第10頁 天の貴公子

 地下のテレポーターから階段前の罠の床エリアにやってきたアミラ達は、レインに描いてもらったメモを見ながら、慎重にタイルの上を歩いていた。


アミラ:「しっかり、間違えないように…」


 なんとか無事に罠の床エリアを抜けると、次は正面扉前のエリアだ。

 斥候の技能を持つニトライドの先導もあって、蛮族に見つかることなく、このエリアも無事に切り抜けることができた。


 そして、目的地である魔動機兵が並んでいるエリア。つまりアミラたちが最初にこの遺跡に入ってきたエリアに到着した。


アミラ:「ここでコマンドを入力すればいいんだな。ええと…」


 アミラがエドに教わったコマンドをマギスフィアに入力すると、壁際に並んでいた数十体の魔動機兵たちの目や体のランプに順番に光が灯り始めた。


ニトライド:「これ、いけたんじゃないか?」


アミラ:「よし、わたしの役割はもう終わったな!」


PL/フーリィ:帰って来いよ(笑)


一同:(笑)


ニトライド:「魔動機兵たちが動き出すまでに、姉ちゃんたちのところに帰ろう!」


 アミラ達が足早に地下通路の方へ駆けて行くと、しばらくして、後方からガシャンガシャンと大きな物音を立てながら、魔動機兵たちが暴れ出す音が聞こえた。

 すると、それに気付いた蛮族たちが何匹か正面扉前のエリアに集まってくるが、蛮族たちに対し魔動機兵達たちが攻撃を仕掛け始め、正面扉周辺は阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。


レイン:「!…この騒ぎ、アミラ達はうまくやったようだね」


フーリィ:「あとはニト達が帰ってくるのを待つだけだな!」


 魔航船の部屋にいた蛮族たちも、なんだなんだといった様子で物音がする方に向かって行ったが、指揮役のアンドロスコーピオンだけは、この部屋から出ようとする様子が見られない。


PL/バーバラ:うそ~、残念だ。


PL/ニトライド:いけよ~。


 アンドロスコーピオン達に動く気配がないのを見て、エドも痺れを切らしたのか、魔航船部屋の大扉がガコンと稼働音を上げて閉まっていった。


バーバラ:「残ったあいつら、やっちまうかい」


フーリィ:「待って、ニト達が戻ってくるまで待とう。どうせあいつら以外入って来られないんだ」


 アンドロスコーピオン達は勝手に大扉が閉まったのを見て、周りをキョロキョロと警戒し始める。

 そして、そのタイミングでアミラたちがテレポーターから戻ってきた。


ニトライド:「よかった!間に合った!」


アミラ:「ただいま!やったよ!」


フーリィ:「よくやったな」


 その時、男性の叫び声が聞こえた。

 叫び声の方を見ると、どうやらエドの透明化が解けて、アンドロスコーピオン達に見つかってしまったようだ。


フーリィ:「あ!やべ!早く行かないと!」


アミラ:「よし、いこう!」


PL/レイン:蛮族たちの前に出ます!


 レイン達一行がアンドロスコーピオンから見える位置に飛び出すと、エドに攻撃を仕掛けようとしていた蠍男さそりおとこが冒険者の存在に気付き、2匹同時にレイン達を指差しながら大声をあげた。

 その言葉は彼ら特有の言語のようで、何を言っているのかは理解できなかった。


PL/フーリィ:キェェェェ!って言ってそう(笑)


PL/レイン:共通言語で話せ!


PL/フーリィ:知能あるくせに!


PL/ニトライド:言葉覚えろ~!


PL/フーリィ:ボロクソ(笑)


PL/ニトライド:言葉がわかんないだけで(笑)


一同:(笑)


 リカントの姉弟は息を合わせたように、その頭部を獣の姿へと変化させた。

 戦闘モードだ!


ニトライド:「さぁ、やっていこうか!」


PL/ニトライド:先制判定!えいっ(ころころ)…16!お、いいですね!


PL/バーバラ:これは先制取れたっしょ!


GM:先制取れてます!


一同:おぉ~!


