したアイテムを国に献上した。

 盗賊は全員逮捕して、治安はとても良くなっている。働き口のない者に仕事を斡旋するようにしたら、国中外から賞賛された。

 戦争が起きそうな場合は、輜重を奪って回避した。まともに戦うことさえさせない。それでも攻めてこようとした国は、国門を吹き飛ばしてみせた。その後、この国に攻め込んで来ようとする国はいなくなった。


 この世界では、魔王は討伐されていた。勇者もいない。

 魔物も人里に降りて来ないので、冒険者もいない。ハイリスクハイリターンな職業は、誰も選ばなくなっていた。安全で、衣食住に困らない仕事を増やした、俺の成果でもある。

 平民でも魔法が使えるので、物資は豊富であり、貴族は経済を回すことだけを考えれば良い。要は、娯楽の提供だ。


 敵もライバルとなりえる者もいない生活……。チートな俺は、トラブルを待つが、なにも来ない。

 学校も飛び級で終わらせてしまい、今日も王城で暇している。だってスキルが、チートなんだもの。

 俺は、今日も王城や城下町を散策しながら、婚約者との話題を探す日々を送っていた。


 あの時会った女神は、俺になにをさせたかったのか聞きたい。

 『異世界に行って欲しい』ではなくて、『目的』を聞くべきだった。


 転生であるため、前世の世界には戻れない。

 まあ、前世には興味がない。俺の前世は、全てが並以下だった。

 明晰ではない頭脳。いくら鍛えても上がらない体力。恵まれない容姿。毒親……。

 極めつけは、運が悪かった。間が悪いと言った方が良いだろう。空気が読めずに周りを白けさせていた。

 戻りたいとは、思えなかったので、『目的』にはなりえなかった。


 イベントの発生しない毎日。なにをして生きろと言うのだろうか……。

 前世とは、真逆な生活を送れているけど、同じような虚無感に襲われる。

 いや、俺は不満を口にしたいだけなんだろうな。どんな環境であっても、満足しない思考の持ち主なんだろう。


 終わりの見えないゴール。

 前世では、突然ゴールが訪れたけど、今世は突然や偶然すら起きないみたいだ。


「前世では、チートなスキルを望んだんだけど、実際に手にしてみるとつまらないものなんだな」


 恵まれた生活を送っての感想だった。

 目的がないので、ゴールもスタートもない。


 異世界生活をスタートして大分経つけど、まだスタート地点にすら立っていないのかもしれない。

 空を見上げて、一人呟く。


「ゴールを何にしようかな」

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