第14話


「かく言う俺も、これで仮想現実の世界にハマった。百聞は一見……、この場合一見と言っていいのか? 一覚にしかずと言うもんだ。さあさあ、ヘッドベースに座ってコンタクトをはめてみてくれよ」


 角畑は、しぶしぶヘッドベースに向かった。冷たいマシンに触れると『さあ、お膳立ては整いました。是非座ってください』と言われているような気がした。

 さっき堀田に、角畑が好きだった歴代の女子の名前を羅列されたが、ひょっとして今からダイブする仮想現実の世界ってのは……、まさか……。


「分かった! 恋愛シミュレーションゲーム?」


「いいから、行ってこいよ、カクさん!」


 不安げな角畑の背を押すように、堀田が一喝した。

 森井に促されてバケットシートに身をゆだねる。すると一瞬の内に角畑の体形に合わせてシートが変形する。長時間座っても、血流が妨げられないようにジェル状で柔らかい。まるで蒟蒻の上に寝ているようだ。

 森井からコンタクトレンズを渡される。水溶液中のナノテク・コンタクトは、普通の大きさだったが、目がいい角畑は使った事もない。彼女が優しく両角膜上に装用してくれた。


「これで仮想現実VRへのダイビングの準備は整いました」


 オペレーター席の森井からアナウンスがある。堀田が腕組みしたままニヤニヤしているのが気に障った。


「ビハイヴへの楽しい旅を満喫してきて下さいね」


 その言葉を最後に、ふわっと意識が持って行かれた。

 

 経験した事のない感覚に思わず仰け反る。

 

 五感が一瞬にしてなくなり、逆さまにプールへ放り込まれたみたい。

 

 まるで、これは、あれだ、幽体離脱とかいう――――…………。





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