第67話


「ご存知の通り現在、堀田さんは情緒不安定なのは疑いようのない事実であります。当社の健康管理部門が全力で彼をフォロー中なので、ご安心なさってください。ただ最高の理解者であるところの角畑さんのご意見もお伺いしたいと思いますので……」


「いいぜ、こっちから行こうと思っていたところだったから、願ったり叶ったりだ。今晩にも会う約束はできないか? 善は急げだ。……前と同じ場所でいいんだな?」


 しばらくの沈黙が続いた。


「当方としましては問題ありませんが……いえ、三日ほど待っていただけませんか」


 電話の向こうの森井は歯切れが悪い。何か困っているようだが。


「色々と調整する時間が必要なのです。どうかご理解していただけますでしょうか。堀田さんにつきましては一時的なものだと思われますので、引き続き私に任せておいて下さい」


 調整とは何だろう。堀田の事か? それとも機材関係、もしくはスタッフの都合なのか? 全く分からなかったが、角畑は、それ以上無理強いはしなかった。

 あまり強引に事を進めると完全にシャットアウトされ、堀田に面会さえできなくなる可能性がある。

 アポイントメントを取ると、カード型携帯電話を財布にしまった。無論、堀田のビハイヴへのダイブは、しばらくの間中止するよう伝えるのも忘れなかった。

 角畑は、背もたれが壊れかけている椅子に作業着で腰掛けて独り言をつぶやく。


「病院に入院している訳でもないのに、自由を奪われている気がするぜ、堀田君……」


 何だかタバコの消費も増えた気がする。小銭がすぐになくなってしまう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る