森井 真奈美

第9話

第三章 森井 真奈美


「ようこそ、角畑さんですね」


 窓のない部屋の中には堀田の代わりに、見た事もないモデルのような若い女性が待っていた。

 名刺を差し出す左手には指輪がなく、独身だと推測される。肩書は、シンニフォン社APW・システム総合プロデューサーと記入されていた。


 ハーフ系の綺麗な顔立ちはエキゾチックで、ピンストライプの制服がよく似合っている。脚も腕も全てが長く、ヒールを履いているとはいえ、身長百七十センチの角畑が見上げるほどだ。少し視線を落とすと、シャツの下からでも主張してくる豊満な胸が谷間を覗かせていた。


「はじめまして、私は森井真奈美と申します。堀田要さんを担当している者です。当社の提供する『人工的並行世界』とも呼ばれる『ビハイヴ』のナビゲーターなのですが……案内役だと思って下さって結構です。奥で堀田さんがお待ちしておりますよ」


 3LDKとおぼしき堀田の専用スペースは七十平米ぐらいで、一人で住むには充分過ぎるほどの広さだ。森井が示すリビング中央には、場違いなレースゲーム機の筺体のような屋根付きシートが鎮座していた。


「ヘッドベースまでどうぞ、角畑さん」


 部屋の奥まで行くと窓はあるのだが、プラスチックのシャッターが下りている。


「ヘッドベースだと?」


 暗めの室内で幻想的に浮かぶ黒いカーボン製のバケットシート。パジャマ姿で収まった堀田は、静かにリラックスしていた。スモークがかかった天蓋付きなので、表情までは分からなかったが、中を覗いてみると薄目を開けて起きているようだ。


「おい! 堀田!」


 声をかけたが、反応がない。寝ているのかと思って体を揺り動かそうと試みたが、森井にやんわりと制止された。

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