第19話

「カクちゃん? こんな時間にお風呂屋さん?」


 井出久美子ちゃんが不思議がるのも無理はない。幸いにも女湯から出てきたところは見られずに済んだようだ。


「いや、忘れ物を取りに行ってたんだ。気にしないで」

 

 ……すっかり忘れていたが、この凄まじいまでのリアリティは本当に仮想現実VRなのだろうか。もう一度、周囲の風景をつぶさに観察してみる。


 もう当分の間、京都には帰っていないが、何かが違う。走っている車が旧い型ばかりで、しかもピカピカの状態だ。

 ――おっ! あれはアルミニウム製のスーパーカー・ホンダNSXの新車じゃないか。


「カクちゃん、今日は変やで。さっきからどうしたん?」


 久美子ちゃんが、黒い大きな瞳で角畑を心配そうに見てくる。


「いや、何でもないよ。あの車に乗りたいな」


 赤いNSXを指さす。


「大きくなったら、私を乗せてくれる?」


「うん、もちろん……」


 近所を散策すると、とっくにつぶれてなくなったはずのプラモ屋、たこ焼き屋、駄菓子屋が普通に営業している。すでにこの時代においても廃れてボロボロの店ばかりだが、わくわくが止まらない。


 久美子ちゃんの手を引いてプラモ屋に近寄ってみる。店先のショーケースには、リアルロボットアニメの登場メカ、戦艦大和、零式艦上戦闘機、タイガーⅠ戦車などが所狭しと陳列されている。


 薄暗く狭い店内に二人で突入すると、色とりどりのパッケージに入れられたプラモデルが、うず高く積み重ねられていた。

 思わず色々と目移りしてしまう。大型模型店には大人になっても行くが、子供目線では、こんなにも世界が輝いて見えるものなのか。すでに絶版で、今では手に入れる事のできないミニカーや、懐かしいキャラクターのプラモデルを発見した。……この頃ミニ四駆も流行ってたっけ。


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