第39話


「……君の事が好きだったんだ。ありがとう、本当に感謝しているよ……。でも、もう行かなくちゃ」


「……え?」


 予想外の言葉に、藤井さんは言葉を失った。

 角畑は、美少女が手にしているブルマを手に取ると、肩を貸して片脚ずつ穿かせてあげた。人生において一度あるか、ないかの稀有なシチュエーションだ。

 優しく諭すように、角畑はつぶやく。


「記憶の中にある君の眩しい姿は、二十年経った今も、ちっとも色あせず、輝きを失っていない。ふと思い出しては心に花を咲かせるんだ。俺は美しい思い出を、これ以上汚したくはない……」


「何言ってるの、角畑君? 私にも分かるように言ってよ」


「君の事が、今でも好きだ」


「私も角畑君の事、好きなんですけど!」


「だから、だからさ……」


 角畑は、ちょっと首を傾けると、藤井さんの唇に優しくキスをした。彼女は本能的に、それが別れの意味のように感じ取られた。


「何で? お互い好きって言ったじゃない、何でなの……?」


 藤井さんは、大きな瞳から溢れ出す涙を止める事ができなかった。角畑は、彼女の頬を伝う涙を優しく指で拭ってやる。


「さようなら、藤井さん……。俺は知っている。君とは、いつかまた会えるかもしれない」


「角畑君!」


 藤井さんを抱いたまま、片目からコンタクトレンズを外すと、視界がまたブラックアウトを始めた。腕に残った彼女の体温が、やけに身に沁みた。






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