 アンドロスコーピオンのうち1体は、槍を持ってニトライド達の方へ駆け寄ってきた。

 もう1体は銃を持っているようだが、それを構えずに、部屋の奥に安置された魔動機兵がある方向へと向かっていった。


PL/フーリィ:先にバフかけようぜ。


レイン:「じゃあいくよ!神よ、その浄化の光にて我らを守りし盾となれ、【セイクリッド・シールド】!」


 レインの詠唱によって、アミラ、ニトライド、バーバラの身体を純白のベールが包み込んだ。

 神聖魔法【セイクリッド・シールド】。蛮族やアンデッドから受ける物理ダメージを減少する聖なる鎧だ。


レイン:「それとこれも!ニトのために覚えたんだよっ!」


 ニトライドに向かってレインがカードを放り投げる。カードはニトライドの方へ吸い込まれるように飛んでいき、彼の衣服に張り付くと、その硬度を強化した。

 トロール戦でバーバラに使用した賦術【バーク・メイル】だ。


レイン:「僕に出来るのはここまで、攻撃は任したよ!」


ニトライド:「ありがとレイン!任せとけ!」


PL/ニトライド:でもどうしようか。2回殴るか、それとも投げようかな?


GM:この蛮族は『上半身』と『下半身』の2部位ありますからね。どちらを攻撃しますか?


PL/ニトライド:2部位あるなら投げるか!


 ニトライドは槍を持ったアンドロスコーピオンに一直線に突撃し、間合いを詰める。

 槍の切っ先がニトライドに向けられるが、その射線上から身体をゆらりとかわし、敵の懐へと潜りこんだ。


レイン:「ニト!尻尾には毒があるからね!」


ニトライド:「心配すんな!パっと掴んでパッと投げるから…よっ!!」


 槍という武器はリーチこそ長いが、懐にさえ入ってしまえば逆にこっちのものだ。

 ニトライドは蠍男さそりおとこの足を1本掴むと、砲丸投げの如く、ぶんっと投げ飛ばした。


PL/ニトライド:えいっ。命中判定(ころころ)…18、命中!(ころころ)…15ダメージ!しょっぱいけど、とりあえず倒したぜ。どーん!


バーバラ:「それじゃあこっちも続くよ!アミラ、いつもより強力なやつさ!」


 バーバラがメイスを揺らしながら操霊術【ファイア・ウェポン】を唱えると、アミラのフランベルジュの剣身が炎に包まれた。


アミラ:「おー!剣が燃えた!」


バーバラ:「あたしも燃やしとくかねえ!“燃えよ盾”!」


 バーバラの合言葉によって、炎嵐の盾の表面が激しく燃え上がる。


PL/レイン:燃やしてばかりだ(笑)


PL/フーリィ:火属性だなぁ(笑)


バーバラ:「よし、じゃあいくよ!」


 横転し身動きの取れないアンドロスコーピオンに、バーバラの鉄槌が襲い掛かる!


PL/バーバラ:上半身にシェルブレイカー!(ころころ)…17命中!(ころころ)…15ダメ―ジ!あ~ダメージはしょぼいなぁ。


バーバラ:「ゴーレム!いきなっ!」


 続いて、ゴーレムが拳で攻撃を仕掛けようとするが、転倒したアンドロスコーピオンの槍を使った必死の牽制により、中々近づくことができない。

 しかし、このゴーレムの攻撃はいわば囮。本命が別にあることは、もはや言うまでもないだろう。


アミラ:「いっくよー!!」


 練技【キャッツアイ】と魔動機術【ターゲットサイト】を併用したアミラの剣裁きを、転倒した状態で避けることは、もはや不可能に近かった。

 《魔力撃》と【ファイア・ウェポン】によって紫電と紅炎を纏いしその一撃が、アンドロスコーピオンの胴体へと直撃する。


PL/アミラ:いけっ!(ころころ)…25ダメージ!


GM:つーーよっ!


PL/アミラ:出目は『2』と『3』でそんなにだったけど(笑)


PL/レイン:いや、この出目でこのダメージ…?(笑)


GM:あっ。息絶えた…。


一同:(笑)


アミラ:「しんじゃった」


GM:…え。強すぎない??こいつまだ何もしてないんだが(笑)


PL/ニトライド:やば、今度からさん付けしよ…アミラさん!(笑)


レイン:「…ぼ、僕らも強くなったなぁ~」


アミラ:「強くなったなぁ~。でももう1体いるから気は抜けないな!」


GM:いやもう気を抜いてもいいけどねぇ…。


一同:(笑)


ニトライド:「姉ちゃん、奥のヤツを頼んだ!」


フーリィ:「任せな。【キャッツアイ】は使うまでもないだろ!」


ニトライド:「姉ちゃん!おごりがうまれてるよ!」(笑)


 おごりながら放たれた一射であるが、仲間を信じて背中を向けていたアンドロスコーピオン相手に矢を命中させるには、それでも十分だったようだ。

 その矢は背中から胴体を貫き、蠍男さそりおとこの正面にいた魔動機兵に青い飛沫しぶきが降りかかる。


PL/フーリィ:よし、命中!(ころころ)…23ダメージ!


