第11話
「……お前、目が悪かったっけ?」
堀田が答える代わりに、森井が会話に割り込んできた。
「ビハイヴにダイブするために必要なものが、コンタクトレンズなのです。もちろん普通の屈折矯正用ではなく、日本のナノテクノロジーが生み出した、バイオデバイスの塊なのですよ」
角畑は堀田からコンタクトレンズを見せてもらったが、どこにでも売っていそうな、何の変哲もない透明のレンズだった。
森井が嬉しそうに続けた。
「脳神経工学においてトップを走っている鮫島教授とジュリア・木山・ヴォーリズのコンビを御存知ですか?」
角畑は知っていた。
自動車整備士もエンジニアだ。最新テクノロジーのニュースは大好物なのである。
「確か、コンタクト・ドライブシステムを開発した二人だろ。コンタクトをはめるだけで、携帯電話なしで相手と通信したり、全く手を触れずに車を運転したり、遠隔操作できるっていう……」
堀田は、遊び疲れた顔でも拍手してくれた。
「カクさん、よく知っているな。ビハイヴは、その天才コンビが生み出したナノテク・コンタクトを軸とした仮想現実空間シミュレーターなんだ」
便乗して森井もしゃべる、しゃべる。
「脳と眼球の間には密接な関係があります。目から入力された視覚情報は、脳の後ろの方にある一次視覚野二頭射され、さらにWhat経路とWhere経路と呼ばれる2種の主な視覚経路に伝達されます。このうちWhat経路は視覚対象の認識や形状の把握、Where経路は位置や動き等、空間のどこにあるかの理解に関係していると考えられています。コンタクト・ドライブシステムはこの視覚経路に介入し……」
角畑はわざと大きな音を出してクシャミした。
森井の講釈が、一瞬にしてストップし、静寂がシンプルな部屋の中を支配する。
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