第24話
「おーい! 久美子~」
公園そばの車道に駐車したドイツ車から、久美子ちゃんを呼ぶ声が聞こえる。彼女の両親が連れだってやって来た。
「カクちゃん、久美子と遅くまで一緒に遊んでくれて、ありがとう」
母親から菓子包みをもらった。今度は父親も声をかけてきた。
「神戸に引っ越すんやで。地震で家が壊れて、ずっと京都に仮住まいしていたけどな。ようやく新築の家ができたねん。カクちゃんも是非、神戸まで遊びに来てな」
両親は屈んで角畑の目線になってくれた。
「よそもんの久美子が今まで寂しくなかったのは、カクちゃんがいつも遊んでくれたおかげや。ほんまにありがとう、また会おうな」
久美子ちゃんは、胸の魔法ポケットから手紙を取り出すと、もじもじとしながら角畑の手の上に置いた。
それから両手でぎこちなく握手を交わすと、彼女と両親は車に戻って行ったのだ。
久美子ちゃんは、父と母の前では急に大人びて、よそよそしくなった。角畑とも目を合わせなくなったのだ。
大人になった今では分かる。彼女の気持ちが痛いほどに。
車のスライドガラスが全部下り、三人が手を振ってくれた。
「さよなら……! カクちゃん、元気でね」
角畑は確かに聞いた。久美子ちゃんの最後の言葉を。
そして車が西に向かって遠ざかり、はるか彼方のビルの陰に隠れて見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも角畑は手がしびれるまで手を振り続けた。
公園に一人残された角畑は、寂しさにいたたまれなくなり、ブランコに力なく腰かけた。
そのまま、可愛いシールに飾られた久美子ちゃんからの手紙を開けてしまったのだ。
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