第42話
……森井だった。しかもセーラー服バージョンだ。
「ご存知ですか? 角畑さん」
「何がだ……」
「流行に流されやすい女子高生と違い、女子中学生の姿は昭和、平成などと時代が変わっても、さほど大差がないのです」
「今まで考えた事もなかったが、確かに言われてみれば、そうなのかもしれない」
「ですから、いつも私は女子中学生の格好をしている訳です」
森井が、くるりと一回転すると、スカートが花のように開いた。
「どうせ、皆からは見えていない存在なんだろ?」
どうでもいいような口調で言い放つ。
「いえいえ、角畑さんの世界観を壊さないようにするための配慮です」
――そうなのか。それにしても、この人はモデルのようにポーズを決めなければならない性分なのだろうか。
「さて本題です。修学旅行をより楽しんでもらうために百万円の資金を用意しました」
彼女は学生鞄から、分厚い札束を取り出す。
「いくら何でも多すぎるだろ。修学旅行の土産に何を買わせるつもりだ、バイクか?」
「斬新ですね、さすがは角畑さん。使い方はあなた次第ですよ。仮想現実空間シミュレーターでもあるビハイヴには、こんな楽しみ方もあるという事を知ってもらいたかったのです」
森井は、映画のヒロインがするような笑顔のウインクをして言った。
「今度は泣かずに帰ってきて下さいね」
「うるさいな、分かったよ」
森井と角畑は、現実世界では今日が初対面のはず。それにも関わらず、彼女とはもはや、友人としゃべるような口調になっていた。姿形が中学生の子供だからだろうか。
「ちなみに今は自由行動の時間で、目的の小林香さんは、東京スカイツリーの展望デッキにいらっしゃいます。友人と些細な事からケンカをされて、独りぼっちになっている状態なのです。お誘いするチャンスですよ」
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