第9頁 たったひとつの冴えた作戦
バーバラ:「こいつ、牢屋の鍵とか持ってないかねぇ」
バーバラが巨体の懐を漁ると、トロールは150G相当の『宝石』を1つと、リングで束ねられた『鍵束』を所持していた。
バーバラ:「お、鍵を持ってるじゃないか!」
ニトライド:「これで助けられそうだな!開けよ開けよ!」
先程の戦闘で物音を聞きつけた蛮族が来ないか警戒しつつ、バーバラ達は牢屋の扉に鍵を差し込んだ。
すると、牢屋の扉は無事に開き、牢屋の中にいた人族の捕虜が6人ほど出てきた。
その中には、背が低く、毛に覆われた大きな垂れ耳が特徴的な種族“レプラカーン”の男性がいた。
彼がこの捕虜の中でリーダー格の人物らしく、牢屋から出ると率先して冒険者に話しかけてきた。
GM/捕虜:「助かった!君たちはみな冒険者なのか?」
アミラ:「そうだぞ!」
バーバラ:「他のやつらはもうダメだったのかい?」
GM/捕虜:「他にも20人くらいはいたんだが…今残っているやつら以外は殺されちまった」
アミラ:「そうか…」
バーバラ「なんてことだ…!」
フーリィ:「お前たちも大丈夫か?拷問されていたみたいだが」
GM/捕虜:「大丈夫だ、拷問されたやつの傷はもう癒えてるよ」
フーリィ:「え!はえーな!?」
GM/捕虜:「毎回トロールが癒してくれるんだ」
PL一同:「え!?」
バーバラ:「やっぱり良いやつだったのかい!?」
アミラ:「倒しちまったけど良かったのか?」
フーリィ:「いや、いいんだよ。だってあいつが望んだことだろ。指クイックイッてやってたじゃねぇか」
バーバラ:「た、たしかに」
GM/捕虜:「あー…よく分からねぇが、毎回拷問が終わった後にあいつが神聖魔法で傷を癒してくれるんだよ。まぁ、逃がしてはくれるわけではないんだけどな」
レイン:「なるほど、トロールは弱き者には情けをかけることもあると聞いたことがありますね」
アミラ:「どっちにしろ、倒さなかったら捕虜を逃がすことも出来なかったしな~」
ニトライド:「ま、戦闘は避けられなかったってことか」
GM/捕虜:「もしかして、堕ちてきた飛行用の魔動機に乗ってきたのか?」
アミラ:「あぁ!着地には失敗したけどな、ははっ(笑)」
GM/捕虜:「おぉ、どうやらうまくいったみたいだな!して、その魔動機は故障してしまったのか?」
アミラ:「そうだな、エラーが出てたぞ」
GM/捕虜:「やはり落下の衝撃が大きかったかぁ…」
バーバラ:「でも、この遺跡にも同じような魔動機がたくさんあったよ」
GM/捕虜:「あぁ、そうだな。実は…君らが乗ってきた魔動機を落としたのは俺なんだ」
ニトライド:「え!?」
レイン:「どういうことだい?」
GM/捕虜:「おっと、その前に。俺の自己紹介がまだだったな。俺はエド。魔航船の操縦士をやっている
バーバラ:「そうだったのかい」
レイン:「
GM/エド:「見ての通り俺はレプラカーンなんだが…レプラカーンには透明化の能力がある。だから俺だけ透明になって牢屋からこっそり抜け出すことくらいなら難しくはない」
フーリィ:「なるほどな。なのに、お前は1人で逃げなかったんだな」
GM/エド:「蛮族には、
ニトライド:「あんた、いいやつだな」
GM/エド:「いやいや、当然のことだよ。でだ、こっそり何回か牢屋から抜け出した時に、ヤツらが乗っている飛行用の魔動機に細工をして、途中で墜落するようにしたんだ。その墜落した魔動機を誰かが調査して、俺たちが捕まっていることに気づかないかと思ってな」
ニトライド:「頭が回るな」
GM/エド:「なんでもヤツら、魔航船をこの遺跡にあった魔動機パーツで改造して、人族の国に攻め入ろうという作戦を練っているらしいからな。だから俺たちが乗っていた魔航船が襲われて、俺たちもここに拉致られてるってわけだ」
