第20話
「あっ! あのラジコンは!」
角畑が、どんなに背伸びしても届かない棚の上段に、ひと際大きくて立派な箱が鎮座していた。
それこそ子供の頃、欲しくて死ぬほど憧れて、親にねだったラジコンカーの組み立てキットだった。
というのも、当時から数万円もする高価なキットは大人向けで、お年玉をはたいても買える代物ではなかった。当然、子供が組み立てられるはずもなく、親が買い与えてくれる可能性はゼロに近かったのだ。
そこで数年間我慢を重ね、そのオフロードバギーを入手できる額まで貯金をしたのだが、愚かな事にTVゲーム機の方を先に買ってしまった。年齢も上がり、興味が他に移ってしまったと言えるが、もう二度と件のラジコンキットは店頭に並ぶ事はなかった。
そのような紆余曲折があり、買いそびれた事をずっと後悔していた幻の一品が角畑の目の前にある。
「そうだ、金! お金、お金」
半ズボンのポケットをまさぐったが、当然財布など持ち合わせていなかった。そもそも、この時代に使用されていた紙幣は、どんな柄だったっけ。
「おっちゃん、今は西暦何年だったかな? 教えて」
プラモ屋の主人は、新聞から目を離して老眼鏡越しに二人を見た。
「え~、何言うとるんや。今は二〇××年やろ」
……西暦二〇××年……、三十年近く前じゃん。まるで昔にタイムスリップしたみたいだ。これがビハイヴの描く世界なのか。
「何、あのラジコンが欲しいんか?」
プラモ屋の主人は子供相手にも丁寧だった。背伸びして箱を棚から降ろすと、角畑の目の前で開けて中身を見せてくれた。バギーのメタルパーツがブリスターパックに整然とパッケージングされており、購買欲がそそられる。
羨望の眼差しで、瞳を輝かせていると……。
「君が大きくなるまで置いといたるわ。お父さんに買ってもらっても、ええんやで」
主人は眼鏡の奥の優しそうな目を更に細めたのだ。
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