第44話
角畑は実のところ、すでに同じクラスの女子と付き合っていたのだが、パッとせずケンカばかりの毎日だった。不誠実だが、本命の小林香の事をあきらめきれずにいたのが原因の一端だ。
人生は妥協の積み重ねの上に成り立つものだが、まだ当時は若く自分の可能性を固く信じていた。
一方で小林香は、近寄りがたいオーラをまとった美少女で、見た目も言動も大人びていた。
それもそのはず、京都府内の某有名私立大学生と付き合っているという噂。周囲のガキっぽい同級生の所存が物足りないらしく、小馬鹿にしていたフシがある。
大人の世界に憧れるのはいいが、女子からは嫌われていた気がする。いつもつまらなそうに携帯をいじくっていたのが印象的だ。
今思い出すとセミロングの髪は、いつも美容室に行っているのかと思うほど整えられ、ナチュラルメイクも完璧だった。言い寄る男達もクールにいなす、角畑が今まで好きになった女性とは、タイプが異なる強敵だ。
「今なら怖くない、当たって砕けろ! 俺!」
角畑は自分を鼓舞して小林さんを探す。展望デッキは思いの外広大で、観光客の数もハンパではない。
――まさか更に上階の展望回廊に行ったのか?
しばらくウロウロしてやっと見付けた。母校の制服姿であるが、若手女優と見紛う絵になる人物を。
……まるでスチール写真から抜け出してきたかのように、片手を手すりに置いて物憂げに遠くを眺める姿は文句なしに美しい。大袈裟に言うと観光客は振り返り、外国人は一緒に記念撮影をお願いしてくるレベルだ。
「小林さん!」
偶然を装い、さりげなく隣に並ぶ。
「……すばらしい眺めだね。京都タワーとは比べ物にならない」
彼女は何も反応を示さず、完全に黙殺。
「今、……一人なの?」
その言葉が癪に障ったのか、彼女は冷たく言い放った。
「あなた誰?」
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