レイン:「なんとしても止めなきゃね」
フーリィ:「でも、あたしらじゃどうしようも出来ねぇよ」
GM/エド:「そうだな。ヤツら結構な数がいるからな。真正面からじゃ、無理だろうな」
バーバラ:「一度ギルドに報告しにいって、めちゃめちゃ大人数で来るとかじゃないと無理じゃないかい?」
一同:(笑)
GM/エド:「…それも良い案だが、この人数じゃ飛行用の魔動機一台じゃ逃げられないだろ? それに、その飛行用魔動機がある部屋の前には蛮族が大量にいるときた」
バーバラ:「確かにねぇ…帰れないことには報告もできない。じゃあ、どうするんだい?」
GM/エド:「俺に、1つ作戦があるんだ」
ニトライド:「ほう!教えてくれ!」
GM/エド:「あぁ、実際にあれを見せてから説明した方が早いかもしれない。まずこの通路の先にある部屋の中を見てほしい」
ニトライド:「へえ、ほんじゃ行ってみっか」
トロールが座っていた通路の先に進むと、地図にもあったとおり、謎の小部屋へと繋がる扉があった。
しかし、その扉の取っ手にエドが手を掛けてみると、その扉はびくともしないようだ。
GM/エド:「あれ、開かねぇな。以前は開いたんだが…。鍵がかかってる…それも、魔法的なロックがかけられてるみたいだ」
ニトライド:「えぇ~!」
フーリィ:「ニト、何か拾ってなかったか?」
ニトライド:「おぉ!魔法的な鍵なら丁度こいつで開けられるじゃないか!任せろ!」
ニトライドは懐からアンロックキーを取り出し、扉の解除を試みる。
PL/ニトライド:解除判定(ころころ)…12。
PL/アミラ:どうだ…?
ガチャリ。解錠の音がし、扉がギイと開いた。
GM/エド:「おぉ、あんたもスカウトか」
ニトライド:「そうなんだよ、どうだこの腕前!」
GM/エド:「中々のもんだ。しかし、前に俺がこの部屋入ろうとした時は、こんなロックは掛かってなかったんだが…まぁいい、それじゃこいつを見てくれ」
扉の先を見ると、真っ暗な部屋の床の中央に、大きな魔法陣が青白い光を放っていた。
その魔法陣は、文字や記号を中心に描かれる真語魔法系統の魔法陣というよりは、この遺跡の壁や床でよく見かけるような直線的なラインが多く、サイバーチックな印象を受ける魔法陣だった。
ニトライド:「うぉ、まぶしっ、暗いところに目が慣れてるからいってぇよ!」
レイン:「何だこれは!!」
GM/エド:「これは“テレポーター”だな」
バーバラ:「えぇ!?なんだい?テレポーターって」
GM/エド:「この上に立ってみればわかるさ。なに、この遺跡の中の特定の場所へ一瞬で移動する魔法だよ」
フーリィ:「これはお前がやったのか?」
GM/エド:「いやいや、それは流石にな。これは元々この遺跡にあったテレポーターだ」
フーリィ:「じゃあ蛮族たちもこれを使うのか?」
GM/エド:「いや、前までは部屋に物理的な鍵が掛かっていて使われていないようだったのを、俺がこっそり開けて起動したんだが…」
アミラ:「誰かが使ったってことなのか?」
GM/エド:「…かもしれないな」
バーバラ:「ちなみに、これはどの部屋に繋がっているんだい?」
GM/エド:「魔航船がある大部屋のすぐ左隣の小部屋さ」
フーリィ:「なるほど!じゃあ、ここから魔航船の部屋まで直接いけるってことか。蛮族がうじゃうじゃいる中央を通っていくより何倍もいいな」
GM/エド:「その通り。で、肝心の作戦だ。簡単に言えば、魔航船を俺たちが奪い返してそのまま帰っちまおうっていう作戦な訳だが…普通にやろうとしても、周りに蛮族がいっぱいいるから無理だわな?」
フーリィ:「も、もしかして…!あたしらを囮にしてその間にってことか…?」
