第23話
角畑は年甲斐もなく小っ恥ずかしくなって、ズボンのポケットに入っていたハンカチで彼女の濡れた体をできるだけ拭いてやる。
「久美子ちゃん、風邪ひいちゃうぞ」
「あは! びしょ濡れになっちゃった」
透き通るような肌と、水着代わりの下着から水滴がこぼれる。それでも角畑のシャツを羽織った少女は、満足げな笑顔でいてくれた。
「そうだ! 久美子ちゃん、忘れてた!」
角畑と彼女、二人で支え合いながらバケツのザリガニを静かに川へ放流した。こうして外来種が日本で繁殖していくのかな……。
しばらく野原で服を乾かし、満足した後は公園に行き、携帯ゲーム機でしばらく遊んだ。彼女の胸のポケットは何でも入っている魔法のポケットだ。
『それにしても何やってんだろ俺。いい大人なのに』
角畑がつまらなそうにしていると、久美子ちゃんは言った。
「ゲームは今日もういいから、こんどはゴム跳びしない?」
オーバーオールの魔法ポケットからゴム紐を取り出した。彼女と二人で飽きもせず、ひたすらアルプス一万尺を歌いながらゴム跳びをしたのだ。
女の子の遊びに辟易としていると足を引っ掛けて、うつ伏せに転んだ。すかさず久美子ちゃんは角畑の背中に飛び乗って体重をかけてきた。今度はプロレスごっこか?
「つぶれるー。このーっ!」
角畑はすぐさま仰向けに寝がえり、芝生の上を転がって久美子ちゃんの腕を掴んだ。
「いやだ、放して~」
口ではそう言っているが、全然いやがっていない。二人で子犬のようにじゃれあって、いつまでも笑い転げたのだった。
いつの間にか日も暮れてきて、西洋カボチャのような夕日がやけに切なく感じた。
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