PL/レイン:お~!…え?23??バフとかないのに?


GM:…嗚呼、なんということでしょう。もうHPが半分くらいしかない。


一同:(笑)。


 アンドロスコーピオンは胸から青色の液体をだくだくと流しながら、目の前にあった魔動機兵を起動した。

 彼はこれによる形勢逆転のチャンスを狙っていたようだ。


フーリィ:「…なんかやってくるみたいだぞ!」


PL/レイン:魔物知識(ころころ)…12。


レイン:「あれは…『ザーレィ』だ」


GM:ルルブⅠです。3レベルの雑魚だよ、雑魚。


レイン:「特に言うことはない!大丈夫だ!」


PL/アミラ:なんか言え(笑)


ニトライド:「なーんだ、見掛け倒しか!」


GM:アンドロスコーピオンがこんなに弱いとは思わなかったんだ!


一同:(笑)


 起動したザーレィは、早速砲身を傾けると、射線上にいたオークゴーレムに対し光弾を発射した。

 光弾はゴーレムに直撃し、ゴーレムの半身が黒く焼け焦げた。


PL/バーバラ:結構でかいなぁ。半分持ってかれた。HP18→9。


GM:嫌がらせです。


一同:(笑)


ニトライド:「さて、ちょっと悔しいけど…ここはせいぜいお膳立てだけでもさせてもらうか!」


 ニトライドは走りながらザーレィの側面に回り込み、その外装甲に思い切り拳を叩きこんだ。


PL/ニトライド:よっ。(ころころ)…15ダメージ!


 バゴン!という衝撃音と共に、ザーレィの身体はひしゃげ、空中に浮かび上がる。


PL/レイン:いいよニト、もう1発!


ニトライド:「もう…いっぱぁつ!!」


 ザーレィの側面にできたクレーターに、もう一度拳をめり込ませると、身体中の金具が弾け飛び、機械の肉体はバラバラに分解された。


PL/ニトライド: (ころころ)…1回転!20ダメージ! なんか雑魚にだけ出目が良いぞ!雑魚処理要員だったのかオレは(笑)


ニトライド:「よーし、いっちょ上がり!あとはお願いしますよ、!」


アミラ:「誰が…お姫様だぁ!」(笑)


PL/アミラ:前に出ながら攻撃します!上半身に(ころころ)…15、命中!…いくよ?


GM:やめて?こないで?


アミラ:「覚悟しな!!!」


一同:(笑)


 アンドロスコーピオンは慌てて銃を構えるが、もう遅い。――視界が回転する。

 アミラの横薙ぎのフランベルジュが、蠍人間さそりにんげんさそりと人間の2つに分断していた。


PL/アミラ:(ころころ)…26ダメージ!!


ニトライド:「お見事!」


GM:アンドロスコーピオンまだ何もしてないよ!銃使って【ソリッド・バレット】撃つはずだったのに、できなかった~。


一同:(笑)


アミラ:「やったぁ!」


ニトライド:「呆気なかったな~、ナイスナイス~!」


フーリィ:「レイン、あたしら不要だったな」(笑)


アミラ:「敵はこれだけかなぁ?」


一同:(笑)


バーバラ:「物足りなさそうだ」(笑)


アミラ:「もう大丈夫かなって、意味だよ」(笑)


ニトライド:「ほんとかなぁ」(笑)


バーバラ:「せめて、こいつらの遺品ぐらいは有効活用してやるかねぇ」


 バーバラたちは使えそうな素材として、ザーレィから『粗悪な魔動部品』、アンドロスコーピオンから『サソリの殻』や『毒針』を回収した。


ニトライド:「確かに凶悪そうな毒針だなぁ…まぁ使われなかったけど」(笑)


