第12話


「もう沢山だ。俺には分からん……要するにコンタクトをはめると、自由で理想的な楽園にトリップできるという事だろう?」


 堀田と森井は頷いた。


「さてと、本題だ。今日俺に頼みたい事があると聞いて、ここまで馳せ参じてきたんだが……用件は何なんだよ、堀田君」


 初めて足を踏み込む世界に圧倒され、緊張が解けなかった角畑だが、今ここでようやく冷静さを取り戻す事ができたのだ。

 堀田は、先に注文していたピザの箱を開け、ペットボトル入りの炭酸飲料を配った。もうデリバリーされて時間が経っていたので、ピザ表面のチーズは熱量を失い、溶け広がったロウソクみたいに固まっていた。


「……実は頼みというのは他でもない。ビハイヴを実際に体験してみて欲しい、とうのが用件だ」


 角畑は憤慨した。自分の仕事を放り出して駆けつけてきたというのに。

 ――全然、急を要するものじゃないじゃないか。


「帰って風呂にでも入るよ。じゃあな!」


 両襟を鼻先まで引っ張り上げ、服の汗臭さを嗅ぐジェスチャーをした。


「まあ、そんなに急がなくても。シャワーなら奥にあるから、浴びて帰っていいよ……カクさん! もし先に用件を言ったら、ここに来る事もなかっただろう? だからわざと伏せておいたんだ」


 堀田と森井は、YESと言わない限り家に帰さない心づもりなのか。どうやって説得したものかと、色々考えを巡らせているように思える。角畑は、冷めたピザを頬張りながら辺りを見回した。

 大きな溜息をついた後、しぶしぶ誘いに乗ってやる事にした。


「……で、どうすればいいんだ。気が変わらない内にレクチャーしてくれ」


 堀田と森井の二人は、顔を見合わせて喜んだ。

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