GM/エド:「いや、そんなひでぇ話じゃねぇ」(笑)
一同:(笑)
ニトライド:「人間不信すぎだよ姉ちゃん」(笑)
アミラ:「流石にね」(笑)
フーリィ:「あたしらが蛮族を引き付けている間に、透明化したエドが魔航船をちょちょいのちょいと操作するんじゃないのか?」
GM/エド:「まぁ、確かに発想は似たようなもんだな。まず、あの魔航船がある部屋へ行くには、このテレポーター経由を除けば扉が1つしかない。だから、その扉を閉じちまえば蛮族どもが後から入ってくることはないわけだ」
ニトライド:「なるほど、そして中に残ったヤツだけを倒すと」
GM/エド:「そうだ、だがそもそも、魔航船がある部屋自体に普段から蛮族のいる数が多い。だから、ある程度別の部屋に誘導してから扉を閉めないと意味がないんだ」
フーリィ:「ふぅん、じゃあ結局、中央の部屋で騒ぎを起こさないとダメなのか?」
GM/エド:「ただ、君たちが直接騒ぎを起こして、あの量の蛮族の囮をするのは流石に無理だろう?」
フーリィ:「そうだな」
GM/エド:「そこで、この地図の左下にある部屋の魔動機兵たちを囮に使おうと思うんだ」
フーリィ:「あれを動かせるのか?」
GM/エド:「
ニトライド:「すげぇなあんた!」
GM/エド:「つまりあそこの魔動機兵たちを暴走させて、それに蛮族どもが気を取られてるすきに魔航船を奪っちまおうっつう魂胆だ」
バーバラ:「いいね、それでいこう!」
GM/エド:「そのためには二手に別れる必要があるんだが、魔動機兵を起動する方と、魔航船のシステムを乗っ取る方だ」
フーリィ:「でも、両方ともお前がいないとダメじゃないか?」
GM/エド:「いや、魔動機兵の起動の方は多分俺がいなくても出来ると思う」
そう言うと、エドはアミラが持っている鍵用のマギスフィアを指差した。あのレッサーオーガから取り上げたものだ。
GM/エド:「そのマギスフィア、見たところこの遺跡のものだろ?」
アミラ:「そうだぞ」
GM/エド:「そのマギスフィアに特定のコマンドを入力するだけで、あの魔動機兵を起動することが出来るんだ。だから魔動機兵の起動をする方には俺は必要なくて、むしろ、大きい部屋の扉を閉めたり魔航船を乗っ取る方は俺が必要になるわけだ」
アミラ:「このマギスフィア、鍵の役割だけじゃなかったのか!」
GM/エド:「君にも
アミラ:「あぁ!わたしに任せてくれ」
ニトライド:「アミラ、1人で大丈夫か?オレ止まってるのも柄じゃないし、オレも魔動機兵の方にいくよ」
GM/エド:「魔動機兵の部屋までこっそり進む必要があるからスカウトが先導した方が安全かもな。魔動機兵を起動させたらすぐに地下に引き返して魔法陣の部屋から戻ってこれば良い」
レイン:「君たち、あの罠の道順は覚えてるかい?」
ニトライド&アミラ:「…地図、描いて貰っていいか?」
一同:(笑)
アミラ:「メモ見ながらいくよ」(笑)
フーリィ:「蛮族と同じことしてんな」(笑)
レイン:「じゃあ…」
PL/レイン:紙に地図を描いて渡します。びりびり。
アミラ:「ありがとう!」
GM/エド:「それじゃあ、魔動機兵を起動させるコマンドもそのメモに書いておくよ、逃げる時間も考慮して、魔動機兵が起動してから動き出すまでに少しディレイをかけておくぞ」
アミラ:「そんなことも出来るのか~」
フーリィ:「頼んだぞニト、アミラ」
アミラ:「あぁ、任せろっ!」
ニトライド:「心配すんなよ、姉ちゃん」
アミラ:「じゃあ行ってくるよ!」
GM/エド:「あー、ちょっと待て!行くのは魔航船の部屋の様子を見てからの方が良い。部屋に行ってみて、万が一無理な状況だと判明したら困るだろ?」
フーリィ:「そうだな、戦闘になるかもしれないなら、あたしらも準備万端にしておいた方がいいかもな」
