第37話

 角畑は、はっとした。中学生の時に好きだったはずの女の子と、誰もいない準備室に二人っきり。

 しかも美少女は、体操服にブルマ姿なのだ。何だか心拍数が急上昇する。

 藤井さんも警棒を照れ隠しに、いじくり回していたが、何だかいい雰囲気になってきたのを感じ取ったのか顔を赤らめた。


「お、落ち着け。俺は三十五歳、彼女は十五歳……」


「え? 何言ってるのか聞こえないよ、角畑君……」


 彼女の仕草も、心なしか意識した物になってきたような気がする。服の下で息に合わせて動く双丘は、高学年ともなると十二分に色香を発し、未完成で青いなどと切って捨てるのも失礼に当たるような気がする。

 ……もう子供と同列に語れず、その価値や意味合いが成長と共に変質してきていると言いますか……。

 冷静になろうと努力を続ける角畑の心情を逆撫でするかのごとく、藤井さんはポニーテールを結ぶゴムを解き、意味ありげに髪を下ろした。

 美しい漆黒のロングヘアは、指でとかして首を振ると、何とも言えない芳香を辺りに放つのだ。


「…………」


 沈黙が二人の間を支配する。お互い次に発せられる魅惑的な言葉を待っているかのようだ。

 大体において、中学校を通して憧れて好きだった女の子を前にして、落ち着いていられる訳がない。たとえ経験を積んだおっさんになっていようが関係ないと断言できる。


「待てよ、おっさんか……」


 角畑は声に出さないように独り言をつぶやいた。

 ――わざと嫌われるような事を言ってみて、空気を変えてみよう。


「おい、藤井さん……よかったら、恩人の俺にパンツを見せてあげよう、とは思わないか?」


 自分でも言っている意味が分からない。当然、藤井さんもその意図が分からず、一瞬にして微笑みが消えてしまった。

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