第41話

 角畑は最後まで付き合ってみる事にする。森井もがぜん、ヤル気を出してきた。


「舞台は高校三年生の時期。東京への修学旅行にしましょう」


「よく調べたもんだな……」


「ヒロインはあえて、角畑さんへの好意は普通に設定しておきましょう。大人の経験と知識で彼女を落として下さいね。ルックスは美男子に変更しなくても角畑さん、当時のあなたは十分過ぎるほどイケてますよ」


「ふん、俺を褒めても何も出ないぜ」


 一同が笑いに包まれた後、角畑はトイレを済まし、ウーロン茶をガブ飲みした。

 二人が見守る中、ヘッドベースで儀式のようにコンタクトレンズを両眼に乗せる。もう三度目になるので徐々に慣れてきた。

 白銀の世界に飛び込むように世界がホワイトアウトするのを感じる。死ぬ時はこんな具合なのかなと連想したのは黙っておこう。


「行ってらっしゃいませ……」


 オペレーター席の森井の声が小さくなって頭の中で反響する。




   ✡ ✡ ✡




 20××年東京、墨田区。去年完成したばかりの東京スカイツリー下に角畑は立っていた。

 天空に伸びゆく尖塔は、曇り空を引っ掻くように霞みがかり、わがままな存在感を主張してくる。

 未曾有の天災を経験し、政権交代も果たした後の、何とも筆舌に尽くしがたい不穏な空気が蔓延した日本。

 出直し社会を象徴するかのような真新しい建造物であるが、角畑の生きる未来においては、古めかしささえ感じさせている。


「さて、今度はどんな出会いが待っているというのか……」


 学生服の詰め襟の息苦しさが、何だかとても懐かしい。

 スカイアリーナと称する通りを歩いて行くと、見覚えのある顔が近寄ってくる。


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