バーバラ:「うちのゴーレムも壊れかけだし、治しておくかね」
バーバラが【アース・ヒール】によってオークゴーレムを回復し、フーリィが魔香草を使って、先ほどの戦闘で消耗した分の魔力を回復した。
ニトライド:「おし!こんな感じかな?じゃあ、いこうか!」
彼らが魔法陣の上に立つと、一瞬だけ目の前が真っ白になり、周囲の景色がやや変化していることに気が付く。
そこは先ほどの部屋と同じく真っ暗な部屋に魔法陣があるだけの部屋だが、扉のある方角が変わっており、既にテレポートは完了しているようだ。
レイン:「すごいな、これがテレポートか…!」
ニトライド:「おぉ~!景色が一瞬で変わったぞ!?」
GM/エド:「ここから先は静かにな」
フーリィ:「はしゃぐんじゃないぞ」
ニトライド:「分かったよ姉ちゃん…」
物音を立てないようにゆっくりと扉を開くと、すぐに大きな魔航船が目に入ってきた。魔航船までは少し距離があるが、蛮族たちがせっせと魔動機のパーツを運び込んでいるのが見える。
ニトライドたちが出てきた扉の周囲にはコンテナなどが積んであり、扉の周りは蛮族たちから丁度死角になっているようだった。
ニトライド:「いやぁ~近くで見ると大きいなぁ…」
魔動機を運んでいる蛮族の中に、その中心となり指揮をしている個体がいることが分かる。上半身は人型だが、下半身に
その近くには魔動機の操作盤があり、この操作盤からこの部屋の大扉やクレーンなどの可動物を操作するできるようだ。
PL一同:うわぁ~~。気持ち悪い…
GM:それが2体ほどいて、蛮族たちに指示を出しています。
PL/ニトライド:地獄だ(笑)
フーリィ:「あいつを知っているかレイン?」
PL/レイン:じゃあ魔物知識判定(ころころ)…15。おぉ高い!
GM:あれはル―ルブックⅡに載っている『アンドロスコーピオン』です。魔動機文明に詳しく、魔動機術を使用できる蛮族です。弱点まで抜けているので物理ダメージ+2ですね。
レイン:「あいつらは『アンドロスコーピオン』だね。物理的なダメージに弱いから、気にせずいつも通り殴ってくれればいいんだけど、尻尾には毒があるからその攻撃には気を付けて」
バーバラ:「毒かい」
アミラ:「なんか、厄介だな」
レイン:「あとフーリィには一応言っておくけど、あの蛮族は銃を撃ってくる可能性もあるんだ」
フーリィ:「そうなのか!?」
レイン:「もしかしたら後衛の僕らが狙われる可能性もあるから気を付けておいてくれ」
フーリィ:「あぁ~…」
PL/フーリィ:他には何がいますか?
GM:他には遺跡の入り口や地下で見たような蛮族が10体ぐらいいますね。ボルグやアラクルーデルとかだね。
PL/バーバラ:アミラ頑張ってくれ…。
GM/エド:「なんとか予定通り行けそうだな…。じゃあ俺が今から透明化して、操作盤からこの部屋の扉を閉める準備をするから、同じタイミングでお嬢ちゃんたちも魔動機兵の方を起動しにいってくれ」
アミラ:「わかった!」
フーリィ:「アミラ、ニト、気をつけろよ」
バーバラ:「頼んだよ!」
アミラ:「任せとけ!じゃあいってくる!」
ニトライド:「アミラ、オレに付いてくるんだぞ!」
ニトライドとアミラが魔法陣の部屋から地下側へテレポートしたのを確認すると、エドもすぐに透明になり操作盤の方へ向かって行ったようだ。
フーリィ:「レプラカーンってすげぇんだな、初めてみたぞ」
レイン:「あの二人心配だなぁ…」
その様子を見ていた残りの捕虜のうちの1人が、物陰で小さく何かを呟いてたが、それに気づく者はこの時は誰もいなかった。
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