第43話
森井は全てを把握しているような物言いで、やはりこの世界は出来レースなのだな、と少々興ざめしてしまう。所詮は人工的な娯楽イベントの進行役にすぎないのだが、この世界を統べる神様には違いない。
女神は慈悲深く、展望デッキ行きのチケットまで手渡してくれた。
「……別に好きだった人に会いに行かなくても、この金で東京の街を豪遊してもよいのでは?」
「それは堀田さんのように、正式に契約してからですよ。今はあくまで、お試し体験中なので制限が掛かっています。ちなみに今ダイブ中のビハイヴのお題は、『初恋の人と遊ぶ青春時代』です」
「いかにも回春オヤジが喜びそうな下衆なテーマだよな」
角畑は、自虐的な発言をして森井からの反応を待ったが、彼女は苦笑いしただけだった。
「私としゃべっていても話が始まりません。堀田さんも、そろそろ退屈し始める頃なので、さっさと青春してきて下さい。それでは後ほどお会いしましょう」
そう言うと、森井は眼前からぱっと消えた。香水の残り香が漂う。
久美子ちゃんと藤井さんの事もあり、角畑はあまり気乗りがしなかった。ちょっと疲れてしまったのだ。
だが堀田と森井が骨を折って構築してくれた世界は、的確に在りし日の日本を再現しており、非常に興味をそそられる。
「これで最後にしよう。あまり深入りするのもちょっとな……」
独り言をつぶやくと角畑は、東京スカイツリーのエントランスから高速エレベーターに向かってその列に並んだ。
展望シャトルは当時の最新式で、驚くほど早く地上から350メートル上空まで到達させるのだ。小林香の事を回想し、自身の気持ちを整理する時間など無いに等しかった。
かつてラグビー部に入り、普通の高校生活を送っていた角畑は、一人の同級生にずっと恋をしていた。それが正に隣のクラスの小林香だったのだ。
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