第13話

 堀田は何故、角畑を引き込もうとしているのか分からない。宵越しの金は持たない主義の角畑に貯蓄は、あってないようなものだった。

 好意的に考えると、自分だけ楽しむのは勿体ない……。是非、親友とビハイヴの素晴らしさを分かち合いたい、などと思っているのか。

 堀田は、いたずら坊主のような屈託のない笑みを浮かべると、唐突に言い放った。


「俺の記憶によると、確か……、お前の初恋の相手は井出久美子ちゃんって名前の女の子だったな、中学校の時に好きだったコは、藤井美代子ちゃん、そして高校の時、一途に思い続けていたのは、小林香ちゃんだったよな!」


 出しぬけに過去に好きだった女の子の名前を暴露され、角畑は動揺した。

 成就しなかった恋の方が、心に深く根を下ろすのは何故だろう。精神の奥底に、しまい込んでいた敏感な部分を目の粗いタオルで擦られて、そのままぐっと締め付けられたような気がした。


「何だ、藪から棒に……。三十過ぎのオッサンに向かってよぉ」


 角畑は、努めて冷静に振る舞って取り繕う。


「親友の俺に隠しだては不可能だ。すべて正解だろう、好きだった女子の名前は」


 堀田と森井は微笑んだ。彼女の方は、ヘッドベースに繋がる端末に何かを入力しているようである。


「詳細を調べるのに苦労しましたよ。親友さんと協力して一週間はかかりましたね。足りない情報は直接、角畑さんの記憶から掘り起こしましょう」


「おいおい、二人がかりで何勝手な真似をしているんだ!」


 不機嫌になった角畑とは対照的に森井はますます調子付いてきたようだ。


「ビハイヴ初心者には、この導入設定が一番効果的です。男性ならば、ほぼ全員イチコロですよ」


 森井はウインクし、隣の堀田は深く頷いたのだ。


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