バーバラ:「楽勝だったからねぇ」


アミラ:「強くなったみたいだな!みんなのおかげだよ!」


一同:………(笑)


フーリィ:「ほら、ニトも頑張んなよ。女の子に負けてらんないよ」


ニトライド:「そうだよなぁ~。次は見とけよアミラ!」


アミラ:「あぁ、勝負だな!」


ニトライド:「おう!次は絶対、オレの方が活躍してみせるからな!今回はあと帰るだけだと思うけどさ」


GM/エド:「あんたら中々強いじゃないか!助かった。じゃあ、この魔航船のシステムを弄って出発できるようにしてみるよ。色々改造されすぎて不安定だから、メンテナンスに少し時間がかかりそうだが」


バーバラ:「おぉ、そうかい。頼んだよ!」


ニトライド:「時間が掛かるのか…そういや、テレポーターの方は大丈夫か?」


レイン:「あっちから蛮族が来るかもしれないってことかい?確かに可能性はあるね」


アミラ:「魔法陣を壊しとくのはどうかな?」


GM/エド:「ちょ!もったいねぇ!お前!テレポーターっていったら今や失われた技術だぞ…?」


一同:(笑)


レイン:「そうだよ!貴重なものなんだよ!なんとか壊さずに…そうだ!扉に鍵を掛ければいいじゃないか」


フーリィ:「そんなこと出来るのか?この扉の鍵は持ってないだろ?」


レイン:「あまり得意とは言えないけど…僕が学んだ魔法の中に鍵が掛けられるものがあるんだ。やってみるよ」


フーリィ:「へぇ、そんな魔法が使えたんだな」


 レインが扉に向かって呪文を唱えると、ガシャンと機械的な音がして扉が施錠された。真語魔法【ロック】だ。


ニトライド:「おぉ!これで大丈夫そうだな」


レイン:「多分、時間稼ぎ程度にしかならないと思うけどね」


ニトライド「エド~!じゃあなるべく早く頼むぞ~!」


 エドが魔航船のシステムを弄っている間、外の蛮族たちはまだこの状況には気付いていないようで、暴走した魔動機兵たちと争っている音が聞こえてくる。

 エドと共に捕まっていた他の捕虜たちは、協力して魔航船の出発準備に励んでいた。

 そんな中、1人だけ魔航船から離れた場所で天井を見上げている男がいることに、フーリィが気付く。

 

フーリィ:「おい、何してるんだ?そんなとこで」


 その男は、牢屋の中にいた捕虜の1人だったが、ただ無表情に天井を見つめるだけで、フーリィの質問には答えない。


フーリィ:「おーい!」


 天井からガコンという音がした。


GM/エド:「おい!天井の大扉を開いてるのは誰だ!まだ少し準備に時間が掛かりそうなんだが…」


 エドが魔航船の中から身を乗り出してそう叫んでいるが、飛行物出入り用の天井の大扉はゆっくりと開いていく。

 フーリィの目の前にいた男は、ようやくフーリィの方へ顔を向け、にやりと口角を歪ませた。


GM/捕虜の男:「今に分かるさ」


フーリィ:「何、言ってんだお前…?」


GM:…真偽判定をお振りください。


PL/フーリィ:真偽判定(ころころ)…14。


 フーリィはその男に何か違和感を感じつつも、その違和感の正体にまでは気付くことが出来なかった。


PL/フーリィ:やだ。


GM:やだ(笑)


 天井の扉が開くと、フーリィ達の頭上を大きな影が覆う。見上げると、その影は翼の形をしていた。

 そらに現れた黒き影は翼を閉じ、勢いよく急降下すると、床に着く直前で再び翼を広げ、ぶわりと風を巻き上げながら、優雅に着地した。


レイン:「なんだ…?」


 そらを見上げていた捕虜の男は、着地した翼のぬしに向かってひざまづくと、畏まった声で発言した。


GM/捕虜の男:「…お待ちしておりました」


フーリィ:「はぁ!?」


 天井が開き切り、太陽の光が差し込む。

 頭部に優美な角を生やし、美しい人間の男に似た胴体と、真紅の鱗と皮膜を持った、大きな両翼が露わになる。

 着飾った衣服を見ても、この魔物が凡百の蛮族とは格が違う、貴族階級の存在であることが理解わかった。


レイン:「こいつは…!」


 “そら貴公子きこうし

 誰かが、そう呟く声が聞こえた。

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